2014/11/30

3179:日曜日  

 11月最後の日である30日は日曜日である。その朝は穏やかなものであった。昨日降った雨によりアスファルトは濡れていた。朝日が昇り、緩い角度で太陽光が路面に当たると表面を覆う水によりキラキラと反射した。

 長い間悩まされていた風邪の症状は9割方回復していた。まだ喉と肺に少し違和感があり、時折咳きこむが、特に支障はないと感じていた。

 昨晩、スポーツジムに行って、風邪になるまでほぼ一日置きにこなしていたトレーニングを同じ内容でこなしても、普段よりも格別に疲れたという印象はなかった。

 朝起きだした時、体に少々重い疲労感を感じはした。しかし、フライング気味とはいえ、風邪によるOFFを切り上げた手前、「やはり、今日は走ろう・・・ロングを・・・」そう心に決めた。

 そして、サイクルウェアに着替え、サングラスをして、ヘルメットをかぶって、ORBEA ONIXに跨った。随分久しぶりにロードバイクに乗る。その走行感覚は懐かしくそして気分の良いものであった。

 西武多摩湖線に沿って走る遊歩道をゆっくりとしたペースで走った。濡れた路面には沢山の落ち葉が散っていた。そこに木の枝を抜けてきた太陽光が当たり、少しばかり幻想的ともいえる光景を見せてくれていた。

 家を出たのが7時3分。いつもよりもゆっくりと走ったので集合場所であるバイクルプラザに着いた時には7時27分になっていた。

 風邪が完全に抜け切ったとは言えない状態であったので、暖かめのウェアを選択していた。そのためか、店に着く頃には軽く汗ばむほどであった。

 今日の目的地は話し合いの結果、都民の森に決まった。往復で120kmほどの距離である。檜原村役場を過ぎたT字路を左折してから21kmほど走った先に都民の森はある。T字路を左折してから、前半は上り基調のアップダウンが続き、後半に入ると上りが続くようになる。終盤はきつめの上りとなる。体力を消耗するタフなコースである。

 私は比較的呑気に構えていた。病み上がりなので従前のような走りは出来ないまでも、そこそこ普通の走りは出来るのではないかと高をくくっていたのである。

 出発前には、今日のロングライドが今までに経験したことのないほどに辛いものになるとは想像していなかった。

 「都民の森への厳しい上りでは、従前のような坂バトルは今日はまだ無理だろうけど、ゆっくりめのペースでコンスタントに上れば、こなせるであろう・・・」と考えていた。

 参加者は5名。普段よりも短めのトレインを形成して走り始めた。玉川上水の流れに逆らう形で西へ向かった。玉川上水の両脇には木々が植えられている。葉は赤やオレンジ、黄色に色づき、はらはらと落ちていた。

 30分ほど走った頃「どうもおかしい・・・体が妙に重苦しい・・・まあ、病み上がりだからな・・・しょうがないか・・・」そんな事を少し感じ始めていた。

 玉川上水に沿って走る道は平坦な道である。それほど負荷がかかるわけではない。普段であれば何ということのない道である。しかし、油断すると前のメンバーとの間隔が開いてしまう。

 1時間ほど走った。「やはり、おかしい・・・こんなに脚が回らないとは・・・風邪の菌はまだしぶとく私の体内に相当数潜んでいて、こっそりと体を蝕み続けているのであろう・・・いや、2週間以上、仕事から帰るとすぐにベッドに潜り込む生活をしていたのであるから、体も鈍っているはず・・・それだけ、それだけ・・・」そんな事を頭に思い浮かべながら、最初の休憩地点の拝島駅のコンビニに着いた。

2014/11/29

3178:打ち切り  

 OFFは打ち切りである。「延長・・・延長・・・」と盛んに唱えていたが、無理やりにOFFをねじ伏せることにした。

 約2週間のOFFは決して快適なものではなかった。確かに体は休まったのかもしれない。しかし、のどの痛みに始まり、首回りの凝りに、全身の倦怠感、鼻水そして咳という様々な風邪の症状に苦しみ続けた2週間であった。

