2014/1/31

2877:早寝  

 まだ夜も明けやらぬ頃、外を走る新聞配達のバイクの音で目が覚めた。ベッドわきのサイドテーブルの上に置いてある目覚まし時計で時間を確認した。4時であった。

 最近は時折朝早く目が覚めることがある。そういうときはたいがい、昨晩ベッドに早く入った時である。普段は12時頃にベッドに入り、朝の6時過ぎに起き出す。しかし、10時前にベッドに潜り込むことが最近増えたのである。

 それは「一日置き作戦」を継続しているからである。2日に1回、ロードバイクのトレーニングをするようになって数ケ月が経過した。少しづつ習慣化されつつあるところである。

 トレーニングといってもそれほどハードに追い込むわけではない。短い時は40分ほど、長くても1時間ほど、固定式ローラー台でクランクを回し続ける。

 前半はアップも兼ねて軽めの負荷で、後半は5%程度の斜度の坂を上るくらいの負荷で・・・終わると汗びっしょりである。

 シャワーで汗を流し終えると、気分はさっぱりする。体の方は当然疲れる。体が疲れていると眠気が早めに襲ってくる。あくびを連発するようになると、「もう寝るか・・・」とベッドに向かう。

 この「一日置き作戦」を継続し、6月1日に行われるMt.富士ヒルクライムで1時間30分を切るというのが、今年の最大の目標である。昨年初めて参加したMt.富士ヒルクライム・・・タイムは1時間34分36秒であった。この年齢で4分半以上タイムを短縮するというのは、とても困難なことではある。

 定期購読している「funride」で「銀輪レディの素」を連載しているモデルの日向涼子さんの大きな目標は、Mt.富士ヒルクライムで1時間30分を切ること・・・私と同じである。

 彼女はCMや雑誌で活躍する美人モデル。ロードバイクにどっぷりと嵌まってしまったようで、様々なロードバイクのイベントに司会やゲストで参加し、実際にレースでも走る。

 彼女も昨年はMt.富士ヒルクライムで1時間30分を切れなかった・・・なので今年こそと意気込んでいるはず・・・どうにか、今年彼女とともに「目標」を達成したいところである。

2014/1/30

2876:改修工事  

 1階のリスニングルームの改修工事は2月13日から行われることとなった。今建築関連の会社はどこも忙しいようである。消費税増税前の駆け込み需要が結構あるようで、工務店の社長は「リフォームの依頼が多くてね・・・現場数が昨年の2倍だよ・・・てんやわんやでね・・・」と言っていた。

 リスニングルームの吸音部の大きさは1箇所が横幅が30cmで縦が270cmある。これが9箇所ある。これを全て塞ぐ。

 壁材としての羽目板を使って吸音部を覆って、その周囲を見切材で仕上げる。当初は従前の反射部の壁材と同じスプルースの羽目板を使用しようと思ったが、それが結構高価なものであることが分かった。

 そこで、急遽より安価なレッドシダーの羽目板を使うことにした。これで価格がぐっとリーズナブルになった。レッドシダーは比較的柔らかい材木でスプルースと比べてそれほど大きな差異はないであろうとの判断である。

 周囲の見切り材は無くても別に良いのであるが、見た目的な収まりの良さを考慮して使うことにした。額縁状の立派な見切り材もあるが、それはそぐわないであろうと、幅が2cm程度のプレーンで控えめなものにした。

 天井の吸音部は塞がない。周囲の四つの壁面の吸音部9箇所を塞ぐ。これで吸音比率は劇的に下がる。音の変化は相当なものであろう。

 もうひとつの改修項目は天井に排気口を4箇所設けること。現在のリスニングルームの密閉度はとても高い。空気や音の逃げ道が全くない。そこで排気口を設けることにより空気と音の抜け道を作ってやるのである。これも音の質感に変化を与えるのでは・・・と期待しているところである。

