2010/10/31

1692:50:50  

 任天堂のWiiには体の重心位置を測定する機能がある。体重とともに体の重心がどこにあるかを画面で表示してくれるのである。私の場合、左足により体重がかかる癖があるようである。左右の足の重量バランスが左足53%、右足47%などと表示されることが多いのである。

 車の前後の重量バランスと同様、体の左右の重量バランスは、運動機能において結構重要な要素なのかもしれない。BMWは前後の重量バランス50:50に相当こだわっている。それはスムースで正確なハンドリングに欠かせない大きな要素と捉えているようである。

 Mercedes-Benzはその点に関しては比較的おおらかである。しかし、E350 BLUETEC STATIONWAGONは、ワゴンボディであるため後方の重量がセダンよりも重い。それが功を奏して車検証の重量前後配分がほぼ50:50なのである。そのためか、Mercedes-Benzにしては気持ちの良いハンドリング性能を有している。

 人体における左右バランスがどちらかにずれたままだと、いずれどこかに支障がくる可能性が高い。きっとゴルフスウィングにおいても、スムースで正確なスウィング形成に差し障りがあるはずである。

 そこで、2ケ月に1回の割合でチューバホーンさんが経営されている杉並区の「Pro・Fit」で体のゆがみを直してもらっている。1時間半の間じっくり施術してもらうと、左右の体のバランスがすっと整う。施術後は上がりにくかった右腕も軽くすっと上がり、右側がやや前方向に出てしまっている体のゆがみもすっきニュートラルに収まる。

 帰宅後、試しにWiiで体の重心測定を行ってみた。すると左右バランスはほぼ50:50となった。「さすが・・・」とひとり納得したのである。

 ひととおりからだの歪みが直ったところで、「Pro・Fit」の2階にあるチューバホーンさんのROKSAN XERXES20を少しだけ聴かせてもらった。

 ROKSAN XERXES20は、美しいプレーヤーである。色はメープル。アームはArtmiz。この造形は実にバランスが良い。そしてその音もバランスが良い。情に流れ去ることも、理知的に澄まし切ることもなく、そのバランス感覚は実に「50:50」なのである。

2010/10/30

1691:共通項  

 オルフィさんとひでやんさんは共通項が多い。まずは使用されているスピーカー・・・オルフィさんはソナスファベール ガルネリ・オマージュで、ひでやんさんはソナスファベール アマティー・アニバーサリオ。ともにソナス使いなのである。(ただし、オルフィさんのガルネリ・オマージュは相当な改造が加えられている。その画像を見せていただいたが、もはやオルフィ・バージョンともいえるほどの変貌ぶりであった。)

 さらにCDプレーヤーはワイスの最高級品。プリは無しでDAコンバーター内臓のボリュームを使用されている。ここはまったく同一。

 そしてパワーアンプは真空管式のものをお二人とも使われている。オルフィさんはマランツのPROJECT T-1。ひでやんさんはウエスギ。

 わが家との共通点を探るなら唯一パワーアンプが真空管式というところ。しかし、お二人がお使いのものと比べると、だいぶ時代がさかのぼるうえその性能面でもかなり見劣りすることはいがめない。

 またスピーカーにいたっては、50年もの月日を経過した「骨董品」であるので、お二人がお使いのソナスファベールのきらびやかな美しさはどこにもない。

 そんなわが家のオーディオであるが、自慢の愛車に乗ってお二人はわが家に来てくれた。オルフィさんはスープラ。ひでやんさんはレクサス。ここにも共通項が・・・

 わが家には二つのスピーカーがある。QUAD ESLとTANNOY CHATSWORTHである。まずは2階の寝室に無理やり押し込んだ形となっているQUAD ESLから聴いていただき、その後1階のピアノ練習室兼オーディオルームにあるTANNOY CHATSWORTHという順番でOFF会は進んだ。

 いずれもアンプはQUAD22・Uである。2階の送り出しはLINN CD12。1階の送り出しはLINN LP12。アナログ・デジタル完全分離の形態をとっている。

 1階はピアノと同居とはいえオーディオ専用にリフォームして電源も専用電源である。広さが8畳と狭いのが難点。2階はまったくの普通の部屋。電源も一般電源。広さはこちらのほうがあるが箪笥やベッドをかいくぐっての設置であるため、制約も多い。

