2012/2/1

2148:着信  

 人生も長い年月を経過してくると、これが現実なのか夢想の中での出来事なのか、分からないほどに、不可思議なことや、非現実的な出来事に出会うことがある。

 私も今までに「これが現実なのか・・・」と思わずつぶやくような出来事に出会うことがあった。後で振り返ってみれば、確かにそのような出来事が私の身近に起こり、それを目の当たりにしたということは分かるが、その出来事を体験していた時点においては、奇妙なことにあまり現実味がないのである。今日私が体験したことも、そのような種類の体験に分類できるのかもしれない。

 先週「寧々ちゃん」と昼食をともにした時には、彼女の様子はとても穏やかなものに見えた。確かにその表情は多少うつろというか、どこか生気のないもののような気はした。しかし、彼女は屈託なく話をしていた。話題は次々に展開し、とりとめもなく転がり続けるようであった。

 私が風邪気味であったこともあり、いまひとつ会話が組み合わないような印象を受けた。その時のつかみどころのない感じは、私の体調のせいであると思っていたのである。しかし、今冷静に思い出してみると、そうとばかりは言えなかったようである。

 「寧々ちゃん」との連絡はそのほとんどがメールである。携帯電話で直接会話することはほとんどない。なので、私の携帯に着信があることを示す振動があり、携帯を開いてその送信元が「寧々ちゃん」であることを示す表示を見たとき、少々違和感を感じた。

 「どうしたんだろう・・・何か急ぎの用であろうか・・・いつもはメールで連絡がくるのに・・・」心の中でそう思ったが、切れてしまわないうちに出た。

 「こんにちは・・・どうしたんですか・・・珍しいですね、携帯にかけてくるなんて・・・」

 「寧々ちゃん」は、ややくぐもった声で話した。

 「ごめんなさい・・・仕事中ですねよ・・・」

 「ええ、でも・・・今ちょうど外に出ていますから、大丈夫ですよ・・・何ですか?」

 「会えますか・・・」

 「えっ・・・これからですか・・・」

 「無理ですよね・・・」
 
 「いえ、大丈夫ですよ・・・今すぐでなければ・・・」

 その声のトーンは、明らかに心が動揺している様子であった。ちょうど外回りの途中で車で移動していた。訪問予定をずらせば多少時間を作ることは可能ではあった。

 「1時間後に、耕心館でどうですか・・・」

 「分かりました・・・すみません、無理言って・・・」

 耕心館は彼女の自宅から車で数分のところにある。古民家を瑞穂町が譲り受け、展示館や多目的ホールとして活用している。小さなレストランが入っていて、昼間は喫茶タイムとなる。その時間帯は来館者はほとんどいないはずである。



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