2013/4/10

2582:シロノワール  

 「昨日のラウンドはどうでしたか?」

 「寧々ちゃん」はコーヒーカップをソーサーにもどしながら、話題を変えた。

 「それは、まあ散々でした。シャンクが2回も出たし、グリーンが硬くて速くて・・・アプローチはよらず、パットは強気で攻めるとスリーパットがどかどかと・・・結構タフなコースでした。90を切るどころか100を叩いてしまいましたよ・・・」

 彼女は微笑んだ。

 「そうだったんですか・・・でもtaoさんが100を叩くとなんだか嬉しくなりますね。私と同類って感じで・・・」

 「時々ありますよ・・・100叩きなんか・・・練習も週に1回のスクールだけですしね・・・それに、冬の間はまったくラウンドしなかったから。やっぱり、クラブは頻繁に振っておかないとだめですね。」

 コーヒーの色合いは黒い。その黒の中に若干の茶色が混じっている。その表面は淡く光を反射していて、つややかである。

 「先週、ラウンドしたんですよね・・・どうでしたか?」

 今度は私が彼女に訊ねた。

 「106でした・・・私としてはまずまずなんですけど・・・前半51で、もしかして、と思ったんですけど後半は55、ちょっと残念・・・という感じかな。でも、なんだか少し光明が見えたような気がした・・・まあ、気のせいかもしれないけど。」

 彼女はまだ100を切ったことがない。彼女にとっての鬼門はバンカーである。いつもバンカーでは苦労するのである。

 昨年のスクールでのラウンドレッスンで、彼女と一緒に回った。途中まで50を切るかもしれないペースで回っていたOUTの8番ホール、顎の高いバンカーで4回も打ってしまった。前日の雨でバンカーの砂が湿って重くなっていたのである。そのため、薄く入れないとボールが飛ばない。かなり手前にクラブヘッドが入ってしまって、ボールは力なく上がるだけで3度も足元に転がってきてしまった。これでリズムを乱して、結局その日のラウンドでは100を切ることはできなかった。

 「ゴルフって、叩くとへこむけど、18ホール回っている中にはなにかしら良いこともあるもんですよ。私も昨日は出だしはパースタートだったんです。しかも、セカンドショットは難しいポジションで、狙い通りフェードを打てたんですよ。すううとボールが右に曲がっていって、グリーンにONした時には、気分良かったです・・・俺って結構できるんじゃないって勘違いしたくらいです。」

 その後もゴルフのことで話は盛りあがった。彼女と待ち合わせたのは最近流行りなのであろうか、時折ロードサイドで見かける広い駐車場を併設した郊外型の大型喫茶店。

 コーヒーもまずまず美味しい。二人ともシロノワールとコーヒーのセットを頼んだ。シロノワールは丸いデニッシュにソフトクリームが乗っかっている。さらにシロップを好みでかける。そんなシロノワールをソフトクリームが溶けないうちに口に運んだ。すると、口の中は種々雑多の味わいで満たされた。

 「今日は時間、大丈夫?」

 彼女の眼を覗きこむようにして訊ねた。

 「ええ、大丈夫・・・」

 彼女は、唇についた白いソフトクリームを舌で取りながら、頷いた。

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2013/4/9

2581:シャンク  

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 富士山の背景は青空である。雲も見えず、その稜線はくっきりと見えていた。富士桜カントリー倶楽部では、所々で富士山の雄姿を眺めることができた。

 今日は、今年2回目のゴルフである。富士桜カントリー倶楽部は、「フジサンケイクラシック」が行われることで有名なコースである。素晴らしいコースであるが、とても難しい。特にグリーンは、速いうえに読みづらい。グリーン上で苦労するであろうことが予想された。

 OUTスタートであった。1番ホールはミドル。比較的狭く感じるホールである。朝一ショットは、右めに飛び出した。ボールは右のラフで止まった。木の枝が張り出していて、グリーンをまっすぐに狙えない。フェードが打てれば、ちょうどグリーンに乗るのであるが・・・