 2階はややリラックスしてCDを聴き、1階はややどっぷりめにつかってレコードを聴く、といった使い分けである。しかし、家族からは「何故二つもあるの?」と非難轟々である。いずれは一つに縮小せざる得ないかもしれない。

 力瘤のまったく入っていない「とりあえずこれでいいんじゃないのオーディオ」なので、お二人にはいささか物足りなさもあったかもしれない。来月にはお二人のお宅を順次訪問させていただき、「ソナス+真空管」の華麗な音世界を堪能する予定である。

2010/10/29

1690:ねぶる  

 (なめる)は、舌先を主に使う。舌の表面積の約10〜15%ほどを対象物との接触面として活用する場合が多い。舌をコントロールする神経は比較的鋭敏な状態であり、舌自体の硬度も緩やかではあるが固めの推移をたどる。

 (ねぶる)は、舌先だけでなく舌の前面部分の多くを使う。舌の表面積の25〜30%ほどを対象物との接触面として活用する場合が多い。舌をコントロールする神経は副交感神経の支配下におかれる。その動きは脈絡なく行われ、制御するのが難しい。

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 パリサロンで、Mercedes-Benz CLSの新型が発表された。初代のCLSは予想に反して大成功した。デザインコンシャスな4ドアクーペという新鮮なジャンルが市場に受け入れられることを立派に証明したのである。

 その後にCLSの独走を阻止するべく他のメーカーも次々に追随した。AUDIはその役目をA7 sportsbackに負わせている。ハッチバック形式であることにより一ひねりを加えているが、明らかにライバルはCLSである。

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 この両者、今後良いライバル関係となりそうである。新型CLSは、そのデザインにより流動的な要素を多く組み入れた。ノーズ部分は重くなり、目つきも複雑な感情を表すかのように曇っている。あきらかに「ねぶる系」のデザインである。それはサイドビューにも端的にあらわれている。ラインが錯綜しているいのである。これは明らかに副交感神経の支配下にあるデザインである。

 一方、AUDI A7 Sportsbackは「なめる系」である。舌先にいくらか緊張感が保たれた状態で静かにラインは描かれる。白い肌の上を滑らかにすべる舌は一定の速度でゆっくり定められたコースをなぞる。その質感を味わいながらも交換神経の制御にしたがってしたたかに仕事をこなす。

2010/10/28

1689:ギター  

 響かせるべきか、抑えるべきか・・・わが家においてはどうやら響かせるほうが良い結果が出るようなのである。

 1階のリスニングルームはリスニングポイントのすぐ背後にアップライトピアノがある。つまりアップライトピアノを背負うような形でオーディオを聴いているのである。

 そのピアノのペダルを響かせる方にするのか、響きを抑える方にするのか、響かせるほうのペダルを押さえたほうが印象が良かったのである。

 では2階は、どうであろうか?2階のQUAD ESLの背後には箪笥が二つある。洋箪笥と和箪笥の間には1メートル以上間が空いている。その空間に何か置いてみたらどうなのか、ということが気になっていた。

 そこに置くものは、当然響かせるものが良い。オーディオ用の反射パネルなどが本来最適と思われる。一番置いてみたいのは、日東紡音響エンジニアリングのSylvan。ネックはその価格である。1セット20万円もするのである。

 なかなか効果ありそうな物体なのであるが、音響パネルに20万円かけるということには心理的な抵抗が大きい。しかも、非日常的な物体がこの部屋に出現すると妻から「何これ?」といった突っ込みがはいる可能性が高い。

 木材を買ってきた勝手に作成するという手もあるが、ノウハウがないうえ、不器用という致命的な欠点がある。「まあ、いいか・・・」とほっぽいておいたが、今日はとあるものが頭に浮かんだ。

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 それはフォークギターである。上の子が中学生の時に「ギターをやってみたい・・・」と言ってきたので買ったものである。しかし、上の子のギターは長続きせず、階段下の物置に置かれたままとなっていた。

 ごそごそと物置の奥の方にしまわれたままとなっていたフォークギターを引きずり出してきた。そして、カバーから出して、二つの箪笥の間にできた空間に置いてみた。

 ギターは当然のこととして響く。普通は良い影響を与えるとは考えづらいが、その結果は・・・やはり1階と同様であった。響かせるほうが良いようなのである。少なくとも私の好みからするとこちらのほうが良い。

