2012/3/10

2186:虎バター  

 「虎たちのケンカはまったく収まりません。相手を食べてしまおうと、あいかわらずお互いのしっぽをかんだまま、木の回りをぐるぐると回るばかり。虎の輪はだんだんとスピードをあげていきました。輪の速さはぐんぐんと上がっていき、いまや、どれが足でどれが頭かさえ分からないほどです。それでも虎たちは早く早く走り続け、そのままとうとう溶けてしまいました。椰子の木の回りに、溶けた虎のバターができたのです!」 

 「ちびくろサンボ」のクライマックスは、何といってもちびくろサンボから赤い服、青いズボン、紫の靴そして緑の傘を取り上げた四匹の虎たちが、「俺がこの森で一番偉いんだ!」と言って争うシーンであろう。

 四匹のトラは互いの尻尾にかみついて椰子の木の周りを猛スピードで周りはじめる。そのスピードが常軌を逸したものであったためか、虎たちはすっかり溶けてバターとなってしまう。

 子供向けの絵本であるので、物理学の法則を無視した物語の展開であっても許されるべきだとは思うが、子供心にも「そんなことあるのかな・・・」と少々疑問に思ったことが記憶に残っている。

 しかし、そうは思いつつも、「虎のバター・・・どうな味だろう・・・ちびくろサンボが169個も食べたという、虎のバターで焼いたホットケーキを食べてみたいものだ・・・」とも思ったのも事実である。 

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 今日はpontaさんと連れだって、エム5さんのお宅にお邪魔した。エム5さんのお宅を訪問するのは3度目である。我が家の4倍以上の容積があると思える広い専用のリスニングルームには、黒いB&W N801とN802がフロントに設えられていた。

 その威容は、ちびくろサンボが森で出会った虎のように、猛々しかった。その足元にはCLASSEのモノラルパワーアンプが控え、その虎たちにさらなるアグレッシブな勢いを与えているようである。

 私は、リスニングポイントに座ると、その三つの獰猛な虎に見据えられた形となった。真黒な体の上部には黄色いスコーカーが瞬きもせずこちらを睨んでいた。

 「見るからに凄い音が出てきそう・・・」そう思って、体を強張らせたが、第一音を耳にして、その音の質感に、心の緊張感が思わず緩んだ。

 音の肌合いが実に有機的であったからである。低音の質感がとても澄んでいる。量感や伸び具合に不足があろうはずもないが、そのうえで低域の透明度が実に高い。

 その上質な低音を基礎として、彫が深く伸びやかな中高域がスムースにつながり、音楽の躍動感を細大漏らさずリスナーに届けてくれる。

 エネルギー感やスピード、音の立ち上がりや消え際の静けさ、正確無比な位相・・・そういったオーディオ的な諸要素が高次元でバランスしている。そのうえで、音の表面のとげとげしい毛羽立ちが全く感じられない。

 それは、もちろん使われているオーディオ機器の能力の高さに起因するところもあるであろうが、その多くの要因は、部屋とスピーカーとの協調体制の完璧さにあるのであろう。

 部屋とスピーカーとの協調体制がしっかりと取れているので、低音が深く沈むが、決して濁らない。スピーカーに送り込む音楽信号にも不要な濁りや滲みが入り込まないための多くの工夫が積み重ねられているので、スピーカーは実に心地よく歌を歌っているようである。

 pontaさんは一週間前にもエム5さんの音を聴いている。そのpontaさんが「先週と全然違いますね・・・また一段と凄いことに・・・」と驚いていた。

 エム5さんは、「スピーカーの高さを微調整したんです・・・ほんの数ミリですが・・・」とおっしゃられていた。その数ミリの微調整が、部屋とスピーカーとの協調体制をより万全なものにしてくれたようである。

 エム5さんがお使いのオーディオ機器は超高性能機器である。B&Wのスピーカーをはじめ、CLASSEのモノブロック・パワーアンプ、EMM LABSのデジタル機器、そして、力強さをスポイルしない高級なケーブル群・・・それらはややもすると「俺が一番偉い!」と喧嘩を始めそうであるが、エム5さんのリスニングルームでは、喧嘩を通り越して、猛烈なスピードで回り始めるようである。そして、四匹の虎のように溶けてしまう。

 その黄色く、なめらかなバターは、音楽をとても美味しく調理してくれる。これであれば、ちびくろサンボでなくても、169個を食することもできるであろう。



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