2014/1/11

2858:ハードボイルド  

 Aさんのお宅に到着した時、周囲の風景は既に夕暮れの中に沈みゆこうとしていた。Aさんのお宅はマンションの3階である。

 呼び鈴を鳴らすと、にこやかな笑顔でAさんは私を迎え入れてくれた。リビングルームも兼ねているリスニングルームに通された。Aさんは一人暮らしのようである。

 広さは12畳ほどであろうか・・・リビングとしてはそう広くはないが、リスニングルームとしてはちょうど良い広さである。

 ALTECのA7がどんとその存在感を高らかに主張している。スピーカーの間には3段ラックが二つ併設されていて、そのそれぞれの最上段には色合いの違うLINN LP12が据えられていた。

 リスニングポイントから見て右側のラックの最上段にはウォールナットのLP12が・・・トランポリンを搭載した通常の形態である。装着されているアームはSME3010Rである。カートリッジはオルトフォンのMCカートリッジが装着されていた。

 そして、向かって左側のラックの最上段には、ブラックのLP12が・・・こちらは底板は装着せず、台座を直接真鍮製のインシュレーターで受けている。装着されているアームはSME3009S2。カートリッジはオーディオテクニカのモノラルカートリッジが装着されていた。

 ラックの他の棚板には昇圧トランス、プリアンプ、パワーアンプ、CDプレーヤーがそれぞれ鎮座していた。CDプレーヤーはエソテリックのものである。それ以外の機器については初めて見るものでメーカーも型番も不明である。

 Aさんはオーディイマニアであるとともに、熱烈なジャズのレコードコレクターでもある。その道に精通している人が見れば、涎を流しそうな「お宝」レコードがずらっと並んでいた。残念ながら私はジャズに関しては全く知識がない。「猫に小判」「豚の真珠」的な状況であったが、それらのお宝レコードを次々に聴かせていただいた。もしも、ハンコックさんが一緒であったなら、きっと涙を流して喜ばれたであろう・・・

 ステレオ盤は右側のLP12、モノラル盤は左側のLP12のターンテーブルに載せられた。セッティングも違うし、アームも違う、カートリッジも違うし、ステレオとモノラルの違いもある。両者はそれぞれしっかりとした主張のある音楽を奏でてくれた。

 右側のウォ―ルナットのLP12は、3010Rの個性か、あるいはトランポリンの効果か、ゆったりとした低重心バランスで豊かなコクをもたらす。尖った要素があまりなく、耳に鋭く響くような音の雑味が感じられないウェルバランスである。

 一方モノラルカートリッジが装着されたブラックのLP12は、3009S2の個性なのか、底板を排したセッティングの効果なのか、はたまたモノラル盤の持つエネルギーの密度感からか、独特の爽快感を伴なった生気溢れる音の勢いが心地よい。1950年代の暑い息吹が60年の月日を超えて眼前に再現されるかのようである。

 LP12にSMEのアーム・・・この組み合わせは初めて聴く。見た目も含めて、とてもしっくりとくる。SMEの3009S2も3010Rも、間近でマジマジと眺めたが、実にかっこ良いアームである。その銀色に光るボディーを眺めていると意味もなく「ハードボイルドだな・・・」といった感想が自然と漏れ出てくる。

 結局Aさんのお宅を後にした時には腕時計の針は10時を指していた。とても濃い数時間を過ごさせていただいた。ジャズオンリー、アナログオンリーのハードボイルドなひと夜でであった。



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