2014/2/28

2905: 33 1/3r.p.m.  

 アームをSMEに変えるには、アームボードをSME用のものに変える必要がある。それは一般に市販もされていて、それほど高いものではない。SMEの3009SUそのものも中古で探せば、アームとしては高価とは言えない。

 現在市販されているアームは、いわゆるエントリークラスに分類されているものであっても、それなりの価格である。高級なものになるとびっくりするくらい高価である。数が出る商品ではないので、高価になるのもしかたがない面もある。

 そういった高価な価格からすると、中古市場で見かけるSMEのアームの価格が妥当なような気がしてしまうのは、一種の「錯覚」であろうか・・・

 アームを現行のEKOSからSMEに変える場合、問題はKEELである。KEELはアームボードと一体化されているため、LINNのAKITOかEKOSしか使えない仕様になっている。

 LINNの『囲い込み戦略』の一環であろう。私がKEELを導入したのはもう5年ほど前のことになる。従前の部品も保管してあるので、元の状態に戻すことは可能である。

 さらにカートリッジをSPUにするには、SME3009SUに専用の追加ウェイトが必要である。これも中古市場を隈なく探せば見つかるであろう。

 SMEのコネクターは独自規格である。専用のケーブルが必要である。アームに付属しているはずであるが、これはLINNの内蔵型フォノイコライザーとは適合しないであろう。

 そうなるとKEELを外し、内蔵フォノイコを外し、グレードアップ前の素のLP12に戻すことになる。となるとモーターも従前のタイプに戻したほうが全体のバランスもとれるであろう。モーターも従来型のものを取ってあるので、作業そのものはそれほど大変なことではないはず。

 アームをSME3009SUに変えると、結果としてLP12は一気に時代をさかのぼることになる。LP12、SME3009SU、SPUという組み合わせからは、しっかりと70年代の香りが漂う。

 Aさんの言葉を受けて私の脳内では考えがぐるぐると廻った。その回転は徐々に速くなり、 33 1/3r.p.m.で定速回転に移った。

 LP12は仕様を容易に変更することができるのが「売り」である。高価な最新式にも、あるいは発売開始の1972年当時の仕様にも変えることができる。

 「そうか変えられるのか・・・」固定観念からか、がちっとLINN純正仕様に固められているLP12を変更するという考えはなかなか思いつかなかった。少し目の前の風景が開けたような気がした。

2014/2/27

2904:SPU  

 SMEのアームにSPUを装着する場合には、メインウェイトに追加ウェイトを足す必要がある。追加ウェイトはメインウェイトの後ろに足すのではなく、メインウェイトを一旦外して、追加ウェイトを先にアームに装着して内側に設置してからメインウェイトを装着する。

 メインウェイトと追加ウェイトは原則的には離さないで密着させる。ただし両者を離すと空間表現や音色に変化をもたらすので、個人的な好みで調整することも可能である。両者を離すと空間はせまくなりがちであるが、音の凝縮感はアップする。

 ゼロバランスをとってから針圧を調整するウェイトをスライドさせて針圧を合わせる。SPU Classic GE MkUは適正針圧が4g。デジタル針圧計で測る。デジタル針圧計は0.01gまで測れる。数字がころころ変わる。

 このSPU Classic GE Mkllには大きな欠点が一つだけある。それはリード線である。昔のSPUと違いかなり質の良くない線材が使われているようで、これは交換がどうしても必要になる。

 次は高さ調整。基本は平行である。レコードを置いて、その最内周付近にアームを置いてから目線の高さをアームに合わせてじっと見る。細い六角レンチで緩めて少しづつ上げ下げする。

 とりあえず平行と思われるポイントで固定して、後は聴いての微調整・・・「このへんかな・・・」というところで一旦止めて、次はオーバーハング。

 オーバーハングゲージを取り出して、上から覗き込む。SMEはアームの土台部分が前後にスライドする。ナットを緩めて前後にスライドさせて合わせる。

 最後はインサイドフォースキャンセラー。細い線の先にウェイトが付いている。もう一方の先端は丸く結えてあって、その先端を棒状の部品にひっかける。

 ひっかける細い棒状の部品には刻みが付いている。この刻みは0.25gづつに刻まれていて、針圧に合わせて、刻みを選ぶ。4gの針圧だと結構後のほうに位置する。

 Aさんは、私に説明しながら手慣れた様子でSMEのアーム調整を手順を追って見せてくれた。Aさんは2台のLP12をお使いで、それぞれに別のSMEのアームが装着されている。