 工事は2日ほどで終わる予定である。羽目板や見切材は無塗装のものであるので、仕上げに塗装をする必要がある。塗装といっても色を付けるわけでなく、オイル塗装のみにして木の色合いをそのまま活かす予定である。

 その塗装が、工事日程とは別に少し遅れてしまうようである。塗装の下請けさんの日程が空いていないのである。でも2月の下旬には終わるであろう・・・改修後のリスニングルームが良い結果をもたらしてくれることを祈ろう。

2014/1/29

2875:聴き比べ  

 ウォールナットのLP12とブラックのLP12は、カートリッジの違いだけでなく、アームも違い、セッティングも違う。なので、純粋にカートリッジの聴き比べというわけではないが、同じORTOFON製であるMC-09AとSPUは、その各々の特徴をしっかりと表出していた。

 MC-09Aは駿馬の筋肉の躍動を思わせるようなエネルギーを感じさせる。多少高域に華やかな雰囲気を持たせている。そのため「ドンシャリ傾向」ではあるが、決してうるさくは感じない。シンバルの生々しい感じなどが上手く表現される。

 一方SPUは重心の低いどっしりとしたバランスである。音の表面は艶やかなコーティング剤で覆われたような質感となり、その音域バランスとともに「ゆとり」といったものを感じさせてくれる。

 現在SPUは数種類のラインナップがある。Aさんがお使いのSPUは、「SPU Classic GE MkU」という型番で、リード線を古い線材のものに変えているとのことであった。

 次にLP12のターンテーブルに載せられたレコードは、Victor Feldmanの初リーダーアルバムである“The Arrival of Victor Feldman”。

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 Aさんは、そのレコードに関する蘊蓄を少しばかり教えてくれる。それによるとVicor Feldmanはロンドン生まれのイギリス人。1955年に渡米して制作したのがこの作品である。なのでタイトルが“The Arrival of Victor Feldman”となったようである。

 目を惹くのが、ベースにあのScott LaFaroが参加してること。後にBill Evansに起用されて有名になるScott LaFaroである。彼のフル・アルバムへの初参加作品でもある。

 Scott LaFaroは、1961年に25歳の若さで亡くなってしまう。天才は夭折する運命にあるもの・・・彼もその一人であった。

 このレコードも数曲づつ、ふたつのLP12で聴いた。Scott LaFaroのベースはMC-09Aではよりその指使いがスピーディーに聴こえる。

 SPUで聴くと、Scott LaFaroが既にこの時期においても一種の熟成というか完成の域に達しているかのような雰囲気に溢れる。艶やかな音の広がり感が心地良い。

 2台のLP12はカートリッジだけでなくアームも違う。ウォールナットのLP12にはSME3010Rが、ブラックのLP12にはSME3009SUが装着されている。

 同じSMEのアームである3010Rと3009SUとは一見同じような意匠であるが、当然ところどころに違いがある。SUは1962年から1972年にかけて製造された。そのあとを受けたのがRシリーズである。SUが比較的センシティブで調整が難しい面があったのを、より使い勝手良く改良したのがRシリーズとのことである。

 Aさんは「SPUの音の傾向からすると本来は3010Rとのほうがマッチングが良いかもしれませんが、SUとの相性も思いのほか良かった・・・」と話されていた。

 普段はモノとステレオで使い分けている2台のLP12であるが、2台あることを活用してアームの違いや、カートリッジの違いを楽しむ事も出来る。実に楽しげで有意義なアナログライフである。 

2014/1/28

2874:SPU  

 Aさんから数日前にメールが来ていた。

 「SPUを聴きに来ませんか。最近ORTOFONのSPUを入手し、SME 3009SUに装着して聴いたりしています。なかなかこれが良いんですよ。今までステレオカートリッジはMC09AやDL103を愛用していましたが、もうひとつ良いものを見つけました。私は自宅のすぐ傍で自営業をしていますので、仕事などで近くに寄られた時など、気軽に声をかけてください。」

