2012/2/3

2150:ホテル  

 VW POLOの助手席に座った彼女はやや疲れた表情を見せていた。「耕心館」の駐車場をゆっくりと出て、圏央道の入間インター方向へ向かった。

 高速道路のインターのそばには必ずといっていいほどラブホテルが点在する。古いものから新しくカラフルなものまで様々である。

 そのうちのひとつ、明るめの色合いのホテルの駐車場に車を滑らせるようにして停めた。ホテルの入り口を入ると、部屋番号と部屋の写真が表示された大きな掲示板がある。電気がついているところが空いている部屋であった。客は空いている部屋番号のボタンを押す。すると、部屋番号が印字された紙がプリントアウトされるので、それを受け取り、部屋へ向かう。ホテルのスタッフと顔を合わせることはない。

 ホテルの一室では、聞こえてくる音は有線放送のBGMのみである。その電源をOFFにすると、エアコンの送風音が静かではあるが、その存在感を主張してきた。

 こういった類のホテルの一室で繰り広げられる行動パターンというものは概ね決まっている。ディテールにおいては当然のこととして差異はあるが、定型的なパターンというものは厳然としてあるはずである。

 しかし、私が一昨日経験した行動パターンは、その厳然として存在するパターンからは大きく逸脱したものであった。

 このような行動パターンをとった・・・いや、強いられたというべきか・・・のは、初めての経験であり、そういう意味では貴重な体験ではあった。

 お互い裸となり、ベッドに横たわり、肌を合わせた。エアコンは効いていたが、肌寒かったので、柔らかく軽い羽毛布団をかけてベッドに沈みこむようにした。

 彼女の頭は私の左の腕の上にあり、体はぴたっと寄り添っていた。彼女はこちら側を向いて、私の右の胸には彼女の左手が力なく置かれていた。

 彼女が求めたのは肌をしっかりと密着させること、頭を優しくなでること、そして時折背中を子供をあやすかのように軽くトントンと叩くことであった。

 このような状況で通常繰り広げられる性的な愛撫は、「今日は、ゆっくりと眠らせてください・・・」という彼女の哀願に似た言葉によって、しっかりとガードされてしまった。

 私は小さな子供をあやし寝かしつけるように、彼女に接することを求められたのである。羽毛布団に包まった二人は、そのお互いの体温で暖めあった。

 その暖かさにほだされたのか、目を瞑った彼女はやがて本当に寝入ってしまった。「不可思議だ・・・現実というものは・・・実に・・・」そんな思いがしばらく私の頭の中を駆け巡っていたが、私もいつしかその心地よく暖かい静謐の中に溶け込んでいった。

 どのくらい眠ったのであろう・・・ふっと気づくと、彼女はベッドにいなかった。お風呂のほうからシャワーの音が聞こえてきた。

 サイドテーブルに置いてある腕時計を確かめると6時を回っていた。お互いそれぞれの家に向かうべき時間である。

 私の車で彼女を耕心館の駐車場まで送っていった。その短い時間、彼女は穏やかな表情で話をした。ほんの気軽なドライブをした帰り道、家まで送ってもらっているという風情であった。

 その日一日は結局彼女に振り回されて終わった。彼女は実につかみどころのない不可思議な存在である。「天使なのであろうか・・・悪魔なのであろうか・・・」そんな疑問がふわっと泡のように浮かんだ。 



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