 最後までしつこく食い下がってきた咳には、今日も悩まされ続けた。特に午前中は「ゲホ、ゲホ・・・ゴホ、ゴホ・・・」とやっていて、家人に嫌われた。

 「お父さんまだ治ってないの・・・咳する時は、こっち向かないで・・・もうちょっと離れて・・・」といった具合に除け者にされる始末である。

 しかし、夕方になると咳も収まった。「これなら、大丈夫だろう・・・もうOFFは終わりにしたい・・・夕食を食べたらジムへこっそり出かけよう・・・」そんなことを考えながら食事を終えた。

 そして、そっと家を抜け出して車に乗りこみ、スポーツジムへ向かった。久し振りである。ローッカールームで着替えた。そしてマシーンが並んでいるエリアに向かった。

 今までは特にこれといった感慨もなく座っていたエアロバイクであるが、久し振りの今日は少し新鮮に感じられる。

 スポーツドリンクをドリンクホルダーに入れた。スマホから伸びたイヤホンを耳に差し込み、Youtubeでたまたま見つけた「車坂峠ヒルクライム2013」というどこの峠が分からない峠で行われたヒルクライム大会の車載カメラ映像を観ながらクランクを回し始めた。

 前半の30分は軽めの負荷で、後半の30分は少し負荷を重くして、クランクを回し続けた。エアロバイクの表示板には心拍数や消費カロリー、回転数などが表示される。

 さらに体重と年齢を入力すると、心拍数に応じて「ウォームアップ」「脂肪燃焼」「心拍強化」「危険」の4段階での点滅式のレベルメータが表示される。

 トレーニングを始めて15分ほど経過すると「心拍強化」にまでその明滅ランプは達する。そして30分もすると「危険」エリアのランプが点滅する。

 後半の30分はほとんど「危険」エリアを推移する。年齢から想定される最大心拍数の80%を超えると「危険」エリアに突入するようである。

 トレーニング中の心拍数は160〜170ほどである。それほど過大な負荷をかけているわけではない。しかし、エアロバイクの表示では「危険」の判定となる。

 「もう歳なんだから、たいがいにしなはれや・・・」と諭されているような気にもなる。「俺は危険な男だからな・・・危険が好きなんや・・・」そんなわけの訳の分からない事を頭の中で呟きながら、危険エリアのオレンジ色のライトの明滅を見つめている。

 60分のトレーニングを終えると汗びっしょりである。5分間のクールダウン・・・負荷はぐっと下げて、ゆっくりとクランクを惰性で回す。

 「ゴホ・・・ゴホ・・・」トレーニング中は出なかった咳が2回出た。まだ喉の具合はしっくりとはこない。残り2分となった「ゲホ・・・ゲホ・・・」また咳が出た。

 「OFFの無理やり気味の打ち切りは、勇み足か・・・」そんな囁きも頭をよぎる。「いや、いや・・・そんなことはないはず・・・OFFは付け入る隙を与えると、きっと増長する。ヘッドロックをかませて、一気にねじ伏せないと・・・」そんな事を思ってクールダウンを終えた。顔は熱で紅潮していた。汗はポタポタと床に落ちていった。脚の筋肉にはジーンと痺れたような感覚が広がっていた。懐かしい感覚である。「ゴホ・・・ゴホ・・・」三度咳こんだ。

2014/11/28

3177:Audi  

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 ドイツ本国では、Audi A6がマイナーチェンジを受け、顔つきが少し変わった。このマイナーチェンジ後のA6は、日本には来年の春以降に導入される予定である。

 Audi A6はMercedes-Benz EクラスとBMW 5シリーズを直接のライバルとする。ドイツ本国ではこれら強力なライバルと互角の戦いを繰り広げているが、日本ではまだ大きな差がある。

 従前AudiはVWと併売されていた期間が長かった。また、YANASEが扱っていたさらにその昔には、御主人にはMercedes-Benzを売り、奥さんが乗るセカンドカーとしてAudiを売る、といった販売戦略がとられていたりしたため、Audiのブランドイメージは日本ではなかなか上がらなかった。

