2012/11/8

2429:オランダ坂 珈琲邸  

 「オランダ坂 珈琲邸」の店内は広く明るい。内装はコストの制約は当然あるが、そのなかで上手く高級感を出している。

 スペースはゆったりとしていて、椅子もテーブルも低く、ゆったりとした安心感が広がっている。なかなか上手な空間表現である。

 ここの売りは上質な珈琲である。値段はブレンドが400円。ドトールやスターバックスよりも高いが、味わいや空間のゆとり感の差からすると充分に納得できる値段である。

 11時からはランチメニューがあり、珈琲の値段に480円をプラスするとスパゲティーかヒレカツサンドが付く。

 女性陣2名はスパゲティーセット、そして私はヒレカツサンドセットを注文した。時間が比較的早かったので、まだそれほど混んでいなかった。

 まずは珈琲が運ばれてきた。やや大きめのマグカップに注がれた珈琲からは良い香りが立ち上っていた。一口飲む。その味わいは上品で濃くがある。雑味は少なく、上手くまとめられている。珈琲の味わいがこのビジネスの成否の要ということを肝に銘じて吟味したことが分かる味わいである。

 400円の珈琲というものが、恐ろしく世知辛い現代においても十分にビジネスになるということをこの店は証明している。もちろん珈琲だけでなく、その空間や接客など、値段に見合うものを提供することが必要条件とはなる。

 しばらくして食事が運ばれてきた。サラダやヨーグルトも付いている。ボリュームはそこそこある。普通の昼食としては十二分なボリュームと言えよう。

 食事の味わいは珈琲に比べると秀でているとは言えないが、そこそこである。開店は7時で、モーニングもあり、そちらはもっとリーズナブル。

 「どうですか・・・ここ・・・なんとなく落ち着くでしょう・・・」

 私が訊くと「寧々ちゃん」は珈琲カップを置いて言った。

 「珈琲美味しいですね・・・落ち着いた雰囲気で、こういった店が近くにあったら良いですね・・・昼に食事がてら来てもいいし、珈琲だけでももちろんいいですしね・・・私にはスターバックスよりも合っているかも・・・スターバックスだと若い子が携帯いじりながら珈琲を飲むって感じですが、ここならおばさん年齢でも大丈夫そう・・・」

 Nさんも気に入ったようである。

 「そうね・・・年齢層が結構上よね・・・こういう市場ってきっちりとあるのよね・・・個人経営の喫茶店はどんどん寂れちゃっているけど、こういう広くて清潔な空間で美味しい珈琲を飲んでゆったりと友人と時間を過ごすのって気分が良いものよね・・・この手の店、増えるかもね・・・ビジネス的にも上手くいきそう・・・」

 食事と珈琲を楽しみながら、三人はいろんなことを話した。ゴルフのこと、ロードバイクのこと、子供のこと、仕事のこと・・・時間は会話が巡るように、テンポ良く巡っていった。

 Nさんが離婚したのは3年ほど前である。彼女は地方公務員であるので、経済的には自立している。一人いる子供は彼女が養育している。その子ももう大学生である。

 「Nさんは、再婚は考えていないんですか・・・子供も手を離れて、少しさびしくないですか・・・」

 空になった珈琲カップの取っ手のところを指で触りながら何気に訊いてみた。

 「そうですね・・・全くない気はないけど・・・あまり積極的には考えていないかも・・・一度失敗していますからね・・・離婚って結構エネルギーがいるんですよ・・・とても疲れちゃって・・・あんな思いはもうしたくないから、少々尻込みしているのかも・・・」

 「そうでうよね・・・人間は習慣の動物ですからね・・・いままで当たり前だったことが崩れ去ると、なんだか不安感に苛まれますよね・・・」

 「そうそう・・・コツコツ積み上げるのも大変かもしれないけど、形ある物をがさっと崩すのも大変です・・・辛いことですし・・・」

 「寧々ちゃん」とふと目があった。何かしら語りかけているような表情にも見えた。

 「どうでした・・・スパゲッティー?」

 「まずまず・・・次第点かしら・・・」そう言って「寧々ちゃん」は微笑んだ。

 「人気出るのは分かる気がする・・・上手くいくんじゃないかしら、この店・・・あの店長が良いわね・・・品があって・・・」

 Nさんはホールを仕切っている中年男性を横目で見て言った。



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