2014/6/2

2998:122  

 10kmから15kmまでの5km・・・やはり脚が重くなってきた。心拍数は前半同様170ほどで推移していたが、脚と体全体の疲労度は確実に積み上がっていた。少し油断すると体は自律的に休息しようとする。

 気をしっかりと持って心拍数を注視した。170を切って160台の数字になると、ダンシングに切り替えて、心拍数を上げた。

 そんなことを何度も繰り返した。呼吸はすでにいつものように激しく忙しないものにすっかりと移行していた。

 数多くのローディーがこの苦難を乗り切るためにクランクを回し続けていた。たまたま居合わせたそういったローディーのなかには、ペースがほぼ同じ人もいる。

 5km過ぎ辺りから、付かず離れず、抜いたり抜かれたりを繰り返していた男性がいた。LOOKのロードバイクに乗っていて、呼吸音が私同様「騒音基準」を超えるような感じであった。その呼吸音を聞いていると「自分だけじゃないんだ・・・」とちょっと安心した。

 10kmから15kmまでの5kmは、前半の10kmよりもペースが少し落ちたようであった。15km地点の通過タイムは59分7秒と頭のなかの例の数字と比べると2分近く遅れていた。

 しかし、まだ可能性の細い糸は切れたわけではない。カンダタが必死にしがみついている蜘蛛の糸のように危なげではあるが、まだ切れてはいなかった。

 次のチェックポイントは20km。20kmまでの5kmを乗り切れば、あとは自然とアドレナリンの力を借りて、上りきれるような気がしていた。

 しかし、「試練」は待ち構えていた。カンダタのように「この蜘蛛の糸は俺のものだ。下りろ!」と叫んだりはしなかったが、その細い可能性の糸にはすでに切れ目が入っていたようであった。

 猛禽類の目を持つ「試練」は、大空を羽ばたきながらめぼしい獲物をこれと定めると獲物の背後から急降下してくる。そして、鋭い爪を遠慮容赦なく突き立てる。

 20km地点にあと数キロとせまった時であった。左胸に違和感を感じた。「もしや・・・」と思い、サイコンの心拍数に目をやった。

 そこには「122」と表示されていた。少し血の気が引いた。「ここでか・・・!」心のなかで鋭く呟いた。

 エンジンの回転は規則正しく力強いものではなくなっていた。その規則性は乱れがちで、出力されるパワーはすっと下がっていった。呼吸も浅くなった感じである。

 心臓の鼓動がその整然としたリズムを保てなくなったために、心拍計が電気の変化を正確に読み取れなくなったのであろう。表示されている122の心拍数では、とてもこの負荷を担えるわけがない。

 クランクを踏み込む力を2,3割減じた。そして、深呼吸を繰り返した。「戻れ・・・早く、戻れ・・・」心のなかで念じながらペースダウンした。

 LOOKの彼は、相変わらず激しい呼吸音を響かせながら少し前を上っていたが、その背中は徐々に小さくなっていった。

 3分ほど経過したであろうか、半クラッチ状態で滑っていたギアがようやく噛み合った。サイコンの心拍数が「165」に変わった。アクセルを踏み増していった。遅れた分を取り戻そうとするが、心のなかには空洞の穴が少しばかり広がっていた。 



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