 一方LP12には3010Rが、もう一方のLP12には3009SUが付いている。カートリッジは三つ。オーディオテクニカのAT33 MONO、Ortofon MC09A、そしてSPU Classic GE MkUである。それらを適宜付け替えて楽しまれているので、付け替えや、それに伴うアームの調整は手慣れたものである。

 私のお気に入りは3009SUとSPU Classic GE MkUの組み合わせ。切れとコクのバランスがちょうど良く感じられるのである。

 S市には1件顧問先がある。顧問先での打ち合わせを終えたのは夜の7時すぎ、そのすぐそばにお住まいのAさんのお宅についた時には7時20分ほどになっていた。もちろん3日ほど前にメールをしたうえでの訪問である。

 Aさんは熱心なJAZZのレコードのコレクターである。様々なJAZZの名盤を二つのLP12、二つのSMEのアーム、そして三つのカートリッジで楽しまれている。

 「LP12、SME3009SU、そしてSPU・・・この組み合わせ良いですね・・・とても・・・」

 Aさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら呟くように言った。するとAさんはまったく事も無げにはっきりと言った。

 「LP12をお持ちですよね、だったら仕様変更は簡単ですよ・・・」

2014/2/26

2903:グリーンスムージー  

 先日テレビで有名なモデルの道端三姉妹とさんまのトーク番組を観た。そのなかで「グリーンスムージー」のことが話題になっていた。

 最近時折「グリーンスムージー」という名を何度か耳にしていた。平たく言えば「野菜ジュース」であるが、バナナやリンゴといった果実と一緒にジューサーにかけるので飲みやすい。

 タレントの優香が「グリーンスムージーでダイエット・・・7kg痩せた」ということが話題になったりした。

 朝食として「グリーンスムージー」を摂り、それ以外は食べない。昼食と夕食はいつも通り。それだけでダイエットになるそうである。

 そう言えば数年前に「バナナダイエット」というものが話題になり、流行ったことがあった。それの変形であろうか・・・

 こういった流行りものには今までは無頓着であったが、今回は少々気になった。「朝食にグリーンスムージーか・・・でも、昼までもつのかな・・・11時ごろにおなかが鳴ったりして・・・」と思った。

 インターネットでジューサーミキサーを検索すると4,000円ほどで売られている。「試してみようかな・・・」そう思ってポチッ!とした。

 それが昨日届いたので、早速今朝試してみた。バナナ、リンゴ、キウイ、ホウレンソウを適量ジューサーに入れた。さらにミルクを入れた。インターネット上のレシピでは水を入れるとあったが、飲みやすくなるのではと思いミルクにした。

 スイッチを入れると「ガー・・・」という勢いよく撹拌する音がした。すぐにできた。ミルクを入れたので、淡い緑色の液体になった。

 コップに2杯できた。それを飲んでみた。「飲みやすい・・・飲みやすいというよりも美味しい・・・これなら飲めるな・・・」

 「しかし、これだけで本当に昼までもつのであろうか・・・」という不安感はぬぐえなかった。

 そして、その不安感は的中した。昼前に相当な空腹感を覚えることに・・・どうにか我慢したが、やはりパンやご飯といったものを摂らないと腹持ちは悪そうである。

 「そこをぐっと我慢して続ければ、Mt.富士ヒルクライム本番のころには体重が現在の70kgから67kgになっているかもしれない・・・」

 そんなことを思った。しかし、ランチに寄ったイタリアンレストランでついつい「スパゲティ、大盛りで・・・」と頼んでしまった。67kgへの道のりは険しそうである・・・

2014/2/25

2902:イヤホン  

 若い人たちの音楽の楽しみ方は圧倒的にイヤホンやヘッドフォンで聴くスタイルである。我が家の二人の子供たちもそうである。

 子供だけでなく最近は同年代である妻も一連のアップルの製品から伸びたイヤホンを耳に入れ、それで音楽を楽しんでいる。その小さな「魔法の箱」には数千曲が入り、いつでも気軽にお気に入りの曲を取り出せるようである。

 家電量販店の「オーディオコーナー」で最も売り場面積を占有しているのは、イヤホンやヘッドフォンである。

 スピーカーを買って、アンプを買って、プレーヤーを買って、そしてそれらをセットして椅子に座って音楽を聴くというスタイルは、完全に時代遅れになってしまったようである。