 ちょうど、今日は6時半からAさんのご自宅のそばの顧問先に訪問する予定が入っていたので、夜になってから伺うこととなった。

 Aさんのマンションの呼び鈴を鳴らした時には7時半頃であった。途中、カツサンドを2人前仕入れてきたので、Aさんが淹れてくれた美味しいコ―ヒーとともに食して、まずは腹を満たした。

 Aさんは一人暮らしである。マンションのリビングルームがリスニングルームになっている。広さは12畳ほどあるであろうか・・・

 2台のLINN LP12がラックの最上段に並んでいる。一方はウォールナットの台座でSME 3010Rが装着されている。カートリッジはOrtofon MC09A。もう一方はブラックの台座でSME 3009SUが装着されている。前回お邪魔した時、こちらにはオーディオテクニカのモノカートリッジが装着されていたが、今回はORTOFON SPUがその大きめの姿を誇らしげに披露していた。

 「3010Rにも3009SUにもSPUは装着できるんですけど、今回はSUのほうに付けてみました。追加のウェイトが必要なんですが、それさえあれば、結構手軽に付け替えが出来るんですよ・・・」

 ORTOFON SPUは1959年の発売。それから50年以上もの長きにわたって発売されている。現在も数種のラインナップがあり、その外観や基本構造は発売当初と変わっていない。

 Aさんは熱心なジャズレコードのコレクターでもある。聴くのはジャズのみ。今日もその貴重なコレクションの中から数枚を聴かせていただいた。

 しかも、2台のLP12で交互に聴くという贅沢な一時を過ごすことができた。LP12はほぼ同じ仕様であるが、セッティングが少し違う。ウォールナットのLP12は底板の着いた標準的なセッティングであるが、ブラックのLP12は底板が装着されてなく、真鍮製の円柱型インシュレーターで台座を支えている。

 まず取り出されたレコードは、Shelly Manne 「234」。残念ながらジャズの事は全く分からない。このレコードが貴重なものなのかどうか・・・どのような歴史的背景をこのレコードや演奏者が持っているのかも全く真白の状態である。

 ジャケットを手にとってしげしげと眺める。レコードの楽しみの一つはジャケットである。一つのアートとして立派に成立するサイズである。CDには無い楽しみである。「渋い・・・」実に渋い男がそのジャケットには映っていた。

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2014/1/27

2873:快速  

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 子ノ権現の本殿までは、ロードバイクを押して上がった。1月とは思えないような暖かい空気に包まれて、今年二度めの参拝を済ませた。

 「Mt.富士ヒルクライムで1時間半を切れますように・・・」

 お賽銭は50円玉一つと10円玉二つ・・・合計70円。その程度のお賽銭で大それたお願いをするのは少々厚かましいかもと思えたが、ここまで上ってくるのにそれなりに苦労したのでその資格があるのでは、と思い直して手を合わせた。

 下りは別ルートで下るのであるが、ここの斜度が半端でない。ちょっと怖いくらいの斜度である。バランスを崩すと後輪が浮いて前転してしまうのでは思えるくらいである。

 帰り道は下りばかりではない。小さな峠が待っている。そして、その小さな峠・・・流すだけなら何と言うことはないのであるが、必ずバトルが勃発するのである。

 もちろん脚が完全に売切れ状態の場合はバトルはパスし流す。脚に多少の余裕があるメンバーでバトルするのである。

 メンバーは「もう脚ないよ・・・」とか「ここは仕掛けないからね・・・」とか「ゆっくり行くからゆっくり・・・」とか口にするが、案外いざとなるとバトルに参戦したりする。こういった言葉は聞き流すにかぎる。

 山王峠もそれに続く笹仁田峠にも私はもれなく参戦した。どちらの峠も最終的には限界心拍数で歯を食いしばりながら疲弊した筋肉からエネルギーを絞り出した。笹仁田峠のスプリント合戦を終えると「これで満腹・・・」とばかりにぐったりとした。

