2010/9/15

1646:純朴  

 「元六」のあるエリアは、以前は比較的鄙びた雰囲気を有していた。しかし数年前に「三井アウトレットパーク」ができると周囲の雰囲気はがらっと変わった。交通量も相当増えた。

 「元六」の建物は、田舎の水車小屋風である。実際に水車も回っている。おしゃれな感じというのとは少し違うが、どことなく風情が漂う。主人は相当高齢である。2代目の息子と一緒にやっていて、いかにも「頑固親父」という雰囲気を有している。

 その建物の裏側には7,8台の車が停められる駐車場があり、敷地自体はそれなりに広い。駐車場に車を停めて、「寧々ちゃん」と店に入った。4時を少し回った時間であり、客はわれわれ以外いなかった。

 「元六」の蕎麦は、「寧々ちゃん」が以前に教えてくれた「花蕎好」の蕎麦とはかなり違う質感である。「元六」の蕎麦はある意味、田舎風・・・洗練された喉越しというよりも、蕎麦本来の風味や食感をしっかり味わう傾向のものである。

 二人とも「もり蕎麦」を頼んだ。蕎麦が来る間「寧々ちゃん」は店の内装や調度品を興味深げに眺めている。「こういうテーブル、私好き・・・日本の田舎の素朴な風情が感じられて・・・」木こりが無骨にナタで仕上げたようなテーブルである。野趣溢れたとでも表現すべき風貌である。

 そして、肝心の蕎麦の感想は・・・「とてもしっかり感があって美味しい・・・純朴な蕎麦ですね・・・純朴で丁寧な仕上がりです。」と「寧々ちゃん」は評してくれた。どうやら好評なようである。

 「純朴な蕎麦か・・・良い表現ですね・・・この店の蕎麦の風情をとてもうまく表していますね。」「純朴か・・・私も結構、純朴なんですよ・・・」

 そう言うと、「寧々ちゃん」はいたづらっぽい目をして笑った。「そういう面も少しはあるかもしれませんね・・・でも純朴な人は、人妻を誘ったりしませんよ・・・」

 「人間、誰しも二面性というものがあるものです。純朴な面とすれた面とが一人の人間に同居していることも、めづらしくはないでしょう・・・」すかさず切り替えす。

 店にいた時間は30分程度。デートともいえない程度の時間である。しかし、その間ふたりはさしさわりがないようで、それでいてどことなくひっかかりのある会話を途切れることなく続けた。

 そして、帰り際「また、二人で会えますか?」と極力何気ない風に訊いてみた。「ええ、いいですよ・・・」「寧々ちゃん」もきわめてさりげなく答えた。しかし、そのさりげなさの裏側には、どこかしら毅然とした重みのようなものが感じられた。



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