 そんな時代遅れのスタイルにしがみついていた私は、i-Podを操作したこともなかった。しかし、最近私は時折イヤホンをしている。

 それは自宅ではなく、オフィスにいる時にである。パソコンにはイヤホン用のミニジャックがついている。そこにミニジャックを差し込んで、イヤホンを両耳に差し込む。最近のイヤホンは形状がよく考えられていて、しっかりと耳の形になじみ、ちょっとのことでは外れたりはしない。

 聴いているのはクラシックである。「Youtube」から曲を選び、聴くのである。画面は業務用のソフトが立ち上がっているので動画は見ないで、音だけを流すのである。

 インターネットと業務用のソフトが同時並行でパソコン上で動くことは最近になって発見した。そこで仕事をしながらBGMとしてクラシック音楽を聴いているのである。

 これであれば、スタッフには迷惑はかけないし、仕事に集中できる。ただし日中は電話がかかってきたり、来客があったり、スタッフとの打ち合わせがあるので、イヤホンをつけているわけにはいかない。

 イヤホンをつけるのは夜になってからである。この時期は結構夜遅くまで事務所で仕事をすることが多い。心身ともに疲れてくると集中力が鈍る。

 イヤホンで音楽を流すと自分ひとりだけの世界がしっかりと確立する。自分の体の周りに見えないバリアができたようになる。すると、なんとなく仕事がはかどるのである。

 便利な世の中である。若い人たちがイヤホンやヘッドフォンの世界の中で充足し、そこから出る必要性を感じなくなるのも分かるような気がする。

 わざわざ、大きなスピーカーをセットして、専用ルームで大きな音で楽しむという趣味はきっと「時代錯誤の極致」なのであろう。

2014/2/24

2901:消費カロリー  

 夜遅くなって仕事を切り上げた。長時間のデスクワークは心身ともに疲れるものである。この時期は精神的に常にせかされている感じで、気持ちに余裕がないので余計に疲れる。

 「今日はトレーニングデイか・・・しかし、結構疲れたな・・・今日は止めておくか・・・」

 「一日置き作戦」はこの時期も継続中であるが、仕事で遅くなると「心の声」は弱含みとなる。

 「でも、明日も忙しいし、一旦中断してしまうと確定申告が終わるまで空白期間ができてしまうかもしれない・・・やはり行こう。」

 何回か心の意向は表を向いたり裏を向いたりしたが、結局事務所から徒歩数分のところにある「Anytime Fitness」へ向かった。

 ここは小型のスポーツジム。24時間営業である。プールやスタジオはない。さまざまなマシーンが並んでいる。できて間もないので小奇麗である。

 10時を過ぎていたので空いているかと思ったが、想像以上の人数がいた。各々筋トレマシーンやランニングマシーンで汗を流していた。

 私は着替えるといつものようにエアロバイクにまたがった。スポーツドリンクで時折水分を補給しながらペダルを漕いだ。

 前半の30分を終えて、後半の高負荷時間帯に移行した。流れる汗の量はいつものように多量である。

 「やっぱり疲れているのかな・・・いつもより脚が重い・・・」

 そんなことを感じていた。今日の夕食は事務所近くにオープンしたさぬきうどんの店にスタッフと一緒に行った。

 「和風カルボナーラうどん」というちょっと風変わりなうどんを頼んだ。まずまず美味であった。さぬきうどんはつるつるとしていて喉越しが良い。ボリュームはやや軽めであった。

 「大盛りを頼めばよかったかな・・・消費カロリーに見合わなかったかも・・・」

 1時間、いつもの感じでエアロバイクを漕ぐと、そのモニターに表示される消費カロリーは「800〜840」ほど。

 「あのうどんのカロリーはどれくらいだろう・・・800はないかも・・・」

 残り5分を切った。少しペースを上げた。さらに2分を切って、ラストスパート気味に・・・しかし体の芯に力が入らない感じ。

 「軽いハンガーノックであろうか・・・」

 タイムオーバー・・・負荷を半分以下に下げて、クールダウンした。何だか、頭がくらくらする感じがあった。5分間のクールダウンを終えてエアロバイクを降りた時、軽く脚がもつれた。