 10年ほど前からであろうか、日本でもAudiブランドのイメージ向上のために、様々な施策が積極的に行われるようになってきて、そのブランドイメージが徐々に上がってきた。しかし、売れているのはA1、A3、A4であり、A6とA8は日本では成功しているとは言い難い。

 A6のマイナーチェンジであるが、大きく変わったというほどの変化ではない。造形そのものはほとんど変化していない。

 フロントライトのLEDの構成が変わったのが一番目につくところであろう。従前はそのLEDの配列がフロントライトの造形ラインに沿うような形に曲線を描いていたのが、今回は直線基調になり、よりシャープな感じで描かれている。

 これだけでも印象が随分と変わるものである。このLED配列により目つきがより鋭くクールになり、フロントフェイスから受ける印象が冷徹なものになった。

 インテリアについても同様に大きな変化は感じられない。当然細かな見直しはされているのであろうが、写真を見る限り受ける印象に大差はない。

 このマイナーチェンジがA6の日本における販売台数をぐっと押し上げることにはならないであろうが、Audiブランドのクールなイメージをより定着させる役割は果たしそうである。

 そういえば、最近街で見かけるAduiのほとんどは白である。もしかしてここ2,3年で販売されたAudiの90%は白なのではないであろうかと思えるほどである。

 ドイツプレミアムブランドの御三家の中で一番白の販売比率が高いのはAudiではないかという気がする。Audiのシャープでクールな造形には白が似合うのであろうか・・・改めて考えてみると、「そうかもしれない・・・」という気にはなる。

2014/11/27

3176:オフ  

 風邪の症状はまだ続いている。先々週の金曜日から続いているのでもう2週間にもなる。こんなに長く続いたことは今までにない。今年の風邪の特徴なのであろうか・・・あるいは歳か・・・

 喉の違和感はまだとれない。時折咳がでる。後頭部から首周りにかけてだるさがあり、体を倦怠感が覆う。

 熱は出ない。寝込むほどの辛さではないので、仕事は休めない。それがいけないのか、仕事を終えて家に帰り着く頃には結構疲労感がどっしりと体を押しつぶしてしまっている。

 当然この2週間は、それまで細々と継続していた「一日置き作戦」は停止している。約1年ほど継続していたのこの作戦により、登坂能力は徐々に上がってきていただけに、残念である。小石をコツコツと積み上げてきて、塔のようになっていたものが、がらがらと崩れていくような感覚である。

 しかし、ここで無理をすれば、風邪の罹患最長記録をさらに更新することになる可能性がある。ここはじっと我慢して、どうにかこの風邪地獄を脱出したいものである。

 風邪の症状のピークは越えている。8割がたは直っているのである。しかし、最後の2割をラストスパートをかけて振り切ることができない。

 どうにか今週中にはこの状況を脱したい。そして来週からは以前のようなペースでのトレーニングに戻りたいものである。

 冬の時期はロードバイクにとってはオフシーズンである。この2週間と数日はオフと捉えて体を休める。この休息期間により、走ることに対する意欲を高める。そしてオフ終了後、再度体を鍛え始める。そんなことを頭に思い浮かべて、自分の焦りを鎮めている。

 「早く走りたい。ロードバイクに乗って・・・疾駆したい。」

 そういった思いとは裏腹に体の倦怠感はなかなか取れてくれない。この2週間で体が緩み始めるのが分かる。やはり少々寂しいものである。

 「もう少ししたら、この風邪が直ったら、また締めあげてやる・・・」そんなことを思いながら、今晩もぐったりと疲れた体をベッドに横たえた。

2014/11/26

3175:カントリーマン  

 プリアンプをMarantz7に替えて、先ほどと同じレコードを聴いてみた。Marantz7は電源を入れたばかりであり、まだ充分な暖気運転が済んでいない状態であったので、ヴァイオリンの音色に生硬さが残っていたが、よりエネルギー感、スピード感のある音を放出した。

