2010/7/2

1571:ごまだれ 2  

 平日の昼下がり、郊外の住宅街は人通りがほとんどない。勤め人は会社や工場に、子供たちはそれぞれの所属する学校へ行っている。家の中には主婦や仕事を持たない老人たちがいるはずであるが、家事にいそしんでいたり、休息の時間をゆったり過ごしているのであろう。

 怠惰でゆったりとした時間の流れに支配されている住宅街の一角に「花蕎好」はひっそりと佇んでいる。保護色をまとった昆虫のように周囲の景色に溶け込んでいるため、通り過ぎる人のほとんどがその存在に気がつかないほどである。

 店内は10名が入れるかどうかといった広さである。内装はいたってシンプル。シンプルというよりは質素という形容詞のほうがふさわしい。

 駐車場は店の隣に2台分が確保されているが、そのスペースもとても質素である。幸いどちらも空いていた。バックで停めて、ドアを開ける。隣に別の車が停まっていたら、多少乗り降りに苦労するだろうと思わせる狭さである。

 少しばかり昼時を過ぎてしまったせいであろうか、店内には他に客はいなかった。「寧々ちゃん」と私は小さなテーブル席についた。

 「お薦めは、ごまだれの蕎麦かうどん・・・ざる蕎麦も良いですよ・・・」白い半そでのブラウスが店内の質素な内装の中で道端に咲いている小さな花のように見える。

 私はざる蕎麦を、「寧々ちゃん」はごまだれ蕎麦を頼んだ。すっきりとした味わいである。コシはしっかりあり、切れが良い。こういった蒸し暑い天気には最高の喉越しである。

 ほんの30分ほどである・・・その質素な店内で蕎麦を食し、会話を楽しむ。先日思いがけず打明けられたCoreさんの浮気のことについては一切振れなかった。子供の受験のことや、ゴルフのこと、差しさわりのない事柄で話を繋いでいく。

 「今日は私が無理を言ったので奢らせてください・・・」「じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて・・・どうもご馳走様・・・」

 店を出るとむっとした熱気を孕んだ空気が体を覆う。しかし、それすらも素直に受容できる心境であった。お店から「寧々ちゃん」」の自宅へは車で10分ほど・・・あっという間である。

 「とても美味しかったです・・・良い店を教えてもらってありがとうございました。今度は是非私のお薦めの店へ行きましょう・・・」

 「それって、デートのお誘いですか?」「寧々ちゃん」は子供っぽい視線を探るように送ってくる。

 「いえ、そういうものでは・・・まあ、ささやかなデートかもしれませんね。とてもささやかな・・・」一瞬はぐらかそうとしたが、こちらの心根は見通されているはず。相手の目を焦点を外し気味に見ながら、ささやいた。



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