2012/3/8

2184:儀式  

 お風呂の形状は一般的には長方形である。しかし、目黒エンペラーの401号室のお風呂の形状はほぼ正方形である。横幅が広い。二人が並んで入ってもゆったりしている。縦はほぼ平均か平均よりも少し長めであろうか。私は身長があるので足を完全に伸ばすことはできないが、「寧々ちゃん」は足を伸ばせた。二人は向かい合わせになって、横に並んで入った。

 「やっぱり、寒い日にお風呂は最高ですね・・・」

 「気分がまったりします・・・」
  
 「日本人のDNAには『お風呂好きの』の情報が根強く刻まれているのでしょう・・・」

 「そうかもしれませんね・・・」

 私は、足を完全に伸ばせないので、膝を軽く曲げていた。私の右手は、「寧々ちゃん」の右足の足首に軽く添えられるように置かれていた。

 「私、男の人の曲げられた膝を見ていると、『これは象の頭だ・・・』って思ってしまうの・・・ここの膝小僧の丸いところが象の頭で、ここの窪んだところが目の部分。そして、この真ん中の部分、脛にむかってが象の鼻・・・象の頭蓋骨と、曲がった膝って、構造的に似ている気がする・・・」

 そう言いながら、「寧々ちゃん」は、私の右膝を、その右手の人差し指と中指で2,3度上下になぞった。

 「象の頭蓋骨か・・・そう言われて改めて見てみると、そんな感じに見えますね・・・」

 「寧々ちゃん」の右足首に定位置を定めていた私の右手は、その位置をずらしていき、そのふくらはぎに移った。彼女のふくらはぎのやわらかい肉を包み込むように、ふくらはぎのまろやかな曲線に合わせて、手のひらの形は丸くなった。

 「スヌーピーに出てくるライナスって知っていますか?」

 彼女のふくらはぎの感触をそっと手のひらに感じながら、不意に彼女に訊いた。

 「ええ、知っています・・・あの毛布をいつも頬にあてて、親指をしゃぶっている子でしょう・・・」

 「そうそう・・・私にも小さい頃、『ライナスの毛布』があったんです・・・実際には毛布ではなく、タオルケットでしたが・・・それを手で触っていないと寝付けなかったんです・・・確か黄色い色でした・・・とても柔らかくて、それを手で触っていると、気持が落ち着くんです・・・それが近くにないと不安で・・・眠れなかったようです・・・確か4,5歳の頃かな・・・」

 「もしかして、私のふくらはぎが、その安心タオルケットの感触と似ているのですか・・・」

 「そうそう・・・似ていますね・・・この柔らかさ・・・」

 「眠くなってきましたか・・・」

 「ええ、とても・・・」

 「じゃあ、taoさんが眠ってしまう前に一つお願いがあるんですけど・・・」
 
 「なんですか・・・」

 「私の後ろに来て背中から抱きしめてくれませんか・・・」

 彼女の希望は大胆というか、無邪気というか、少々虚を突かれた感があった。

 私は彼女の背後にまわり、ふとももで彼女の腰を挟み込むような感じにして両腕を回した。しっかりと抱くように手に力を込めて、その背中をこちらに引き寄せた。

 「名前で呼んでくれますか・・・下に『ちゃん』を入れて・・・」

 彼女の本名は「寧々ちゃん」ではない。これは私が勝手につけたあだ名である。彼女の本当の下の名前は「知佳」である。どうもその音感は彼女の雰囲気に合わないような気がしていた。

 「知佳ちゃん・・・」何度か彼女の耳元で囁いた。

 「馬鹿馬鹿しいでしょう・・・ごめんなさい・・・」彼女は目を閉じているようであった。この儀式にどのような意味があるのかは不明である。しかし、彼女にとっては、重要なことなのかもしれない。



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