 残り150ヤードほど・・・フェースを若干開き気味にアドレスして打った。高く打ち上がったボールは、徐々に右に曲がっていった。

 その曲がり具合がちょうど良く、グリーンにONした。そこからツーパットでパー。「おっと・・・幸先が良いな・・・90切れるかな・・・」その後に待ちうけていた苦難を知らない1番ホールを終えたばかりの私はちょっと楽観した。

 続く2番はショートホール。先ほどの1番ホールのセカンドショットが思いのほか良かったので、自信を持ってアイアンを振った。

 すると妙な打感が手に伝わってきた。「シャンクだ・・・」ボールは右斜めに飛び出し林の中に消えた。

 「もう1球、お願いします・・・」

 キャディーさんが冷静に言い放った。ボールは白杭の遥か向こうへもぐりこんで行ってしまった。

 今まで、あまりシャンクの経験はない。一旦シャンクが出ると、少し怖いもの。「次は大丈夫だろうか・・・」と疑心暗鬼状態に陥る。

 続いて打った球は左へひっかけた。このホールは「7」と大叩き。1番のパーで気分を良くしたが、すぐさま奈落の底へ・・・

 予想していたとおりグリーンは難しかった。強気でいくとすぐさまスリーパットがでる。慎重に対応するが、曲がりの読みも全く合わない。

 パットの結果が悪いと、ショットのリズムも狂ってくる。ダボやトリがザクザクとれた。しかも、シャンクがまた出た。

 距離が360ヤードのミドル。フェアウェイでの第2打、残り130ヤード、比較的平坦な場所から打った。すると、またあの妙な打感が手に伝わってきた。シャンクはネックにボールが当たることによって生じるミスショットである。当然まっすぐに飛ばない。右斜め45度方向へボールは無残な軌道を描いた。

 そんなこんなで前半は「53」と散々であった。後半のINはどうにかシャンクは出なかった。しかし、難しいグリーンには相変わらず手こずった。どうしてもリズムに乗り切れずに「48」。難しいグリーンとシャンクに泣かされたラウンドであった。

 スコアは良くなかったが、間近で見る富士山は美しかった。「もう少ししたら、あの山を登る。ロードバイクで・・・」そんなことを思ってまぶしく凛とした富士山を見上げた。

2013/4/8

2580:窓  

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 A氏邸のリスニングルームは半地下の部屋である。天井や壁が漆喰で仕上げられている。漆喰は室内の空気の清浄効果があるのであろうか・・・独特の空気感が部屋を占める。

 小さな正方形の窓が天井の近くにあり、外の光を神妙に室内に導いている。その明り取りの窓からの光は白い漆喰の壁に反射し青い光となっていた。

 音楽を聴く時にはその青い光と、リスニングポイントのすぐ脇に置かれた白熱灯のスタンドが淡く放つオレンジ色の光のみが、部屋全体をうっすらと照らし出す。

 この光の演出により、部屋の両コーナーに設置されたTANNOY GRFは深遠な雰囲気に溢れている。リスニングポイントに置かれたル・コルビジェがデザインした皮のソファは柔らかい座り心地である。そのソファに深く腰掛け、足を組んだ。

 まずはラベルのピアノ協奏曲のレコードがかかった。音楽がかかると、淡い光の中に浮かぶ漆喰の壁は徐々に消えていく。

 その漆喰の壁の前に置かれたTANNOY GRFも音楽の進行に連れて、その姿を消していく。よく、オーディオマニアが使う表現として「スピーカーが消える」とか「壁がなくなり、その向こうまで音場が広がる」というものがあるが、そういったオーディオ的な意味合いとは全く異なる次元での意味合いで、壁が消え、スピーカーが消えていく。

 それらのものが消えていった先に見えてくるものは、「風景」である。優れた音楽や演奏というものは、脳内になにかしらの化学反応を起こさせて、実際には見えていないものを脳内の淡く白いスクリーンに映し出すかのようである。