 LEAK TL-10との組み合わせに関しては、両者ともに拒否反応といったものは一切感じられず、比較的スムースに握手している様が連想された。

 2枚ほどレコードを聴いてみた。まだMarantz7の暖気運転が済んでいないので本来の性能を発揮できていない感じがした。少しMarantz7のTELEFUNKENをアイドリングさせて十二分に暖まるのを待つ意味合いでコーヒーブレークを入れた。

 真空管アンプは電源を投入して1時間ほどすると音がその本来の持ち味を発揮し始める。電源を入れたばかりではなんとなくそのエンジンの回転がスムースではないのである。

 再度レコードをかけてみる。先ほどよりも音の角の鋭角さが消え、音に馴染みが出ている。まろやかな人肌感も加わり、Marantz7本来の性能は発揮され始めたようである。

 その音はアメリカを感じさせる。アメリカの都会の風景が目に浮かぶかのようである。高層ビルが立ち並び、道路には車が行き交い、地下には地下鉄が唸りをあげて走っている。道行く人々は、足早に歩き、皆しっかりとした目的地と目的意識を持って先を急いでいる。時間の単位のスピードは本来はどこであっても公平な長さではあるが、ここではより早く秒針が回るような感覚にとらわれる。

 そういった繁栄し積極的に活動する都会の風情が音から感じられるような気がした。物量を贅沢に投入し精巧な設計によりその持てる性能をしっかりと音に反映させる。そこに込められた意思の強さのようなものが、LEAK Point One Strereoとは桁外れであるような気がした。Marantz7は、やはり素晴らしいアンプである。

 Marantz7の音を堪能した後、最後にもう一度LEAK Point One Stereoに戻してみた。そしてマーラーを聴いた。

 田舎道をゆっくりと走るオースチン ミニ カントリーマンが目に浮かんだ。ところどころ緩やかに曲がる道をオフホワイトのミニ カントリーマンがゆっくりと走っていく。

 周囲には広々とした田園風景が広がり、空は快晴ではないが雨の心配はないような空模様・・・特に先を急ぐというふうでもなく、その白く小さなステーションワゴンは乾いたエンジン音を響かせている。

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 LEAK Point One Stereoからはそんな牧歌的ともいえる英国風景が醸し出される。音のベースの色合いは茶色である。そのベースの上に淡いグレーやクリーム色、くすんだ感じの水色などが重層的に加わっていく。決してシルバーや黒、発色の良い赤などの色彩は加味されない。

 とても有意義な聴き比べが出来た。少し前にもLEAKとMark Levinsonのプリアンプを聴き比べる機会を持ったが、プリアンプでがらっと変わる音世界に、オーディオの面白さを再認識した。

 「しばらく私はミニ カントリーマンのあの朴訥としていて洗練さも感じさせるインパネを眺めながらそのハンドルを握っていよう。そのフロントガラスから見える風景をまた違ったものに変えたいと思う時が来るまでは・・・」そんな気持ちでPoint One Stereoの優雅なフロントパネルを眺めた。

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2014/11/25

3174:7  

 RCAショートピンは、使っていないRCA入力端子にはめ込んで使う。我が家のオーディオ・ソースは一つしかない。使っているのはPHONO入力のみで、TUNER、EXTRA、TAPEの三つの入力端子が空いている状態であった。

 2セットのショートピンをTUNERとEXTRAにはめ込んだ。TAPEにも試したが感度が高く設定されているようで、ショートピンを差し込むとハム音が生じたため、TAPE入力端子には何も設置しなかった。

 この状態で、先ほどかけたヘンデルのヴァイオリンソナタ第4番のレコードを再度かけてみた。「変わるな・・・」「これは効きますね・・・」ものは小さなものであるが、その影響度合いは「山椒は小粒でピリリと辛い・・・」という感じである。

 ヴァイオリンのエネルギー感がアップして強く出る。音の背景がすっきりとして晴れやかな雰囲気に・・・しかし、ヴィンテージらしい奥ゆかしさはぐっと後退・・・自己主張をしっかりとする強い女性という雰囲気である。

