2013/4/18

2590:ジェニファー  

 今日は初夏の陽気であった。午後からは強い南風が吹き始め、砂埃を大気中に巻き上げていた。日中はスーツを着ていると汗ばむくらいで、車に乗って移動するときにはエアコンで冷房を効かせた。

 夕方になっても風は治まらず木々を断続的に揺らし、八重桜のピンク色の花弁をどこからともなく運んできていた。殿ヶ谷庭園の前を通って、ダンス教室があるビルへ向かって歩いていった。

 そのビルは国分寺駅の南口から徒歩で5,6分のところにある。小綺麗なビルである。そのビルの3階に、ダンス教室が入っている。

 3階は二つの部屋があり、もう一方は一般の会社の営業所のようであった。ダンス教室の入り口はガラス張りの扉である。なので、その扉を開ける前に中の様子が窺える。

 一瞬立ち止まって深呼吸した。中の様子をそれとなく窺った。7,8名の人々がいた。踊っていた。先生が3名。あとは生徒のようである。

 腕時計を確認した。予約していた時間の2分前であった。意を決してそのガラスの扉を開いた。中の様子を窺いながら受付で立っていると、女性が近づいてきた。

 「予約していた○○と言います。」

 と伝えると、その女性は「はい、聞いています。ウィンナ・ワルツを教わりたいという方ですね。私が担当させていただく講師の○○○です。お名前は○○○さんですよね、私と一字違いですね・・・」と笑顔で答えてくれた。少しばかり緊張がほぐれた。

 そして、入会の経緯について再度要点を話した。「2ケ月後にセミフォーマルの舞踏会があるのですが、それまでにとりあえずウィンナ・ワルツの音楽に乗って踊れるまでになりたいのですが・・・」私はその女性の目を見ながら、ちょっと自信なげに説明した。
 
 フロアには初老の女性講師が、男女のペアにレッスンをしていた。そして、比較的若い男性講師が数名の女性グループにグループレッスンをしていた。レッスンを受けている人々の平均年齢はかなり高め。やはり社交ダンスをする人々の年齢層は想像通り高い。

 私の担当となった講師の女性は30代前半であろうか。さすがに社交ダンスを真剣にやってるので、贅肉は全くと言っていいほどない。スレンダーで優雅なプロポーションである。そして、優しげな瞳が印象的な美人である。

 思わず映画「Shall we dance?」のことが思い起こされた。オリジナルの日本版では役所広司が偶然電車の窓から見かけた草刈民代に惹かれ、そしてハリウッド版では、リチャード・ギアがジェニファー・ロペスの悲しげな瞳の魔力に魅入られて、ダンス教室の扉をくぐった。

 私は、何の因果かウィンナ・ワルツを踊る機会を得ることとなり、ダンス教室のガラスの扉をくぐったのであるが、そこには草刈民代かジェニファー・ロペスと比べてもそれほど遜色ないのでは思わせるような女性がいた。

 やる気が俄然出た。男なんて幾つになっても可愛いものである。まずは基本のステップから・・・そしてナチュラルターンへ・・・約30分のレッスンであった。

 初回なのでゆっくりとしたテンポで基礎の基礎を教わった。実際にはかなり早いテンポで踊ることになる。まだまだ道のりは長い。

 来週の火曜日の夜に次回のレッスンの予約を入れて、そのダンス教室を後にした。「初めてにしては、良い感じですね・・・運動神経が良いんですね・・・何かスポーツでもされているのですか?」

 「ジェニファー」が訊いた。「いえ、あまり、たまにするゴルフとテニスぐらいです・・・」と私は照れながら答えた。心のうちではなにかしらにんまりしていた。講師が生徒のやる気を引き出すための常套手段にすぎないお世辞であるのに・・・やはり男って可愛いものである。



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