2013/4/12

2584:サルビアの花  

 一足先に浴室を出た私はベッドにうつ伏せになりながら、ベッドの上部にあるコントロールパネルの有線放送のボタンを押していた。アルファベットのボタンと数字のボタンがあり、それらを組み合わせることにより、チャンネルを選ぶ。

 相当数の組み合わせがあり、ボタンを押すごとに様々な音楽がこのホテルの部屋の天井に設えられたBOSE製の黒い小さなスピーカーから流れてくる。

 そして「C」と「7」の組み合わせにした時に流れてきたのが、「サルビアの花」であった。

 「いつもいつも 思ってた。サルビアの花を 君の部屋の中に投げ入れたくて・・・」
 
 女性の声であった。「これは『もとまろ』という女性フォークグループのバージョンだな・・・」そう思った。この曲は何人かのアーティストがカバーしている。

 もともと「サルビアの花」は、日本のロックバンドの草分け的な存在と言われているジャックスのリーダーだった早川義男が、1969年に出したソロアルバム「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」に収められていた曲である。

 早川義男が歌っているオリジナルだと、この歌の背後にうごめく狂気に近い感情が恐いくらいにひしひしと伝わってくるが、もとまろのカバーでは、その恐ろしいまでに狂おしい感じは薄められ、幻想的な雰囲気によりシフトする。

 「そして君のベッドに サルビアの紅い花 しきつめて 僕は君を死ぬまで 抱きしめていようと・・・」

 その歌詞はやがて、変調してゆき、最後にはなにかしら心に影を落としてゆく。確か、この曲は井上陽水もカバーしていたはずである。井上陽水のカバーもなかなか味わい深いものがあったような記憶がある。

 「とびらを開けて出てきた君は 偽りの花嫁・・・」

 曲は終りに近づいてきた。「寧々ちゃん」がバスタオルを巻いて浴室から出てきた。

 私はコントロールパネルの照明ボタンを選択した。AからEまで五つのボタンが並んでいる。そのボタンごとに照明の雰囲気が変わる。

 あまり暗くなり過ぎない照明パターンを選んだ。もとまろが歌う「サルビアの花」は終わった。しかし、私の頭に中ではその印象的なメロディーと歌詞が繰り返し流れていた。

 この広すぎないホテルの一室に置かれた大きく清潔なベッドにはサルビアの花はしきつめられてはいない。そのベッドに彼女はバスタオルをとって、横たわった。私のすぐ隣に・・・



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