 私は目を開けながらぼんやりと浮かぶ白い漆喰の壁を見ていた。でも脳内では全く別の風景が流れていた。

 ラベル、ドビッシー、シベリウス、そしてブルックナー・・・素晴らしい演奏家による貴重なレコードが次々にROKSAN XERXESのターンテーブルに載せられた。

 シベリウスの交響曲第4番・・・指揮はKurt Sanderling。エテルナ・レーベルらしく紙質の良くない薄いジャケットに収められていたレコードには、実に素晴らしい演奏が収められていた。

 ブルックナーの交響曲第5番・・・指揮はオイゲン・ヨッフム。こちらのレコードもエテルナ・レーベル。今日聴かせていただいた多くのレコードのなかで、この2枚のレコードは、特に素晴らしかった。どちらも私の大好きな曲である。

 壁も消え、スピーカーも消え、オーディオ装置も消えた。そして、演奏している指揮者やオーケストラも消えた。優れた芸術が私の脳内の特定の部位を刺激する。すると、刺激された脳は、不思議な映像を生み出す。夢の中で見るような映像である。深みがあり、複雑な色合いである・・・目を開いていても、閉じていても、見える。

 小さな正方形の窓から漏れ入っていた青い光はやがて薄暗い光に変わり、そして真っ暗になっていった。A氏邸のリスニングルームに着いて3時間が経過していた。

 100km以上のロードバイクでのロングライドを経て、音楽を聴いた。体は疲労の極にあるはず。しかし、意識が遠のくことは全くなかった。脳内にはきっとロードバイクで空気で切り裂いていた時とは、同種に見えて全く別の脳内麻薬が分泌され続けていたようである。

2013/4/7

2579:急流  

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 名栗川の水量はいつもよりも多かった。今日の未明まで降り続いた雨のせいである。しかし、その雨も今朝早くには上がった。今朝の6時に起き出した時、窓から外を確認したところ、路面は濡れていたが、空からの滴はもう落ちていなかった。

 「これなら、行ける・・・」

 そう思って、サイクルウェアを取りだした。手早く朝食を済ませ、身支度を整えた。「早く起きた朝は・・・」を観終わって、テレビを消した。サングラスをかけ、ヘルメットを被り、ORBEA ONIXにまたがった。

 今日のチームでのロングの行先は「山伏峠」に決まった。実は三日前に行ったばかりの峠である。週末の天気が崩れるとの予報から、木曜日に休暇を取って、単独で出かけたのであった。

 でも、がっかりはしない。単独走行とチーム走行では、また雰囲気が違うからである。5台のロードバイクは乾いた音を立てながら、いつものルートを、いつもよりも少し速いペースで駆け抜けていった。

 天気は快晴に近かった。行きは風も穏やかであった。木曜日同様、絶好のロングライド日和である。

 山伏峠では、いつもどおりサイコンでタイムを計った。入りはとてもゆっくりと入った。いきなり早いペースでガシガシ漕ぐのはちょっとかっこ悪いものである。会話できる程度にゆっくりと上っていく。少ししてからいつものペースに・・・

 タイマーの表示が10分を経過するまでは抑えめに上がった。10分経過してから、少しばかりペースアップ。徐々に呼吸がせわしないものに変わる。斜度に合わせてギアを選ぶ。緩むと重いギアに上げる。体がきしみ始めると軽めのギアに下げる。

 頂上まで500mほどまで来たところで、腰を上げる。ダンシングでペースを上げた。転がり込むように峠の頂上に到着した。ぜいぜい言う呼吸を整えるためハンドルにもたれかかった。タイムは17分50秒・・・18分を切れたので、私としてはまずまずである。

 帰りは小沢峠、笹仁田峠を通って帰った。帰り道になると風が急激に強くなってきた。山伏峠を上り終えるまでは風は穏やかであったが・・・爆弾低気圧の名残であろうか、風は変幻自在、いきなりの横風や強い向かい風は嫌なものである。