 フォークギターはすっかり忘れ去られていた。今回思わぬ形で復活を果たした。そのついでにギターでも学んでみようかな、という気にもなった。

2010/10/27

1688:PASSAT  

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 VWのPASSATがモデルチェンジした。しかし、厳密にはフルモデルチェンジではない。基本のコンポーネントはキャリーオーバーなので、実際にはマイナーチェンジなのである。しかし、エクステリアには大幅に手が加えられているので、外見上はフルモデルチェンジと言えなくもない。

 その外観は最近のVWのトレンドに従ったもの。GOLFに始まりPOLOでほぼ完成された造形である。一足先に発表されたJETTAはPOLOを若干拡大し、4ドアセダンにした感じにまとまっていた。PASSATはそのGOLF、POLO、JETTAと続いたデザインの流れをしっかりと踏襲していて、JETTAのサイズをさらに拡大して、より豪華にしたといった雰囲気を有している。

 PASSATのエクステリアデザインは、従前の円を多用するデザインから直線貴重のシャープなものになり、ワッペングリルから水平基調のシンプルなグリルに変わった。

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 リアビューもすっきりまとまっている。やはりどことなくAUDIテイスト漂う後姿である。リアのコンビネーションランプはAUDI A4のそれを髣髴とさせる華麗な造形である。

 そのオフィシャルフォトを初めて見た時「美しくまとまっている。しかし、まとまりすぎているという気もしないではない・・・」という印象を持った。POLO、JETTAと続いたのである程度その方向性が見えていた。そして、実際にその外観は、その見えていたとおりであったので、ある意味新鮮味がなかったのかもしれない。

 POLOの時は「変えてきましたね・・・シャープでスポーティー、でも女性受けはしないかもしれないな・・・」という印象であった。

 JETTAの時は「やはりこのラインですか・・・良くなったんじゃない・・・全体のラインもよりまとまりが良くなった・・・」というもの。GOLFとの差別化が明確にされたのも良い印象を受けた点であった。

 PASSATは、GOLFの上位に位置するモデルであるが、もともと地味な存在の車である。VWの本質を体現した質実剛健を地でいく、実に堅実な車なのである。なので、奇をてらったエクステリアデザインは必要ない。そういう点ではこのまとまったスマートなデザインはPASSATに相応しいものなのかもしれない。

2010/10/26

1687:火曜日  

 ゴルフを始めたきっかけについて先日「寧々ちゃん」は、気持ちが落ち込むことが多くなってきて、医者や友人の勧めもあって3年前にはじめた、と話していた。

 「寧々ちゃん」は4年前に大きな病気で手術をしている。それは女性にとって辛い手術であった。その後精神的に落ち込むことが時々あったようである。今でも、それはあるようで先週のゴルフスクールは「不定愁訴でどうしても動けなくて・・・」とお休みした。

 そういった気持ちの落ち込みを改善する目的もあってゴルフを始めたようである。「ゴルフをしている時は、無心になれる。自分の体の動きに集中できるの。そのときは何も考えていないような純粋な気持ちになれる・・・それがいいのかも。それに体を動かして汗をかいた後って、気持ちがとてもすっきりしている。前向きな気分になれる。」そう話していた。

 確かに運動にはそういった良い影響があるようである。体と心は密接に結びついている。定期的にスポーツなどで体を動かすことによって、精神のバランスを良い状態に保つということは、われわれ中年には必要なことなのかもしれない。

 「中年の危機」と呼ばれるように、ある程度以上の年齢になってくると、体力が低下してくることや、子供が精神的に親から離れていくこと、さらに会社での責任が重くなってくることなどにより精神的にバランスを欠いた状態になる危険性が高まる。いわゆる「うつ」である。

 女性だけでなく男性にも「更年期障害」があることは最近ではよく知られている。男性ホルモンの低下もこの「うつ」状態をつくるのに大きな要因となるようなのである。少し古くなってしまうが漫画家のはらたいらさんが、更年期の「うつ」について本に書かれていた。

