2010/12/16

1738:抱擁  

 展望台の上はさえぎるものがない。風が少し出てきたようで、遊歩道を歩いている時よりも体感気温は下がったようである。

 「あそこに見えているのが、丹沢山系・・・晴れていれば、あの辺に富士山が見えるはずなんですけど・・・今日は雲に覆われていますね・・・ちょっと風が出てきましたね、寒くないですか?」

 「少し寒くなってきました・・・」「寧々ちゃんは」は少し肩をすくめるようにした。寧々ちゃんは展望台の真ん中に立っていた。私はそのすぐ後ろにいた。「寧々ちゃん」の背中が手を伸ばせば届く位置にあった。

 彼女の身長は155cmほど、私との身長差は25cm程度である。ちょうど頭一つ低い。後ろから肩を抱くようにすれば、すっぽりと包み込むように抱くことができる。

 「寧々ちゃん」は後ろを振向くことなく、展望台からの景色に見入っているようであった。彼女の背中に向かって1歩近づくと、その背中はすぐ目の前にあった。いつになく華奢な背中に見えた。

 「こうすると少し暖かいかも・・・」そう言って、「寧々ちゃん」の背後からその体を包み込むように抱きしめた。頬には彼女の髪の毛が触れ、シャンプーの良い香りがした。

 彼女はなされるがままに、身を任せていた。彼女の体重をしっかりと感じながら、頬で彼女の頭をなでるように密着させた。

 しばらく無言のまま時間が流れた。二人ともその短い時間を慈しむようにしていたのかもしれない。その沈黙を破ったのは「寧々ちゃん」であった。

 「なんだか安心する・・・こうされていると、遠い昔の子供の頃のことを思い出しちゃう・・・こんな年になって変でしょうけど、最近時々子供の頃に戻りたくなるんです・・・」

 「その気持ち分かります・・・こんな年になったから余計に昔が懐かしく重い出されるのかもしれませんね・・・」

 「taoさんでもそういう気分になるときあるんですか?」「寧々ちゃん」は自分の体を包み込むよ組まれている私の腕に両手を添えるようにしながら言った。

 「ええ、私もそういう気分になるときはあります。小学生や中学生の頃のことを思い出して、物思いにふけるようなことが・・・もちろん、その頃に戻れないことは分かりきっているのですが・・・」

 そう言い終ると、後ろからまわしていた腕を一旦ほどき、彼女の肩に軽く手を当てて、くるっとこちらを向かせるようにした。

 すると、「寧々ちゃん」はすっと私の胸に頭を持たせかけるようにした。彼女の頭はすっぽりと私の胸に収まった。一旦ほどいた腕を彼女の体にまわし、ぎゅっと身近に引き寄せるように抱きしめた。

 いい歳をした二人である。人生も後半にさしかかり、今までに良い意味でも悪い意味でも様々な経験を経ている。そんな二人であるが、何かしら純粋なときめきを感じた。

 どのくらいそうしていたのであろうか・・・ほんの数分だったかもしれない。あるいは数十分そうしていたのであろうか。記憶は定かではない。



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