 小沢峠、笹仁田峠でもぜいぜいいう辛そうな呼吸音を響かせて上った。平坦路でも強い風が行く手を遮った。帰りは結構タフな行程であった。

 家に帰り着いたのは午後の2時。汚れたロードバイクを清掃し、汗で汚れた体をシャワーできれいにした。時計の針は3時を指していた。

 「もう行かなければ・・・」

 A氏邸に4時にお邪魔する約束である。Mercedes-Benz E350のハンドルを握り、新青梅街道に車を進めた。ロングライドの疲労感はあったが、固めのシートに身を預けると、なんとなくシャキッとした。 

2013/4/6

2578:第4番  

 昼前には、水に黒いインクを垂らしたような雲が空に広がってきた。それを確認して、強い低気圧が近づいてきているのが分かった。

 雨が本格的に降り出したのは午後の3時頃。天気予報よりも降り出したのは遅かった。窓には雨が吹きつけてきて、ガラスを曇らせた。

 雨で曇ったガラス越しに見える風景は、歪んでいた。その風景にシンクロするかのように、Quad ESL989から流れ出していたのは、シベリウスの交響曲第4番の第1楽章である。

 この第4番は、それ以前の交響曲第1〜3番までとは曲調が大きく変わっている。とても内省的というべきか、深く暗い瞑想的な様相を呈しているのである。

 シベリウスはちょうどこの第4番の作曲に取りかかっていた時に、喉にできた腫瘍で手術を受けている。結果的にはその腫瘍は良性であったが、この経験は「死」というものを身近に意識する大きな経験であったようである。

 その影響がしっかりと刻みつけられたのが、この第4番である。そのため、第1〜3番に比べて、難解な曲となった。私も最初のうちはどうしてもなじめないというか「どこが聴きどころなんだろうか・・・」という困惑感に満たされた。しかし、辛抱強く何度か聴き返すうちに、その魅力に惹きつけられるようになった。

 この第4番は、シベリウスの母国フィンランドの冬を想起させるものがある。フィンランドの冬は重く厳しく長い。空は凍てつくような寒さの空気の中、薄暗い。陽光はほのかで力なく、木々は身を凍らせながらピンと張りつめて立ちつくしている。そんな延々と続くと思われる北国の冬の景色そのもののような音楽である。

 今日の午後、窓ガラス越しに見える風景と見事にマッチするこの曲を聴いて、暫しの間心は大きく内向きに航路を変えた。

 演奏は、パーヴォ・ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル。録音は1986年。その澄み切った音は、この厳しい冬の景色を思わせる曲調と実にマッチしている。その内奥には豊かな詩情を秘めながらも厳然とした構成美を崩すことなないとても良い演奏である。

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2013/4/5

2577:ふりかけ  

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 山伏峠を上り終えて、正丸峠まで足を伸ばした。峠の茶屋にはまだ客は誰もいなかった。時間は11時半・・・昼時にはまだ少し早い時間である。

 「いらっしゃい・・・」ひとの良さそうなおばちゃんが迎え入れてくれた。店の中は結構広い。テーブル席が六つぐらいあり、奥には座敷の席もある。

 「正丸丼できますか?」

 席について訊いた。

 「ああ、大丈夫ですよ・・・今日は良い天気ですね・・・昨日と一昨日は風と雨が強くてお休みだったんです・・・木曜日は休むことが多いんですけどね・・・二日続けて休んだんで、今日はやっているんです・・・」

 お茶をテーブルにおいて、おばちゃんはひとしきり話した。

 「風と雨が強いと、時々雨が換気扇を逆流して、お店の中に吹き込んでくることがあるんですよ・・・でも風向きが良かったのか、昨日の風では雨の吹き込みはなかったみたい。今朝心配してお店に来たんですけどね・・・全然大丈夫だった。」