 いつものコンビニで最後の休憩を終えた。休憩で体が少々回復した。「では、行きますか・・・」という感じで再びロードバイクにまたがった。

 これから先は平坦路が続く。7台のロードバイクは快速で走った。疲れたからといってけっしてまったりとはしない。今日は最初から最後まで締まった雰囲気のロングライドであった。

2014/1/26

2872:劇坂  

 先週は海へ向かったが、今週のロングライドはいつものように山に向かった。行先は子ノ権現・・・子ノ権現にはつい最近「初詣ラン」で行ったばかりであるが、所用のため参加できなかったメンバーのための「初詣ラン第2段」という企画である。

 前回と同じコースでははなく、「天目指峠」を越えて一旦下ってから「子ノ権現」を上り、参拝してから戻ってくるという、かなりハードなコースとなった。

 今日はこの時期としてはとても暖かかった。朝でも7度ほど気温があり、最高気温は15度ほどあったのではないであろうか・・・とても快適なロングライド日和りであった。

 7台のロードバイクは暖かい空気の中、速めのペースで進んでいった。青梅街道、岩倉街道を進み、岩倉温泉郷を抜けた。そこからしばらく行ったコンビニでしばし休憩・・・ここは店の前にベンチが並んでいて、そこに座って水分やエネルギー源を補給した。とても日当たりが良い。ぽかぽかとして気持ちが和む。

 これからハードな時間を過ごすことになるが、目の前にはそんなことはどこ吹く風といった風情ののどかな風景が広がっていた。時折、野鳥が鳴き声を響かせながら空を横切った。

 まずは天目指峠へ向かう。緩やかな上り基調の道をしばらく進んで、少し分かりづらいポイントを右折した。ここから上りである。

 子ノ権現の厳しい上りが主戦場であるので、天目指峠は皆抑え気味に上がっていった。抑え気味ではあっても、斜度が厳しい後半は結構脚を使う。

 とりあえず「前座」である「天目指峠」をこなした。そこから1km程下っていった。そして、見慣れた子ノ権現への上り口に到着した。「子ノ権現 山頂まで3km」と書かれた看板が「また来たか・・・」といった感じで挨拶してくれたような気がした。

 この3km・・・初めはそれほどでもないのであるが、後半になるにしたがって斜度がきつくなり、ゴール直前は「ここまできて、これか・・・」と嘆き節が思わずもれでてしまうほどの劇坂が待ち構えている。

 序盤はいつも通りゆっくりと入る。あまり無理しない範囲でペースを守る。1kmを経過し、少しペースアップ・・・心拍数は175ほどで推移。

 2kmを経過するあたりで、私の脇を3名のメンバーがペースを上げて抜いていった。ここから一気にハードゾーンに入る。

 あまり離されないように私もペースを上げる。心拍数がさらに上がる。180を超えていった。前の3名はしばらくは一団となって上がっていたが、ゴールが近づくにつれて縦に長く分断されていった。

 私の前には3位のメンバーが・・・その距離は20メートルほど・・・どうにかその距離を縮めようともがく。しかし、厳しい斜度はまったく容赦ない。脚の筋肉の乳酸値はどんどんと上昇していき、体ばかりでなく心をも痛めつける。

 呼吸も心拍もほぼ限界・・・前を行くメンバーも同じである。限界状態でもがいている。お互いが限界状態でもがきながら、この劇坂を少しづつ上っていった。

 あまりの辛さに気持ちが切れそうになる。「もう、あきらめたら・・・」と、もう一人の自分の声が心のなかで響く。しかし、緩めることなくクランクを回し続けた。

 二人の距離は縮まることも離れることもなく一定の間隔のまま頂上に・・・ゴールすると動けないほどに疲労していた。追いつくことはできなかったが、途中であきらめて緩めなかったので、どこかしら心はすがすがしかった。

 メンバーはゴールすると皆「きつかった・・・」と口にした。確かにきつい坂であった。しかし、劇坂には劇坂の魅力はある。体重が重い私にとって劇坂は最も苦手科目ではあるが、上り終えたときの解放感は劇坂ほど大きい。