 「トレーニングするときは、しっかりとカロリーのある食べ物を食べよう・・・」そう思いながらシャワールームへ向かった。

2014/2/23

2900:雪融け  

 道路の両脇にはまだ雪が氷の塊となって融け残っている。これはロードバイクにとって厄介な存在である。

 ロードバイクは道路の左端を走る。道路幅がそれほど広くない場合、後ろから来る車は大きく膨らんで抜いていく。対向車がいる場合には抜けない。

 道路の左脇に残雪があると左に寄れず、より車道の真ん中寄りのコースを通らなければならない。そうなるとより車の走行の邪魔となる。

 左側は残雪、右側は追い抜いていく車という二つの障害物に気をつけないといけないのである。どちらも怖い存在である。

 日曜日はチームでのロングライドの日である。ここのところ積雪の影響で中止が続いていた。まだ街中であっても残雪がところどころ残っている。山に向かうことが多いロングライドの場合、走行が困難になる可能性がある。

 「もう一週間様子をみるのかな・・・」と思っていたが、相模湖に行くコースでロングライドに行くことになった。

 「久し振りだから参加したい・・・」

 そうは思ったが、私の場合雪以外にも大きな障害物が積み重なっていた。12月決算法人の申告書と個人の確定申告の書類が机の上に先日の大雪のように降り積もっている。

 道路わきの残雪は徐々に融け、その体積は減ってきているが、書類の積雪はなかなか融けていかない。

 「今週はやはりやめておこう・・・もしも雪がらみで落車してけがでもしたらこの時期大変なことになる・・・でも、走りたいな・・・」

 後ろ髪を引かれる思いではあったが、車を事務所に向かわせた。スタッフの大半が休日出勤していた。

 普段はそれほど忙しい事務所ではないのであるが、この時期はやはり忙しい。一日事務所で「雪」を融かし続けた。

 日曜日は電話も来客もなく仕事がはかどる。高かった書類の山はずいぶんと低くなった。今月を越えれば「峠」は過ぎ去る。

 「来週の日曜日のロングライドには参加したい・・・」

 そんなことを思いながら、デスクワークを続けた。ずっと座り続けていると少し腰に疲労がたまった。

2014/2/22

2899:LEAK  

 Sさんのお宅に到着したのは午後の2時ごろ、ここ数日の寒さも和らぎ、車の中は暖かくエアコンをつける必要がなかった。

 近くのコインパーキングに車を停めて、呼び鈴を鳴らした。すぐさまSさんは人懐っこい笑顔で出迎えてくれた。

 リスニングルームに入ると、前回同様、TANNOY CHATSWORTHとWarfedaleが出迎えてくれた。そして多数のLEAKのアンプたちも・・・

 何種類のLEAKのアンプがあるのであろうか・・・前回訪問時より増えたのかもしれない。私の視線はすぐにお目当ての、LEAK POINTONE STEREOとLEAK STEREO60を捉えた。

 その二つにはすでに電源が入っていて、LEAK POINTONE STEREOにはガラード301から伸びたRCAケーブルが接続されていた。そしてLEAK STERERO60から出ているスピーカーケーブルはCHATSWORTHに接続されていた。

 ガラード301にはDECCAのアームとカートリッジが装着されていて、レコードプレーヤ−の脇にはDECCAのカートリッジが5個ほど並んでいた。

 「SP用やMONO用もありましてね・・・STEREO仕様のものも数種類あって、適宜付け替えて楽しんでいるのですよ・・・付け替えはこんな風にするんです・・・」

 そのカートリッジの付け替えはいたって簡単、数秒程度で完了する。はずすときは上にあげてスライドさせる。つけるときは下に向けて押し込むだけ、カチっと音がすれば完了である。

 まずはエルガーのチェロ協奏曲がガラード301のターンテーブルに乗った。デュプレのチェロであった。

 CHATSWORTHらしい明るめの伸びやかさが心地よい。オーケストラの低弦のゆったりとした響きも、石を池に投げ入れた時に広がる波紋のような広がり感がある。

 A面を聴き終えた。次にDECCAのカートリッジがトレースしたのは、ビルエバンスである。モントルー・ジャズフェスティバルでのライブ録音。古城の美しい写真がジャケットに飾られている。

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 「LEAKのアンプが増えすぎて部屋の中が収拾がつかなくなってきました。もしよろしければ1セットお貸ししますよ。」

 Sさんからメールが来たのは数週間前のこと。この時期確定申告でバタバタしていて時間を作ることがなかなかできなかったが、ちょうど近くの顧問先を訪問する予定があったので、立ち寄ることができた。