 気になったのはTAPE入力。かなり感度が高く設定されているようで、ここから外来ノイズを吸い込んでいる可能性はかなり高い。

 そこで、ショートピンの真ん中の突起部分を外すと、ショートピンではなく単なるRCAカバーとなる多機能性を利用して、RCAカバーをTAPE入力端子に装着した。

 TUNERとEXTRAのショートピンは外した。この状態で再度レコードをかけた。SNが良くなるのは前回同様であるが、その自己主張度合いは少しゆったりとした。まだ奥ゆかしさをも感じさせる。

 「これなら、良いのでは・・・」という気がした。やりすぎると、音の硬度がアップしすぎてしまう傾向はあるが、うまく調整しながら使うと良い方向へ持っていけそうである。「これは使える・・・そして変化する度合が相当強い・・・」そう感じさせるアクセサリーである。

 そして、次なる検証へ移ることに。銘機MERANTZ 7の登場である。shanshanさんのMarantz 7は最初期型。「300番台」のシリアルナンバーを持つ貴重な7である。

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 ウッドケースには入っていない。今のプリアンプの基準からみるとコンパクトな形状と言えるかもしれない。しかし、LEAK Point One Stereoを見慣れている眼からすると、かなりごつい感じがする。

 その作り込みはしっかりとしていて、でんと構えている感じがする。「かっかってきなはれ・・・」といった声が聞こえてきそうな佇まいである。

 LEAK Point One StereoにMC昇圧トランスから繋がれているRCAケーブルとパワーアンプへ繋がる専用ケーブルを外し、Point One Stereoを床に置いた。

 Marantz 7を替わりにGTラックの天板に据えて配線を整える。これでプリアンプ:Marantz 7、パワーアンプ:LEAK TL-10という、かなり珍しいと思われる組み合わせによる音の確認作業の準備が整った。

 先ほど純正LEAK組み合わせで聴いたヘンデルのヴァイオリンソナタ第4番のレコードを再び取り出し、LINN LP12のターンテーブルに乗せた。そして、針をゆっくりと盤面に降ろした。

2014/11/24

3173:70倍  

 風邪をすっかりとこじらせてしまった。そのため2週続けてチームでのロングライドにも参加することができなかった。

 「今年の風邪は強い!」

 「そいつは厄介だな・・・福富!」

 「いや、かまわない・・・俺も強い!」

 ふと頭にはそんな「弱虫ペダル」風の会話が流れ去った。しかし、残念ながら私の体に蓄積されていた風邪への抵抗力はそれほど強いものではなく、猛威を振るう風邪の威力の前に早々に白旗を掲げる破目に陥ってしまった。

 昨日一日ベッドで過ごし、風邪をやり過ごした。その甲斐あって、少しは風邪の症状も峠を越したようである。

 ロードバイクで峠を越える場合には必死にクランクに力を込めないといけないが、風邪の症状の峠を越えるには、薬を飲んでベッドに横たわり、ひたすら体を休めるしかないのである。

 今日の午後には、オーディオの友人が二人、我が家に来てくれることになっていた。風邪の症状は、喉の痛みと、体の倦怠感がまだ残ってはいるが、ベッドに横たわり続けるほどに厳しいものではなく、どうにか大丈夫そうであった。午前中はゆっくりと体を休めることにした。

 午後の3時半・・・shanshanさんとチューバホーンさんが車でいらした。そしてshnashanさんは両手でとあるものを大事そうにその愛車から降ろして、運びこんでくれた。それは、Marantz 7である。

 LEAKのプリとパワーの間は専用ケーブルで接続される。その専用ケーブルは音楽信号をプリからパワーへ伝達するとともに、パワーからプリに電源を供給する役目も担っている。

 この時代のイギリス製品の多くはプリ・パワーを別々に機能させる意図はなかったようで、セットで使用することを前提として開発されていたようである。

 しかし、パワーアンプに特殊なアダプターを使用するとRCAケーブルによる音楽信号を入力することができ、LEAK以外のプリアンプとの組み合わせによる使用も可能となる。そのアダプターを既に入手していた。