 はらたいらさんは、「クイズダービー」を観ているかぎりでは「うつ病」とはもっとも遠い存在のように感じられた。飄々としていて、7割を超す正解率に「すごい人だ・・・」と感心していたのである。

 今日はゴルフスクールの日である。以前は火曜日というといまひとつぱっとしない曜日であったが、ゴルフスクールを始めるようになってから輝きだした。それは「寧々ちゃん」に会えるということがもっとも大きな要因であるのは間違いがないのであるが、1時間半の間、無心にクラブを振ってることが精神に良い影響を与えることも一つの要因のはずである。

 しかし、残念ながら今晩は仕事の都合で参加できなかった。なるべく火曜日の夜は仕事の予定を入れないようにしていたのであるが、月末近くなってくるとそうも言っていられなくなる。とりあえず、「寧々ちゃん」にはその旨をメールで連絡しておいた。

2010/10/25

1686:オーブ  

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 Paoさんから電話があった。普段はメールでしか連絡していないので、「どうしたんですか?」と思わずたずねてしまった。「いやいや、なんとなく伝えたいことがあったんでね・・・ブログに載せていたリスニングルームの写真にオーブが写っているんでね・・・」

 「何です、そのオーブって?」聞き慣れない言葉にいささか戸惑って訊いてみた。Paoさんは「実際のところよく分かっていないんだよ。写真に写る丸い球体状の光のようなものでね・・・オカルト好きの人は、霊魂だとか、エネルギー体だとか、精霊だとか言っているけど・・・実際のところはカメラのレンズに付着した埃か何かが映りこんだものの可能性が高いようだ。」

 「でも、埃か何かなら再現性があるのが普通だが、同じ場所で取ったのに何枚かのうちに1,2枚程度しか写っていないことが多いんだ。なので、真の原因は不明ということらしい。」

 「あの写真良く見ると丸いシャボン玉のような球体が4つ見える。大きさはそれぞれ違うが、ぼんやりと透けている。きっと気づいていないと思って、連絡したんだ・・・」

 Paoさんの電話があってから気になって改めてその写真を詳細に眺めてみた。すると、確かにコーヒーテーブルのあたりに大小四つのぼんやり光る丸いものが見える。はっきり写っているわけではないので気づかなかったが、言われてみると見えるのである。

 Paoさんによると、デジタルカメラのレンズに付着した埃が写りこんだものの可能性が高いということであった。そこで同じカメラでほぼ同じアングルの写真を数枚撮影してみた。前回と同じく夜であり前回同様にフラッシュをたいた。

 しかし、改めて撮影した数枚の写真にはいずれもその丸い物体は写っていなかった。少々きつねにつままれたような気分になった。「まあ、そのときの微妙な加減によって写ったり写らなかったりするものなのかもしれない・・・」と思った。しかし、少々気になる不可解現象である。

2010/10/24

1685:軽子坂  

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 軽子坂の両側には隠れ家的な店が点在している。さらに軽子坂から路地に入り込むと、何かしら由緒ありげな和風の料亭が突然出現したりする。なので、この辺りを散策するのは実に楽しい。大人の街の雰囲気が漂っている。

 軽子坂をちょうど登りきったところに、天野さんの仕事場兼リスニングルームはある。前回訪問時は、残念ながらGOLDMUNDのレコードプレーヤーは聴くことができなかった。

 GOLDMUND STUDIETTOの調整が完了したとの連絡が入ったので早速再訪することとなり、昨日お邪魔してきた。スピーカーはWILSON AUDIO。プリアンプ及びパワーアンプはJeff Rowlandである。

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 STUDIETTOは、非常に凝った構造と精密機械を思わせるいでたちで佇んでいた。これはメカ好きな人間にはたまらない外観である。その調整は相当な忍耐を要する作業となりそうである。メカ音痴の私にはとても手に負える代物ではなさそうだ。

 早速、STUDIETTOを聴かせてもらった。カートリッジはSHELTER 901。フォノイコライザーはNAGRA BPS。このフォノイコライザーは手のひらに乗るくらい小さい。バッテリー駆動で高いSN比を実現している。

 さて、このラインナップによる音の印象であるが、スポーツカーの乗り味といった感じであった。けっしてだぶついたり、あいまいな挙動を示すことなく、冷徹なまでに正確に最適なラインをトレースする。ロールはほとんどなく、がっちりと剛性感を確保した車体は安定している。