 2枚のレコードをじっくりと聴かせていただいてから、LEAK PONTONE STEREOとLEAK STEREO60を車に運び込んだ。それらはとても小さいので、余裕で助手席と後部座席に座らせることができた。

 「もし、気に入られたならお譲りしますよ・・・我が家には御覧の通りLEAKのアンプが所狭しと並んでいて、場所がなくなってきましたから・・・」

 帰り際Sさんはそう言って笑った。私はなんだか子犬か何かを譲ってもらったような気分で帰路についた。車内に「ワン・・・」とか「キャン・・・」とかのかわいい鳴き声が響くことはなかったが・・・

2014/2/21

2898:ラフマニノフ  

 夜になってから、事務所の傍にある「Anytime Fitness」に向かった。中に入ってトレーニングウェアに着替え、エアロバイクにまたがった。

 これから1時間汗をかくことになる。エアロバイクのモニターにはテレビ画面が付いていてイヤホンを持参すれば音声も聞けて、普通にテレビを観ることができる。

 漕ぎはじめはやや軽めの負荷でペダルを回す。アップを兼ねているのでそれほど無理はしない・・・15分ほどすると軽く汗ばんでくる。額や顎から時折汗が落ちる。そしてその頻度が上がってくる。

 徐々にペダルを回すペースを上げる。30分を経過するまではペダルの負荷を上げはしないが、テンポを速めていく。流れる汗の量も増えてくる。

 テレビ画面からは、女子フィギュアスケートのフリーの演技がVTRで流れていた。浅田真央のフリーの演技は実に感動的であった。

 前日のSPでまさかの大失敗・・・茫然自失状態から見事に立ち直り、前日とは別人のように華麗にすべてのジャンプをミスなく飛んだ。

 演技を終えた瞬間・・・こみ上げる感情を抑えることができずに涙を流す姿にどれほど多くの日本人が一緒に涙を流したことだろう・・・メダルには届かなかったが、観ている者の心を強く揺さぶる見事な演技であった。

 浅田真央がフリーで使用した曲は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番である。甘くロマンチックでとても美しい曲である。この曲も彼女の演技の美しさ・華麗さを引き立たせていた。

 この曲は20世紀の初頭に書かれた。一般受けは良かったのであるが、評論家からは酷評された。「時代錯誤の極致」「前世紀の遺物」といった評価を受けたのである。時代は「12音技法」などの新しい音楽理論が華やかなころであった。

 ロマンチックなこの曲は映画などでもつかわれることが多い。劇的な展開を見せるこの曲は、聴く者の感情を大きく揺さぶる素晴らしい音楽である。

 30分を経過すると負荷をぐっと上げる。ペダルの重さは1〜25まで選択することができる。その「25」まで負荷を上げるのである。当然ペダルを回すペースは落ちる。体を少し左右にゆすりながら脚に力を込める。汗が少し左右にずれて落ちていく。

 浅田真央のフリーの演技のVTRが再度流れる。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の調べに乗って細いしなやかな体が華麗に舞う。次々に難度の高いジャンプを決める。そして躍動感のあるステップを踏む。音楽が途絶え、演技が終わった瞬間、彼女は天を仰ぐ。表情がゆがみ、嗚咽を抑えきれない。 その様子は何度見ても胸に強く訴えかけるものがある。

 残り時間の表示が2分を切った。ダンシングに切り替える。残り1分となってラストスパート・・・心の中ではラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が流れ続けていた。

2014/2/20

2897:次の1枚  

 私が中学生のころ家庭で音楽を楽しむ方法はレコードであった。大学生になった頃にCDが出た。そしてあっという間にレコードは駆逐された。

 今はインターネット配信が急速に伸びてきて、CDの販売枚数は減少の一途を辿っている。レコード、CD、インターネット配信という具合に音楽を楽しむ手段は変遷してきた。その変遷は、より便利に、より手軽に、より安価に・・・といったことが主たる動機となって行われてきた。

 その結果、現在はより便利に、より手軽に、そしてより安価に音楽を入手することが可能となった。

 わが家では知識と道具が不足しているためインターネット配信の恩恵を受けてはいないが、クラシックのCDは今現在「バナナの叩き売り」状態であるので、「大人買い」をしようと思えば、わずかな出費で数多くの枚数のCDを購入することができる。