 キッチンの中にはもう一人のおばちゃんがいて、食事を作っている。そのおばちゃんに向かって「どんぶり・・・ひとつね・・・」と声をかけていた。

 「今日は天気が良いから、昼過ぎにはハイカーなどもやってくるだろう・・・」そう思いながら一時の時間、広い店内をひとり占めした。窓からは春霞にうっすらと煙る景色が見える。西武ドームが小さく光っている。まるで白い子亀の甲羅のようである。

 運ばれてきた「正丸丼」は見慣れたものである。甘辛く炒めた豚肉が食欲をそそる。どんぶり飯がすいすいと口に運ばれ、見る見る減っていた。素朴な味わいである。坂を上り汗をかいた。体を酷使した。そのおかげで、正丸丼には特別な「ふりかけ」がかけられているかのようである。

 その「ふりかけ」はどんな色をしているのであろうか・・・金色であろうか、黄色か・・・飴色のような渋い色合いであろうか。

 私が子供の頃「ふりかけ」と言えば、丸美屋の「のりたま」であった。ノリと卵の絶妙なバランス、その舌に馴染む味わいがご飯を別物に変えた。

 そういえば、大人になるに従って「ふりかけ」とは縁遠くなってしまった。「ふりかけ」は子供の食べ物という気がしていたのかもしれない。

 この正丸丼には、目には見えないが、子供の頃の「のりたま」のようなある特別な存在が確かにかかっていた。峠の茶屋からの景色や、気の良いおばちゃんの笑顔や、ひいこら言いながら上がってきた峠の坂道が、絶妙なバランスで配合されているかのようである。

2013/4/4

2576:ニンジン  

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 里山はたおやかな春の中にあった。春の陽光は芽吹いたばかりの緑のように柔らかく、頬に当たる風はすっかりと衣替えを行ったようであった。

 今週の週末も天気が崩れるとの予報に接し、急遽今日は休暇を取って単独ロングへ出かけた。天気は快晴。風も午前中は穏やかであった。

 桜は葉桜になってしまったが、山々には様々な色の花があちらこちらに見えた。鶯がその美声で歌の練習を始め、時折りひよどりが鋭い鳴き声を空に放っていた。

 今日はこれ以上ないのではと思えるようなロングライド日和であった。目指す先は行き慣れた「山伏峠」。いつものように旧青梅街道、岩蔵街道を通って飯能方面へ向かった。名栗川に沿った道を走る頃には気温もぐんぐん上がり、暖かいを通り越して熱いくらいであった。

 平日の昼間なのでロードバイクとすれ違うことは日曜日よりも少なかった。山伏峠の上り口に着くまでに3台のロードバイクとすれ違った。

 上り口についてトイレ休憩した後、タイマーをセットした。今日は2回のタイムアタックを行うかどうか少々迷っていた。「2回のタイムアタックはしんどいよな・・・」

 山伏峠は上りなれた峠であり、いつもタイムを計る。目標タイムは18分。アスリート系の人にとっては朝飯前以前のような遅いタイムである。しかし、齢がついに50歳に達した「ウィークエンド・老ディー」にとっては、そこそこ頑張らないと出ないタイムである。

 「じゃあ、こうしよう・・・1回目のタイム計測で18分を切れたら、そのまま正丸峠まで足を伸ばして、正丸丼を食べる。18分を切れなかったら罰として、もう1回タイム計測を行う。」そう思いついた。これなら頑張るしかない。目の前にニンジンを吊るされた馬の心境である。