 そこで、shnashnaさんがお持ちの銘機Marantz 7と我が愛機LEAK Point Oneとの聴き比べが可能となったのである。

 7 VS 0.1 ・・・数字の比較で言えば、70倍の開きがある。一般的なオーディオ愛好家100人がいれば、70人はMarantz 7のことを知っているであろう。一方100人のうちLEAK Point Oneのことを知っているのは1人ぐらいかもしれない。一般的な認知度から言えば確かに70倍ほどの開きがあるのかもしれない。

 まずは現状のシステムでレコードを2枚ほど聴いて頂いた。ローラ・ボベスコのヴァイオリンによるヘンデルのヴァイオリンソナタ第4番。ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロによるエルガーチェロ協奏曲。

 お二人はGRFが我が家に到着したばかりの時に一度聴きに来られた。その時はユニットもキャビネットも凝り固まっていた時期で、GRFらしい豊かな響きとは程遠い状況であった。

 それから半年と少し経過した。数年間もの間沈黙を守り続け凝り固まってしまったモニターシルバーも少しづつほぐれてきた。そして、製作から60年もの年月を経過したキャビネットもその響きの作法を少し思いだし始めたようであった。

 「ユニットもキャビネットも響くようになりましたね・・・」

 「前回は、これは難しそうだ・・・と思いましたが、良かったですね、鳴り始めて・・・」

 GRFらしさが発現され始めた様子にお二人とも安心された様子であった。

 ほっと一息入れたところで、使いこなしに関する二つの検証が行われることになった。一つはチューバホーンさんがお持ちになった「ショートピン」の検証。そして、もう一つは「プリのみMarantz化」の検証である。

2014/11/23

3172:18  

 Mark Levinson ML-6はウッドケースに綺麗に収まっていた。完全なるモノラル構成であるので躯体が2個ある。それが2階建てになったウッドケースに大人しく上下に分かれて収まっている様はどこかしら可愛げがあった。

 この時代のMark Levinsonは黒いパネルフェイスを持つものがほとんどであるが、ML-6はシルバーのパネルフェイスを持っている。その色合いが特別な存在感を醸しているようにも感じられた。

 パネルフェイスに装着されているつまみは2個、極めてシンプルである。「清廉」という形容詞が思わず頭の中に浮かぶ姿形である。

 電源部もLRにそれぞれ1個づつあり、細長い長方体には赤い小さなランプが2個光っていて、静かに「準備完了」という意思を表示していた。

 送り出しであるROKSAN XERXES 10にはSME 3009Rが装着されていた。独特のメッシュ形状を持つSMEのシェルの中には、ORTOFON MC20がひっそりと休むように取り付けられている。

 オーディオショップ・グレンの長方形をした部屋の短辺の両コーナーには、コーナー型のキャビネットを持つTANNOY LANCASTERが臨戦態勢で備えていた。その流麗な形状のオリジナルキャビネットの中には15インチのモニターゴールドが備わっていた。

 リスニングポイントの置かれた黒い革製の3人掛けソファから見て、右サイドに据えられている木製のラックにはそれら以外にも幾つかの機器が並んでいた。LEAK Point One StereoとLEAK TL-12PLUSにもオレンジ色の灯りがともされていた。

 LANCASTER以外のスピーカーの在庫は2セットあった。Spendor BCUとTANNOY Chatsworthは互いに前面を向い合せにされてリスニングポイントの背面の壁に寄せられていた。

 「どうこのプリ、存在感あるよね・・・LEAKやQUADとは全く違う質感だけど・・・まずは、Pont Oneで鳴らしてみて、ML-6に切り替えると、分かりやすいよね・・・」

 グレンのオーナーはそう言って、まずはLEAK Point One StereoとTL-12 PLUSの純正組み合わせでレコードをかけた。かかったレコードはスザーネ・ラウテンバッハのヴァイオリンでヘンデルのバイオリンソナタ第4番。

 第1楽章から第4楽章まで通して聴いた。「手入れの行き届いたLEAKはやはり良いな・・・」そう思わせてくれる。

 そして、配線を変更して、Mark Levinson ML-6とTL-12 PLUSの異種格闘技的な組み合わせに変えた。まあ、この店でなければこんな組み合わせでの試聴体験はまずあり得ないであろう。