2014/1/24

2871:試聴  

 丸椅子には背もたれが無い。脚を組んで少し前のめり気味の姿勢で音楽を聴いた。交響曲、オペラ、ヴァイオリンソナタ、ピアノ曲が流れた。

 とても60年前のスピーカーとは思えない生気あふれる音である。そのコンパクトなキャビネットから予想される以上の低音の量感である。

 高域にはモニター・レッドで時折感じるようなしゃくれもなく艶やかな質感である。帯域は狭いはずであるが、不足感はそれほど感じない。

 そして、こんな悪い試聴環境であっても空間の広がり感はしっかりと感じられる。その潜在能力の高さは思いのほか高いことが窺えた。

 「アンプは何をお使いですか?」

 店主が曲の合間に訊いてきた。

 「QUADです。」

 「QUADですか・・・QUADならもう少し太い音がするでしょうね・・・MarantzはEL34ですから・・・QUADのKT66なら、もう少し太くなるんですよね・・・このEL34はテレフンケン製です。とても繊細な音がします。」

 「EL34・・・良いですよね。その見た目もすらっとしていて高貴な雰囲気を持ってます。KT66はシルエットがぽっちゃり型で、音もそんな感じでしょうか・・・まったり系・・・」

 「プリにMarantz7を持ってくると更に良くなるんですが・・・今整備中なんですよ。ヴィンテージ機器は整備が絶対に必要なんです。万全のコンディションものは少ないですからね・・・」

 「Marantzの黄金コンビでアナログを聴いてみたかったですね・・・」

 「それなら間違いないでしょう・・・でもMarantzもTANNOYも高くなりました。特に最近為替の影響で苦労しています・・・」

 「急に円安になりましたからね・・・」

 そんな話を交わしながら、音を確認し、合間にスピーカーのすぐ傍に行ってキャビネットのコンディションを詳細に検証したりした。

 「このコーナー・カンタベリーは買いだろう・・・確かに価格は高い。しかし、このキャビネットの素晴らしいコンディションに、希少価値の高いモニター・シルバー・・・」

 そんなことが頭の中を行ったり来たりしていた。

 キャビネットを見ていて気になったことが一つあった。それはエンブレムである。我が家にあったCHATSWORTHに付いていたものとは違い、真鍮製かと思われるしっかりとした金属のプレートに「TANNOY」と彫り込まれている。これはシルバーの時代のエンブレムなのであろうか・・・レッドやゴールドの時代のエンブレムとは違う。そのエンブレムは60年という長い時間の経過により鈍く輝いていた。

 「このエンブレム、かっこいいな・・・」

 そのエンブレムをしげしげと見ている時であった。曲はショパンの「雨だれ」がかかっていた。左側のスピーカーのエンブレムが、下の長辺を支点として手前にすっと開いた。

 不意を突かれて、驚いてその様子を凝視した。エンブレムの奥にはそのエンブレムよりも一回り小さな長方形の穴が開いていた。その四角い暗部からは一つの黒い塊がもぞもぞと這い出してきた。

 「蜘蛛だ・・・」

 蜘蛛はその穴の周囲を一回り二回りした。そしてまたその穴のなかに戻っていった。エンブレムは蜘蛛の姿が見えなくなると、静かに閉まった。その後は何にも無かったかのようにエンブレムは鈍く光っていた。

 店主の顔を確かめた。店主の表情にはなんら変化はなかった。皺の多いその顔つきは穏やかなままであった。

 「蜘蛛の存在には全く気付かなかったのであろうか・・・もしかして、その蜘蛛は私の目だけに見えていたのであろうか・・・」少し気分が悪くなってきた。

 私は店主に礼を言い、そそくさと外に出た。車に戻った。「疲れているのであろう・・・仕事のしすぎか・・・」ブレーキペダルを踏んでエンジンボタンを押した。乾いたディーゼルエンジンの音が吹き上がった。この乾いたエンジン音にも最近はすっかりと慣れた。