 低域は膨らむことなくしっかりとした密度感がある。サスペンションの調整がしっかりとしているので路面を捉えて離さず、路面情報が的確にステアリングに伝わる。

 空間表現も的確で広い。空気抵抗もしっかり計算された車体のようである。スムースに空気は流れ去り、相当なスピードを出しても耳障りな風切り音はしない。

 これはなかなか好印象・・・アナログらしい厚みのある音で色濃く聴かせるタイプではけっしてない。素材が持つ旨みをけして逃がすことなく、その良さを最大限活かす料理のようですらある。味付けは最小限に抑えられている。

 何曲が聴かせていただいてから、今度はROKSAN TMSに切り換えてもらった。こちらはカートリッジはSHELTER 9000で、フォノイコライザーはJeff Rowland。

 すると一気に音が分厚くなる。ベースの音圧がぐんとあがる。音がうねるように躍動する。こちらのほうがアナログらしい質感の音である。実にノリが良い。

 味付けはしっかりと施される。食材には熱が加えられ、その素材の味を引き立てる濃厚なソースがかけられ、皿に盛られる。熱が加えられることにより、その素材の旨みがしっかりと引き立つ。

 実に好対照な両者である。GOLDMUND STUDIETTOとROKSAN TMS・・・どちらが優れているといったレベルの問題ではなく、どちらが個人的に好みなのかといった問題である。

 軽子坂から路地に入ると、奥ゆかしい感じの和風料亭がひっそりと佇んでいる。その脇には実に練られた造形美を見せるイタリアンレストランが、これまた周囲に溶け込むような感じで店を構えている。

 STUDIETTOが料亭で出される懐石料理なら、TMSはイタリアンレストランで食するコース料理といった感じであろうか・・・老練な食通をも唸らせる贅沢な時間であった。

2010/10/23

1684:6杯目  

 5杯目のジョッキが運ばれてきた。「あらためて乾杯しますか・・・」そういってジョッキを掲げた。「そうね・・・」そういって「寧々ちゃん」はジョッキを合わせる。ジョッキが重なる冷たい音が鈍く響く。

 「taoさんは甘党?」「えっ・・・甘いものも嫌いではないですね・・・」「じゃあ、コーヒーはブラック、それとも砂糖を入れる?」「そうですね、つい最近になってからですけど、ブラック派に転向しました。それまでは砂糖入りのカフェオレ派でした」「ずいぶん甘口から辛口に転向したんですね・・・」「そうそう・・・」

 話の切り口が変わった。話がコーヒーに関することに向かったので、付け焼刃であるけど、最近コーヒー豆を専門店で買って、自分でコーヒーをネルで淹れていることを話し始めた。「寧々ちゃん」もコーヒーは好きなようで、家にはエスプレッソマシンがあって、もっぱらエスプレッソを好んで飲んでいるようであった。

 「私たちもブッラクコーヒーのままでいましょう・・・」「寧々ちゃん」はいたずらっぽい笑顔で言った。「ブラックコーヒーってどういう意味ですか?」「砂糖を入れないってこと・・・」相変わらず目は笑っている。

 「砂糖を入れない・・・?」「そうシュガーレス・・・」「もしかして、それってセックスレスの意味ですか?」「そうそう、セックスは砂糖・・・甘い誘惑に満ちている。でも、コーヒーの味を台無しにするの・・・」

 5杯目のジョッキは8割がたが空いた。「寧々ちゃん」はその残りをゆっくり喉の奥に流し込むためにジョッキを傾け始めた。「寧々ちゃん」の首筋はほっそりしている。40歳を超えているので数本の線が入ってしまっているが、魅力的な首に見えた。

 「エスプレッソは、ブラウンシュガーを入れるのが通だそうですよ。溶けにくいブラウンシュガーを・・・そして、けっしてかき混ぜないんです。すると、カップの底にブラウンシュガーはたまります。上は苦いエスプレッソのまま。それをゆっくり飲んでいくんです。すると最初のうちは苦いけれど、徐々に砂糖に近づいていく。だんだん甘くなって、最後は濃厚な甘さが待ち構えている。味の変化を楽しむんです・・・」