 「高域が伸びた・・・低域はややスリムに・・・空気が澄んでくる・・・派手な華やかさはないが奥ゆかしい構成美が感じられる。音の表情はきりっとして緩まない。凛々しくもある。にこやかさはないが、気品が感じられる。温度感はやや低くなったというべきであろう。よく最近の若者は草食系と譬えられるが、草食系という形容詞も思い浮かぶ。あるいはそのパネルデザインを見た時に思い浮かんだ清廉という形容詞が・・・繊細で気品がある。音の線はやや細身になるが、きつさを感じさせるようなことはない。」私の頭のなかでは様々な言葉が炭酸水の泡のように浮かんでは消えていった。

 同じ曲を聴き終えた。「どう・・・?悪くはないでしょう・・・」グレンのオーナーはそうつぶやいた。

 「絶対に合わないと思っていましたけど、聴いてみると意外と合うという印象でしょうか・・・良くテレビで変わった組み合わせの料理とかをタレントが食べて・・・意外・・・といった表情で『これ、ありかも・・・』ってコメントするじゃないですか・・・そんな感じでしょうか・・・」

 ショップには1時間ほどいた。その間「異種格闘技」で何枚かのレコードを楽しんだ。きっと二度と聴くことのない組み合わせである「6」と「12」・・・6の倍数である両者、その合計数は確かに「18」になっていたように感じられた。

2014/11/22

3171:好奇心  

 ドビッシーの海を聴き終えた。時間にして20分と少しである。コーヒーカップの中のコーヒーは既に無くなっていた。

 私は女主人に礼を言って、コーヒー代を払った。ブレンドコーヒーの値段は400円であった。「しかし、よく壊れることなく動いていますね・・・このラジカセ・・・随分と古いものでしょう・・・」

 私がそう言うと、女主人は「2,3度壊れたみたいですよ・・・主人がね、誰かに頼んでその都度直してもらったみたい・・・こんな古いものでも直せる人がいるみたいで・・・主人の形見のようなものなのでね・・・まだ大事に使っているんですよ・・・」と答えた。

 「そうでしたか・・・そうですよね・・・もう40年ほど経つ製品ですから、全く壊れないということはないですよね・・・今でも直せるんですね・・・でも、とても良い音でした・・・優しい音ですね・・・」私はそう言って、店の扉の方へ向かった。

 「また、いらしてください・・・テープはいっぱいあるんですよ・・・ああいったテープが300本ぐらいね・・・」

 女主人の声を背中で聞くようにして、店の外に出た。そしてこのビルの階段の方へ足を向かわせた。2階は「光通商」という名前の会社が入っている。その前を通り過ぎて3階へ・・・3階は空いている。

 ようやく4階に着いた。この5階建てのビルは古く、エレベーターがない。4階の扉の前には「オーディオショップ・グレン」と書かれた小さめの看板がかかっていた。

 「面白いものを今預かっているんだ・・・売り物ではなくて、客からオークションで売却するよう代行依頼を受けたものでね・・・結構良い値段で売れそうなんだけど・・・マークレビンソンのML6っていうプリアンプなんだけど、預かっている間、おもしろそうだと思って、LEAKのパワーアンプに繋いでね聴いてみたんだ・・・まあ、これがね・・・意外と合うかもしれない・・・という感じでね・・・1週間ほど預かることになるけど、時間がある時に聴きにこない?」

 オーディオショップ・グレンのオーナーから私の携帯に連絡が入ったのは3日前であった。「ML6か・・・その当時究極とも言われたプリアンプである。LEAKのパワーアンプと合わせるって、かなり異例というか、あり得ない組み合わせだな・・・とても合うとは思えないんだけど・・・」そうは思ったが、私の好奇心は自然と膨らんでいった。

2014/11/21

3170:カセットテープ  

 使い古されたコーヒーポットはとても細長い管状の注ぎ口を持っている。そこからお湯が細長い曲線を途切れることなく描き、ペーパーフィルターにまるく堆積したコーヒーの粉の中に落ち続けた。その優雅で華奢とも見える曲線は大きな円を描くことはせず、ほぼ固定された一点に投入され続けた。それはしっかりとした意思を持っているように見え、流浪することをきっぱりと拒否しているかのようであった。