2014/1/23

2870:寄り道  

 八王子インターを降りて、国道16号に入った。左入町の交差点の手前を右折して、更に少し行った先を右折した。しばらくすると「目的地付近です・・・」とナビが音声で知らせてくれた。目的地はその道路の右側に面していた。ウィンカーを出してセンターラインよりに車を寄せて、何台かの対向車をやり過ごしてから右折して駐車場に入っていった。

 車から降りて、その店の扉を開けた。「先ほど電話したものですが・・・」と店主に話しかけると「どうぞ、どうぞ、狭いところですが・・・」と小さな丸椅子を勧めてくれた。

 その広いとは言えない空間には種々雑多のオーディオ機器が所狭しと並べられていた。最新のハイエンド機もあれば、ビンテージもあるという統一感の全くない空間である。

 そのなかにコーナーカンタベリーがあった。淡い茶色のサランネットに飴色に深まったキャビネットの茶色の組み合わせが清々しくもあった。そのすぐ隣にはローレンス・ディッキーの手になる「イカ星人」がSF映画から抜け出したばかりかのようにつったっていた。

 恐ろしく重そうなターンテーブルを有するレコードプレーヤーの隣にはエソテリック製のSACDプレーヤーが鎮座していて、その贅肉がうねるかのような造形を窓から差し込んでくる陽の光に輝かせていた。

 「チャットワースの方は決まってしまったんですよ・・・とても珍しいものだったんですけど・・・」店主は申し訳なさそうに言った。

 「私も初めて見かけたものですから・・・聴いてみたいと思ったんですけど・・・やはり、すぐに決まりましたか・・・」

 「シルバーは人気がありますからね・・・私もシルバーが好きでして、英国のその手の業者にいつも依頼しているんですが、最近は状態の良いものが少なくなってきました・・・このカンタベリーはユニットもキャビネットも非常にコンディションが良いものです・・・」

 そんな話をしながら、店主はカンタベリーの位置を微調整していた。パワーアンプはマランツの8B。プリンプはメーカー名が不明であった。送り出しはエソテリックのSACDプレーヤーである。

 カンタベリーは非常にコンパクトなスピーカーである。フロントバッフルは以前使っていたチャトワースとほぼ同じサイズ。キャビネットがコーナー型なので容積はカンタベリーの方があるのであろう。

 「普段は何を聴かれますか?」

 「ほとんどクラシックオンリーです・・・」

 「アナログも聴かれていますか?」

 「ええ・・・」

 「今はアナログが聴けない状態でして、CDで良いですか?」

 「もちろんかまいません・・・」

 店主はテーブルに並べられたCDをチェックして数枚を手に取った。リモコンを操作するとエソテリックのSACDプレーヤーのトレイが音もなくせり出してきた。 

2014/1/22

2869:ショップ  

 CORNER CANTERBURYはいかにもTANNOYらしい容姿をしている。一目見てTANNOYと分かる。薄い色合いの茶色のサランネットに明るめの茶色のキャビネット。その造形はCORNER YORKを二周りあるいは三周り程縮小したような感じであり、袴ではなく、4本の猫足で床に設置するようになっている。

 その瀟洒な姿は、アンティークの英国家具のようであり、眺めているとなんだかミルクティーでも飲みたくなる風情である。

 一方、CORNER CHATSWORTHはとてもスリムで華奢な造形でる。色合いは、オリジナルなのか、後に塗りなおされたのかは不明であるが、濃いめの茶色である。

 こちらも袴ではなく、4本の猫足で床に設置される構造であり、どことなくかわいらしい。その色合いのせいか、あるいはプロポーションのせいか、こちらは眺めているとミルクティーではなく、小さな器に入ったエスプレッソを飲みたくなる風情である。

 そして、CORNER CHATSWORTHのその姿を眺めていてひとつ違和感というか、ちょっと意外に思ったことがあった。それは、そのユニットの取り付け位置である。

 TANNOYの多くのスピーカーの場合、ユニットはフロントバッフルのやや上部に取り付けられる。私が以前使っていたレクタンギュラーキャビネットのCHATSWORTHもそうである。フロントバッフルの上から3分の1あたりのところにユニットはマウントされていた。