 「寧々ちゃん」は空になった5杯目のジョッキをテーブルに置いて、こちらをチラッと見てささやくように話した。「じゃあ、ゆっくり飲んでください。小さなカップに注がれた少量のエスプレッソを本当にすこしづづ・・・底にブラウンシュガーが潜んでいるかどうかは秘密です・・・」

 私も5杯目のジョッキを空けた。「潜んでいるほうに賭けましょう・・・濃厚でどろどろに溶けた甘い液体が・・・琥珀色に輝く欲望が・・・」

 残念ながら6杯目以降の会話は記憶があやふやである。確か「コーヒーにブランデーを入れるのはどう思います?」といったようなことを話したような気がする。スプーンの上に置いた角砂糖にブランデーを浸す。それに火をつけてコーヒーに沈める。淡い青い炎が漆黒の海に沈んでいく・・・その様子はロマンチックでどことなく神秘的である。

 「それは邪道ね・・・」「寧々ちゃん」はつれない。「純粋なものが好きなの・・・」そう彼女は言ったような気がする。気がするだけで確かではない・・・

2010/10/22

1683:4杯目  

 「キッチン・バー 昔」は地下にある。階段を下り店に入ると、照明を落とし気味の店内は落ち着いた雰囲気である。前回同様カウンター席に陣取った。6時なので、まだ店内は込んでいない。金曜日なので「もしかしたら込んでいるかも・・・」と思っていたが、それほどでもなかった。

 凍りそうに冷やしたジョッキに生ビールの泡がクリーミーに漂っている。ドンとテーブルに置かれたジョッキを掲げ、お互いに目を見て微笑む。「じゃ、乾杯・・・」

 「寧々ちゃん」とビールのジョッキを傾けあうのは、これで2回目である。「寧々ちゃん」は無類のビール好き。前回は中ジョッキ7杯を空にした。見かけによらずなかなか豪傑である。

 今晩もハイペースである。こちらも多少あおられ気味にペースを上げる。3杯目を空けたあたりから「寧々ちゃん」のスイッチはONとなった。これも前回同様である。

 3杯目までは話題も、子供の受験のことやゴルフのことなど比較的差し障りのない事柄の周囲を駆け回る。ちなみに「寧々ちゃん」のところの子供と、うちの上の子は学年が同じである。「寧々ちゃん」は比較的早く結婚した。子供が生まれたのは「寧々ちゃん」が25歳の時であった。その子がもう高校3年生である。

 3杯目を空けると、ロードバイクで緩やかな下り坂を走っている時のような疾走感が加わってくる。す〜とスピードが上がり、空間は流線型の形に切り取られ、後方へ流れ去ってゆく。

 「取り戻したいとは思いませんか?」「えっ・・・何を?」「失ったものですよ・・・」「なに、なに・・・失ったものって・・・」「女ですよ・・・この前38歳の時に失ったって言ってたでしょう・・・」「そんなこと言ったかしら・・・」「言いましたよ・・・はっきりと覚えています」

 「寧々ちゃん」は38歳の時、子宮頸癌のために子宮と卵巣を摘出している。その後はご主人ともセックスレスである。痛みがあったことが原因になったようである。

 「また口説こうといているんですか・・・taoさんも諦めが悪いですね・・・骨折り損のくたびれ儲けですよ・・・」4杯目も半分ぐらいが「寧々ちゃん」」の胃の中に流れ込んでいた。

 「骨折り損ですか・・・」「そう、そう・・・失ったままでいいんです・・・」「未練はないのですか・・・このまま女が終わってしまっても・・・」

 私も4杯目のジョッキの半分を空けた。ジョッキをテーブルにおきながら、右横に座っている「寧々ちゃん」の横顔を覗き込んだ。「寧々ちゃん」はカウンターの向こう側のガラスに映った自分の顔を見ているようであった。

 「とても綺麗ですよ・・・」そのガラスに映った顔に向かってつぶやいた。するとガラス越しに私の視線を捉えた「寧々ちゃん」はいつになく真面目な表情でこちらを見つめ返した。

 「取り戻せるのかな・・・難しいと思うけど・・・」その瞳の色合いはゆらいでいた。「取り戻せますよ・・・きっと・・・」カウンターの向こう側のガラス越しにお互いを見ながら、ほぼ同時に4杯目のジョッキを飲み干した。



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