 ゆっくりと抽出された黒い液体はあらかじめ余ったお湯で温められていたコーヒーカップに移された。白地に紺色の細い線で幾何学模様が描かれたカップは、同じ柄のソーサーに乗せられて、私の手元にもたらされた。

 「おまちどうさま・・・」

 女主人はゆっくりと喋り、そしてゆっくりとコーヒーカップをカウンターテーブルに置いた。陶器のこすれあう繊細な響きとともに、コーヒーのどこかしら精神を清浄する効果があるように思われる香りが届いた。

 それほど期待していたわけではなかったが、コーヒーの味は満足すべきものであった。あまり雑味のない、そう少しばかり清涼感すら感じられるそのコーヒーの味わいは、私の舌の無数の小さな突起を優しく梱包した。

 私が座った席から見て斜め左45度あたりのところに、くだんのSONY CF2580は置かれていた。カウンター席は外に面した窓や出入り口から遠く、店内の照明は押し並べて暗く密やかなものであったので、CF2580もぼんやりとした空気の中に佇んでいた。

 コーヒーを一口、二口、そして、三口ほど飲んだであろうか・・・女主人は小さな横長の箱を取り出して、私のコーヒーカップの横に置いた。

 「カセットテープ、聴いてみますか・・・それは亡くなった主人が集めていたものの一部なんですよ・・・」

 その横長の箱の中には昔市販されていたミュージックテープが10本ほど入っていた。映画音楽があったり、歌謡曲のテープもあった。変わったところではYMOのミュージックテープも入っていた。そしてクラシックも数本あった。

 私が目を止めたのは「ドビュッシー:交響詩 海」と背表紙に日本語で印刷されていたテープである。それを手に取り裏返して裏面を見ると、「(SIDE-A)交響詩「海」:1.海の夜明けから真昼まで/2.波のたわむれ/3.風と海との対話 (SIDE-B)夜想曲:1.雲/2.祭り/3.シレーヌ(海の精)(女声合唱) エルネストアンセルメ(指揮)/スイスロマンド管弦楽団」と表記されていた。

 「これを聴いてみてもいいですか?」私はとりだしたミュージックテープをちらっと女主人に見せて、訊いた。

 「ええ、どうぞ・・・音量は小さめで・・・」くぐもった声を持つ女主人はこちらに軽く一瞥をくれてから、答えた。

 そういえば、店内にはBGMは全くかかっていなかった。有線放送の機器もなく、音を出せる機器というのは、この左前方に置かれたCF2580しかないようであった。

 私はカセットケースをゆっくりと開けてカセットテープを取り出した。何かしら心許ないくらいに軽い。そしてかわいらしい顔立ちをしているように感じられた。

 カセットテープを手にとるのは随分と久し振りのことである。懐かしかった。CF2580のイジェクトボタンを押してカセットテープを収納する蓋を開けそこにカセットテープを入れ込んだ。そしてその蓋を手で閉めた。

 プレイボタンを押した。テープはスムースに回転を始めた。音の入っていないリーダーテープ部分が「サ〜」という静かな走行音を響かせながら過ぎ去っていき、やがて音楽が収録されている部分に達した。

 海の夜明けを描いた導入部は静かに始まる、やがて印象的な旋律を持つ幾つかの主題が流れ始め、徐々にその繊細にして雄大な標題音楽は全貌を見せ始める。

 一番左側にあるボリュームノブを調整して、あまり音量が大きくならないようにした。CF2580からは清涼な音楽が流れた。「色とリズムのある時間」としての音楽は優しげな横顔を見せてくれる。CF2580で聴くミュージックテープは予想以上に私の聴覚を優しく愛撫してくれる。

 「今度は、私の番・・・・」といたずらっぽく言って、「寧々ちゃん」がその舌先を私の首筋にゆっくりと這わせる時に感じるような、すとんと陥穽に軽く落ちるような感覚にとらわれた。



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