2012/10/16

2406:宿  

 安曇野の中房温泉は秘湯であろう。山深く入っていく必要があった。幾重にも折り曲がった登り道は細く、対向車があるとすれ違えないところも多い。

 「もしも、対向車が来たら、どっちが優先権があるんだっけ・・・確か登り優先だったはず・・・しかし、登りであっても、待避所が近ければ近いほうがバックすべきか・・・」

 そんなことを思いながらハンドルを握っていた。助手席に座っていた「寧々ちゃん」は、周囲の山の景色に見とれているようであった。

 平日であったので、道は空いていた。対向車はほとんどなかった。結局1台のみであり、ちょうどすれ違うのに十分なスペースのある箇所であった。

 木々の色づきは、徐々に佳境に入ろうとしている感じであった。まだ最盛期というわけではないが、確実にその色彩を変えようとしていた。

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 緑、オレンジ、赤、茶色・・・そういった色たちが微妙なバランスでその領域を分かち合っていた。「過渡期」という言葉を思い出させる色の饗宴である。

 あと一週間もすると赤やオレンジといった暖色系の色合いがそのせめぎあいを征するようになるのであろう。

 宿は温泉旅館という言葉から連想される建物ではなく、もっと洋風である。スイスのアルプスの麓にあっても、様になるような建物である。窓辺に花などを飾れば、そういった雰囲気が一層花咲くのではと思える。

 このささやかな旅行の目的からするともっと密やかであってほしいところである。これでは少々あけすけというか、隠微な感じが不足気味である。

 まあ、贅沢は言うまい。そんな不足感は、ややぬるめの露天風呂に入り、徐々に紅葉を深めていこうとする山々を眺めたならば、一気に吹っ飛んでしまうはずである。

 広めの駐車場に車を停めた。時間は午後の4時を少しばかり過ぎていた。周囲の空気は、冷ややかで、晩秋というよりも冬を思わせるそれであった。車のトランクからそれほど大きくないボストンバッグを二つ取り出した。宿の周囲は静かであった・・・鳥の澄んだ声もとても遠くから聞こえてくるようであった。



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