 しかし、CORNER CHATSWORTHの場合、ほぼ真ん中、あるいは真中よりもやや下めと思われる位置にマウントされている。もちろんこれは音響的な意味合いから決められた位置なのであろう。

 華奢なキャビネット構造からできるだけの低音を引き出そうとする意図なのかは不明であるが、見た目的には少々バランスが悪く感じられる。

 これはユニットがシルバーだからなのか、その後に開発されたレッドでも同じであったのかは分からないが、変わっていたので少し目を惹いた。

 同じCHATSWORTHであっても、キャビネットが大きく違い、ユニットが2世代異なっているので、我が家で聴いていたCHATSWORTHの音色とは相当異なっているであろう。

 この二つの古いスピーカーを一度聴いてみたいという純粋な好奇心はふつふつとわき上がってくる。まあ、冷やかし半分の気持ちでショップに行ってみることにした。

 ショップの電話番号を調べて電話してみた。何度か電話音が鳴ったが、一向に出ない。「出かけているのか・・・あるいはショップの定休日か・・・」そう思って一旦電話を切った。

 夜になってからもう一度電話してみた。やはり同じであった。きっとオーナー一人で運営しているショップなのであろう・・・明日もう一度電話してみることにした。

2014/1/21

2868:シルバー  

 TANNOYのモニターシルバーは1953年〜58年の5年間において生産された。12インチと15インチの2種類があり、その当時の生産能力からして生産数はそれほど多くなく、今となってはとても貴重な存在となっている。

 ステレオのレコードが出始めたのは1958年ごろであるので、もともとモノラルで楽しむことを想定したユニットである。

 このモニターシルバーを搭載し、キャビネットもイギリス製のオリジナルで、更にペアで販売されているスピーカーはきわめて稀にしか見かけない。もちろん、価格はその希少価値からしてそれなりに高くなる。

 その希少なモニターシルバーを搭載したスピーカーがとあるショップに二つも入荷していた。今年に入って英国から持ち込まれたようである。

 それを知ったのはAさんのメールが今日の夕方入ったからである。Aさんは「TANNOYならモニターシルバー」が信条である。どちらも12インチのモニターシルバーが搭載されている。CORNER CHATSWORTHとCORNER CANTERBURYである。どちらもペアであり、キャビネットは本国オリジナル。大変希少なものである。

 そのサイズは、一般の住宅で使用するのであれば、ちょうど良いもの。もちろん15インチに比べると低域の量感は劣るであろうが、その分バランスが取りやすく、豊かな音場表現を得意とする。

 TANNOYのスピーカーはキャビネットの響きで鳴らす面があり、どちらのスピーカーも本国オリジナルキャビネットである点においても魅力的なものである。

 当然の結果として、これらのスピーカーのプライスタグには、その希少価値を反映して、それなりの数字が並んでいる。一種の文化遺産と見ればけして高くはないのかもしれないが・・・おいそれとは手を出せない価格であるのは事実である。

 まあ、最近のハイエンドオーディオにおけるスピーカーの常軌を逸したかのような価格を顧みれば、それほど高くないのではと思えてしまうが・・・

 CHATSWORTHは以前使用していたことがある。その時はコーナー型のキャビネットではなく、レクタンギュラーと呼ばれる通常の四角い箱であった。搭載されていたユニットはモニターゴールド。TANNOYとしては明るめの音色で伸びやかな音であった。

 コーナー型のCHATSWORTHは聴いたことがない。もちろんモニターシルバーが搭載されたCHATSWORTHも聴いた経験はない。

 ショップの試聴環境というものは大概酷いものである。そのスピーカーの本来の実力がしっかりと発揮されているケースはほとんどないけれども、この二つのTANNOYは近いうちにショップで試聴してみたい。



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