 前半は抑えめに・・・10分を経過するまでは無理は一切せず、脚に余力を残す。そして後半から徐々にペースを上げて、最後は気合のみ・・・という最近の作戦で臨んだ。

 上り始めて数分を経過すると前を走っているローディーが見えた。「良いペースメーカーが・・・」そう思って、その背中を視野に入れ続けた。

 前半は無理に追い上げず、着かず離れずで進んだ。半分くらいを経過した。少しづつペースを上げた。前を走っていたローディーとの差が詰まってきた。そしてそのまま抜いた。

 抜いていく際に「こんにちわ・・・」と小さめの声で挨拶した。そして、後半いつものようにしんどそうな呼吸で上がっていく。だれそうにはなるが、どうにか踏ん張った。

 山伏峠と書かれたプレートがある峠の頂上を、荒い呼吸を響かせながら通過した。タイマーのスイッチを押した。表示されたタイムは「17分39秒」。やはり「ニンジン」は効果的であった。

2013/4/3

2575:予定  

 今日は風が斜めに吹いていた。そして、その風は雨を伴っていた。風は周囲の状況に応じてなできるように吹きつけてきた。結構厄介な風であった。桜は風に煽られはらはらとその花弁を散らし、桜の木の下には薄いピンク色の絨毯が形成されていた。

 ここ数日、天候は不順である。3日前の日曜日も雨模様であった。チームでのロングライドは中止となった。そして、明日は一旦天気が回復するようであるが、またこの週末の天気は崩れそうである。週間天気予報の土曜日と日曜日の欄には傘マークが見え隠れしている。

 「この週末も雨模様か・・・」と少々心穏やかざるものがあった。次の日曜日も雨だとしばらく長い距離を走らないことになってしまう。

 「これはいかんな・・・いかん、いかん・・・」と思った。ローラー台で時折汗を流してはいるが、実際にロードバイクに乗って風を切って走らないと体の充足感はいまひとつである。

 明日の天気予報はどのチャンネルでも晴天で暖かく、絶好の洗濯日和とのことであった。「ということは、明日ならば、絶好のロングライド日和ということか・・・」

 明日のスケジュール表を確認した。5時半に1件顧問先を訪問する予定が入っているのみであった。それ以外は2件の相続税の申告の準備作業を事務所内する予定である。
 
 「まあ、いいか・・・まだ申告期限までには余裕がある。明日、走ろう・・・そうしないと今度の日曜日も危ない・・・」そう決めた。スケジュール表には午前中と午後5時まで「休暇」の文字を書き込んだ。

 「どこに行こうか・・・まあ、定番の山伏峠が無難か・・・」山伏峠を2度タイムアタックすると結構ハードな行程となる。

 少しばかり鈍った体に渇を入れるにはちょうどいい。きっと「春爛漫ロングライド」になるはずである。

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2013/4/2

2574:VX-5  

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 Ayreはアメリカのボルダーに本拠地を置くハイエンドオーディオメーカーである。デジタル機器も作っているが、アンプがメインである。

 従前のラインナップでは、プリアンプK-1、パワーアンプV-1のペアがフラッグシップであった。そしてその下にK-3、V-3というペアが位置していた。

 現在はこのラインナップはカタログから落ちて、従来のデザインをより恐縮感のあるものに変えてきた、リファレンスシリーズと名付けられたプリアンプKX-RとパワーアンプMX-Rのペアが、フラッグシップとして新たに登場した。さらにモノラル構成であったMX-Rのステレオ版であるパワーアンプのVX-Rが、このリファレンスシリーズに加わった。

 ノーマルなラインでは、K-3、V-3のペアの後継機として登場したプリアンプK-5とパワーアンプV-5がミディアムクラスのモデルとして継続生産されている。しかし、発売から相当な時間が経過していて、このシリーズのラインナップの更新が今後の展開として期待されていた。

 そんななか、パワーアンプのVX-5が新たに登場した。従前はプリアンプは「K」、パワーアンプは「V」の後に数字が続く形で製品名が構成されていたが、今後はそれぞれ「KX」「VX」の後に数字が続く形で製品名が構成されるのであろう。

 さて、その新たに登場した「VX-5」であるが、従前の製品の質感と同じ意匠をまとい、よりコンパクトでスマートなデザインとなった。現行型の「V-5」をシェイプアップして、より敏捷に動ける体にしたという印象である。