 レコードもコレクターズアイテム以外の普通のレコードであれば、中古レコードショップで1枚500〜1,500円程度の価格で売られている。

 私が中学生だった頃(今から40年近くも前の話である)レコードは国内盤が2,500円ほど、河原町の十字屋で売られていた輸入盤で2,000円ほどの価格であった。

 その当時、普通の経済環境の家庭で育った中学生にとって、それはとても高価なものであった。1年に4,5枚買うのがやっとである。なので中学の3年間で購入できたコレクションは20枚にも満たなかった。それらのレコードを繰り返し聴いていた。それ以外は友人が持っているレコードをカセットに録音させてもらって、ラジカセで楽しんでいた。

 なので「次の1枚」を決めるのにものすごく時間と労力を使った。その頃は仲の良かった友人の影響で「プログレッシブロック」に嵌まっていた。YES、GENESIS、KING CRIMZON、PINK FLOYD、ELPなどのバンドがその代表格である。

 今は便利な時代となった。何十枚ものCDが入ったBOXが数千円で売られている。Amazonでポチッ!とすれば数日で自宅に届く。聴く時間がとても足りないほどのソフトがあっという間に手に入るのである。

 しかし、時折寂寞とした感情に囚われることもある。「何かが足りない・・・何かが不足している・・・」そんな気がする。

 1枚のレコードを買うために何度も何度もレコード店に足を運び、ようやく決めた「次の1枚」を搔き抱くようにして家に持ち帰る帰路のわくわく感・・・新たなレコードを我が家の貧相なコンソール型オーディオ装置にセットして針を下す瞬間のドキドキ感・・・初めて音が流れ出した時の何とも言えない充足感・・・そういったものが欠落しているような気がする。

 わずかばかりのレコードを、今の耳で聴いたなら貧相な音であろうと思う古ぼけた一体型のオーディオ装置(確かビクター製であった、友人が持っていたコンポーネント型オーディオ装置がうらやましくて仕方がなかった・・・)で聴いていた。

 レコード独特の匂いを鼻孔に吸い込みながら音楽を聴いていたあの時間は、今よりもより濃厚で充足していたような気がしてならない。 

2014/2/19

2896:決定盤  

 スポーツでははっきりと結果がでる。女子フィギュアスケートSPはこれでもかというくらいに明暗が分かれた。

 日本の期待を一身に背負った浅田真央は、最初のトリプルアクセルで転倒した。コンビネーションジャンプでも大きな失敗をしてしまい、まさかの16位・・・明日のフリーでの巻き返しの可能性があるとはいえ、金メダルは絶望的な状況である。演技を終えた直後のインタビューでは、茫然自失といった表情を彼女はしていた。

 一方、前回オリンピックの覇者であるキム・ヨナは精神的な強さも持ち合わせていた。完璧な演技で首位にたった。二連覇の可能性が高まった。

 なんだか心が痛むというか、重苦しい気分になった。報道では「調子が上がっている・・・練習では何度もトリプルアクセルを成功させている・・・」と繰り返し流されていたので、いやがうえでも期待感が高まっていた。

 スポーツでは、結果が数字で表わされる。得点であったり、タイムであったり、順位であったり、その数字は絶対である。

 一方、芸術は数字で表わされることは本質的にはない。「ゴッホは9.8だけど、セザンヌは9.3・・・よってゴッホの勝ち!」なんてことはあり得ないのである。

 クラシックのコアなマニアにおいて、よく話題に上るのは「決定盤」選びである。たとえばベートーヴェンの交響曲第5番の演奏において、最も優れたレコード(あるいはCD)はどれか・・・といったことがまじめに語られるのである。

 「やっぱりフルトヴェングラーの47年盤でしょう・・・」

 「いや、いや、トスカニーニ指揮のNBC交響楽団の演奏は贅肉を削ぎ落とした究極の演奏だよ・・・」

 「絶対にクライバーだよ・・・まるで燃え上がるような演奏だ・・・」

 そんな会話がループ状に繰り返されるのである。演奏家の違いを聴き比べて楽しむのはクラシックファンの大きな楽しみである。

 しかし、芸術を数値で表わすことは絶対にできないので「決定盤」選びは満場一致で終結することはない。

 個人的な好みのなかで「やっぱり、これでしょう・・・」という範囲内ならもちろん構わないのであるが、「絶対にこれ!あとはクズ・・・聴く気もおきない!」といった話をされると、心の中で失笑してしまう。「もう少しおおらかな気持ちで音楽を聴けば・・・」と言いたくなってしまうのである。



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