2019/11/15の記事から6回に分けて、1791年出版の読本『
画本纂怪興』に掲載されている妖怪を「
へんなようかい図鑑」というタイトルで順次紹介致しました。この読本の妖怪と、勝るとも劣らない"へんなようかい"が、1785年出版の江戸の
草双紙『
百鬼夜講化物語』にも、多数みられますので、これから何回かに分けて、特に水木しげる大先生の作品や他の妖怪図鑑の類には殆ど取り上げられていないであろう、へんな奴を抜粋して、順不同にて紹介していこうと思います。今回は@として、「
一ッさん首」・蛮名「
コワバカラチキ」・「
蚘蟲」・「
首釣り柳」です。
【一ッさん首(いっさんくび)】
"一ッさん"とは"一散"で、"周りを気にせず、目標だけを見てひたすら走る様子"の意。その姿は、頭だけ胴体から抜けて宙を舞う「
抜け首」とよく似ていますが、根本的に違うのは「
生霊」ではなく、「
死霊」である事。この妖怪は死して墓に埋葬された女が、嫉妬の怨念で首だけが飛び出して、相手の女を食い殺そうとする、ホラーな妖怪であります。
【蛮名 コワバカラチキ】
ここでいう"蛮名"とはオランダ語での名前で、「
コワバカラチキ」とは"これは馬鹿らしい"をもじったもの。日本や中国の文献には無く、オランダの丑三つ時頃に出る妖怪と書かれていますが、卒倒しているのはどう見ても、チョンマゲの日本人であります。
【蚘蟲(いちう)】
細長い胴体の両端に頭をもつ双頭の妖怪。胴体には脚やらヒレのようなモノがあり、頭には耳が付いていますので、「
両頭蛇」(
2013/1/12の記事参照)とは違います。尚、解説文には一つの身体に二つの頭をもつ極楽に住む鳥「
共命鳥」に似ているとありますが、頭が二つある以外は全く似ていません。
【首釣り柳(くびつりやなぎ)】
"柳の妖怪"には「
柳女」・「
柳婆」・「
化け柳」などがありますが、それらとは別物です。ただ、柳自体は各地で、死のイメージと結びついた不吉な樹木とされているようです。この妖怪は、世を恨んだ仏教の信者が柳の枝に縄を掛け、首を吊って死んで葬られた後も成仏できず、雨の夜には柳の下で首を括った状態で現れるとされています。ちなみに台詞には、坊主頭を煮ダコに見立てた比喩が書かれております。酷いですね。
ところで、"首吊り"と関連性が深い妖怪ナンバー1は「
縊鬼」でありましょう(
2017/3/18の記事参照)。死して冥界に行った人が生まれ変わる為には、生者に取り憑くか催眠状態にして、同じ死因を取らせなければならなく、それが、首つりである場合、「
縊鬼」となって身代わりを探すとされます。下の図画は、「
縊鬼」が身代わりとする生者に首つりをするよう、しむけている(
縊鬼討替)ところであります。
左側の「縊鬼」は自分が首つりに使ったであろう縄を首に巻いています。
変わったところでは、
千葉幹夫・著『
妖怪ぞくぞく事典』にある「
首つり入道」。ただ、首を吊ってるだけの巨体の坊主で、人を驚かすだけのようです。
「見越し入道」が、木の下で寝てただけなのかもしれない・・・

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