 この意匠は清潔感がある。澄んだ空気感を醸し出しそうな雰囲気に溢れている。Ayreの音の特徴が上手くそのデザインに盛り込まれているように感じられる。

 熱っぽく、汗臭いような表現は苦手かもしれないが、高原の爽やかな空気を連想させるような音場の表出は得意としている。

 このパワーアンプに続くのは、きっとプリアンプ「KX-5」であるはず・・・デザインは現行型の「K-5」を踏襲したものになるであろう・・・早く目にしたいものである。

 プリアンプ「KX-5」、パワーアンプ「VX-5」のラインナップが揃ったなら、一度試聴してみたい。「グランフォンド八ケ岳」の時にロードバイクで八ケ岳の麓を駆け抜けた時のような爽やかな音に触れられるかもしれない。

 Ayreのリファレンスシリーズはあまりにも高価である。しかし、このVX-5、そしてきっと登場するに違いないKX-5のシリーズは、ハイエンドオーディオ機器としては比較的現実的な価格帯であり、人気を博すのではないであろうか。

2013/4/1

2573:打たせ湯  

 昼食を食べてしばらくした時間帯、強い睡魔が襲ってくることがある。2時前後の時間帯である。その時間帯に車を運転していると、「これは少し危険かも・・・」と思うことがある。そういう時は、時間が逼迫していない限り、どこかに車を停めて少しの時間仮眠をとるようにしている。

 今日もその時間帯にちょうど車で移動中であった。時折意識がふっと遠のくような睡魔が襲ってきた。「昨晩いつもより少し長めにローラー台で汗を流したので、疲れているのであろうか・・・」そう思った。
 
 ちょうど左側にセブンイレブンの看板が見えた。車をその駐車場の隅の方に入れた。最近郊外にあるコンビニの駐車場は広い。平日の午後、駐車場は空いていた。

 車を停めて、シートを倒していく。相当なリクライニング状態にして、そのシートに背を預けた。クラシックのCDを小さめの音量でかけた。

 すると、「きまくらドン!」くらいの短い時間だけ、その音楽は意識に上ったが、あっという間に無意識の状態に溶けていった。

 15分ぐらいであろうか・・・無意識の中を泳ぐように漂っていた。そんな短い時間でも夢を見るようである。

 私は大きな更衣室のようなところにいた。キーのついた小さなロッカーのようなものがたくさん並んでいて、何人かの男性が着替えていた。

 私もその中にいた。これから服を脱ぐところであった。傍らには小さな女の子がいた。私の次女であった。まだ幼く3歳程度である。

 「そうか・・・ここは日帰り温泉の脱衣所か・・・これから温泉に浸かる・・・」子供の服を逃がせ、手を取って温泉の浴場へ向かった。

 子供ははしゃいでいる。「外が良い・・・外のお風呂に行こう・・・」と言ってきかないので、露天風呂の方へいく。そこには岩で淵を飾られた純和風の露天風呂が・・・

 しばらく、そこにいたがすぐさま「あっちが良い・・・」と今度は打たせ湯の方へ行きたがった。そこには二つの打たせ湯があった。

 ボタンを押すとしばらくの間湯が上から落ちてくる。それで肩や頭を打たせるのである。3歳の子供にとっては楽しい仕掛けである。ひとしきり嬉しがって、何度も何度もボタンを押した。

 打たせ湯ではしゃぐ子供に目を細めながら、ふっと空を見上げた。鳥の群れがかなり高いところをしっかりと隊列を整えながら移動していた。その隊列は「V」字をしていた。何羽いるのであろうか10羽以上の群れである。西の方に向かっていた。

 意識の中に音楽が戻ってきた。すぐさま時計を見た。それほどの時間は経過していなかった。シートを元に戻し、エンジンをかけた。エンジンの乾いた音が室内に響いた。それは、夢の中で打たせ湯が子供の体に当たって、飛び散る時の音のように感じられた。



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