2014/3/14

2919:黒布  

 TANNOY GRFのサランネットボードを外してみた。サランネットボードはその上部に差し込みの小さな突起が2カ所あるので、その下部を手前に引くようにすると外れる。

 そのサランネットボードをゆっくりと脇へどけた。モニターシルバーの見目麗しき素顔を拝もうと思ったのであるが、そのユニットは黒い布で覆われていた。

 「この黒い布は何だ・・・何の目的で取り付けてあるのであろうか・・・取り去るべきか・・・このままにしておくべきものなのか・・・」

 これはどうすべきか迷った。薄いものとはいえ布がユニットを覆っていれば音抜けが悪くなるような気がする。しかし、もしかしたら音響的な特性を考慮してあえて調整手法の一つとしてこの黒い布が活用されている可能性もある。

 こういった疑問点は「TANNOY同盟」の諸先輩に訊くに限る。すぐに回答は得られた。この黒い布はモニターシルバーの初期型には必ず付いているもののようである。

 初期型モニターシルバーにはセンタキャップがなく、ユニットの真ん中は穴が空いたようになっている。そのため埃除けが必要であり、この布の目的の一つが埃除けである。

 また黒い布をつけた状態で音決めがなされており、本来のシルバーの音は布がついた状態のものである。布を外すとガイ・R・ファウンテンが意図した音からずれる可能性があるとのこと・・・

 なんということのない薄い黒い布であるが、モニターシルバーには貴重なものなのである。後期型になるとセンターキャップが付いて、この布は装着されなくなったようである。

 しかし、このままだと一度もモニターシルバーの素顔が拝めない。それはそれでいかがなものかという思いがふつふつとわき上がってきた。

 「また元に戻せばいいだけの話であるから・・・」と思い、その黒い布をとってみることにした。布をきゅっと収縮させユニットに固定している紐を解いた。そしてそっとその布を取り去った。女性の下着を優しく取り去るときよりも慎重にその黒い布は外された。

 モニターシルバーが眼前に現れた。そのユニットは見る人によっては神々しい姿にも映るであろうし、興味のない人にとっては単なる骨董品にも見えるものであろう。もちろん私の目には神々しく映った。

 確かにその真ん中には穴が空いていた。その奥は暗くなっていてよく見えない。部屋の白熱灯の明かりだけでは、単に奥深く暗い穴が貫通しているようにしか見えなかった。

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 そこで私は小型のLED式のペンライトを持ってきた。これはルーペでカートリッジの針先を確認するときに使っているものである。これで針先を照らすと、ルーペにはきらきらと光り輝く針先がはっきりと見える。

 LED式ペンライトは後端部にスイッチがある。そのスイッチを押した。一直線に白いまぶしい光が放射された。

 その光の帯をユニット真ん中に穿たれた穴に向けた。そして覗き込んだ。狭い洞窟か何かのような光景が確認できた。

 その秘境を眺めていたのは数秒間であったであろうか・・・そろそろもういいか、と思い始めてLEDペンライトのスイッチに右手の親指をかけた時であった。すすすっと音もなくこちらに進んでくる物体が見えた。

 驚いて見つめるその先には八つの目が光っていた。顔らしき楕円形の真ん中上部に二つの大きな目が寄り添い、その左右に3個づつの小さな目がシンメトリックに配置されていた。その八つの目はLEDのライトを反射し黒く光っていた。それは「あの時」に目にした黒い蜘蛛であった。

 「こんなところに潜んでいたのか・・・!!」心の中で驚きの声を上げた。

 そしてその瞬間、モニターシルバーに黒い布が必要な隠された理由が分かった。この黒い小さな蜘蛛をユニット内に閉じ込め外に出さないためであったのだ。

 では何故「あの時」蜘蛛は外にいたのであろう・・・きっとあの岐阜県のことばかり話すオーディオショップの店員がこの黒い布を外してしまっていたからであろう。

 蜘蛛は逃げ出すこともできたはずである。しかし、この蜘蛛は私の目の前で自らモニターシルバーの暗い穴の中へ舞い戻った。その行動が、蜘蛛が本能的に持つ帰巣本能からなのか、あるいはモニターシルバーに留まって妙なる音響を奏でる一助となる役割に対する使命感からなのかは不明である。

 私は蜘蛛の複数の眼を見ながら小さく頷いた。LEDペンライトの光を消し去り、ユニットを元どおり黒い布で覆った。アイボリーの色合いの紐をきゅっと引いてその布の周囲をユニットに固定させ、その紐を蝶結びにした。

 サランネットボードを静かに元の位置に差し込み終えた時、かすかな足音が聞こえたような気がした。きっと蜘蛛がユニットの穴の奥深くに戻ったのであろうと推測した。



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