スリランカを含む旧英領インドあるいは旧英領アラブ地域などに現在まで続く多難な課題に対して、誰が最も大きな責任を持つべきか、と言うと、自分は植民者であったイギリスだろうと思っている。ところが、イギリスは、彼らを独立させて、自らの帝国主義に償いの姿勢を見せたのかというと、それは正反対で、彼らはアジアの諸地域を独立させてもなお、そこから収奪する構造を作り出し、自分たちに都合の良い政権を樹立させる工作に今でも熱心だ。
そうした英国の秘密工作を担う組織がMI6であるが、その子会社のような組織がアメリカのCIAであろう。そもそもアメリカは、イギリスと戦って独立したものの、イギリスはアメリカを独立させつつ収奪する、という構図をそこで成立させた。第二次大戦後に、アジア諸国を自由に独立させたのも、表向きは独立させて、裏から支配する、という技術を十分に確立した自信があったからこそであろう。
アメリカもそれをコピーして、独立させておいて裏から支配する、という技術を磨いて来たが、その最大の成功例は日本だと言える。日本の内閣総理大臣が就任して、まず最初に語るべきプロトコルは、必ず「日米同盟の堅持」という宣言である。この宣言をしない、あるいはそのように行動しない日本の政権は、CIAがふんだんに持っている政権打倒プログラムが発動することにより、カンタンに倒されて来た。
アメリカがイギリスのコピーだとすれば、現代の日本はアメリカのコピーであろう。
たとえば、インドネシアに対しては、戦時賠償というエサを与えて、その影響力を今でも維持している。スカルノ大統領には、デヴィ夫人という貢物まで与えて、影響力を行使して来た。
しかし、日本の影響力が最も色濃く残されている地域は、何と言っても韓半島であろう。何しろ、そこは日本に併合されていたのであり、彼らには日本語を教え、日本の交通規則とか、日本の宗教である神社参拝とか、ありとあらゆる日本的な生活の仕方を強要した。そして、日本がポツダム宣言を受諾して、総督府の役人や軍人がすべて引き揚げた後、彼らは日本と関係ない、自分たち独自の国家をつくったのかというと、誠に残念なことに、彼らは左翼と右翼に分裂してしまい、いまだに内戦が終結できないでいる。
その左翼にしても右翼にしても、どこまで日本から自由であるかと言うと、これがなかなか自由ではない。朝鮮戦争が休戦状態に入り、国家の独立を宣言したふたつの勢力は、それぞれに建国をはじめ、北朝鮮はソ連が、そして韓国はアメリカが肩入れをして政権を支えたわけだが、そうした傀儡であることがバレバレな政権を支えたのは、それぞれの軍隊である。
結局、政治があまりにも流動的になってしまえば、統率された軍事力を持つ組織が最も力を持つ。政権は、軍隊を味方に付けなければあっさり転覆されてしまうから、軍隊はこの両国にとって特別の意味を持っていた。
朝鮮人民軍にせよ、韓国軍にせよ、その源は何だったかと言えば、それは大日本帝国の軍隊であった。大日本帝国による教育を受けた軍人たちが、このふたつの政権を支え続けて来たと言える。
そして、おそらく彼らは独自の情報ルートを持っていて、日本の政界(こちらもいわゆる55年体制によって、右翼が与党、左翼が野党、という棲み分けを行って来た)とそれぞれに繋がる構造があったわけである。
かくして、世界の冷戦構造そのままに、日本では自民党と社会党による棲み分けが行われ、韓半島では北朝鮮と韓国という棲み分けが続いて来たのが、日本で言えば昭和時代が終了するまでの現代史である。
ところが、昭和が平成に変わったから、という因果関係があるわけではなく、たまたまシンクロしただけであると思うが、世界の政治情勢は大きな変更を余儀なくされた。ソ連というシステムが崩壊したことによる冷戦終結である。
これは世界のシステムが大きな変更をする、ということであるから、瞬時にすべてが変わることはできない。ドイツの平和統一は、まあカンタンだったから早目に起こった、ということであり、韓半島の方は情勢が複雑過ぎて、たった30年ではまだ統一が実現していない。しかし、平成が終了しようと現時点で見ると、そこにはやはり大きな力のモーメントが働いていることが分かる。ドイツの統一が容易だったのは、東ドイツはソ連、西ドイツはアメリカがその後ろ盾、という構図が単純だったからである。そして、ドイツはずっと独立国であった。
それに引き替え、韓半島は長い間、独立を失っていた。北朝鮮は、ソ連から金日成を送り込まれた経緯があるが、朝鮮戦争を実際に戦ったのは中国の人民解放軍である。韓国の方も、朴正煕政権が日本と取引をして、アメリカよりは日本の援助に頼る、という構図をつくったために、親米一本とは行かず、親日が復活する、という経緯があった。そうなると、北朝鮮にはソ連と中国、韓国にはアメリカと日本、というように背後関係が複雑化し、しかも国内的には、政権が常に軍部との関係に神経を尖らせる必要がある(結局、韓国では軍人が政権を取る、それを民間人が奪い返す、といった振り子現象が生じた)という状況である。
おそらくただ今の現時点で言うと、南北両政権とも軍部に対する優位性を確立したように見えるが、軍部に不満が募れば地雷となって、爆発する危険は存在する。
まあどうなるんですかねとか、あいつらのことは放っておこう、という超能天気な意見も日本国内には存在するが、そもそも韓半島の現在を理解するためには、日本による介入という歴史的事実が大きな影響を与えたのであり、今でも陽に陰に、日本の勢力が彼らの政権の背後に蠢いているだろう。そして、日本国内にだって、彼らの分身とも言える在日の人々が存在するのであり、韓半島に大事件があれば、日本国内でも虫垂が炎症を起こす程度の問題にはなるはずだ。
ほぼ平成とともにはじまった冷戦終結の効果が、いよいよ日本の身中にも起こって来るのが、令和という時代に起こることだろうと思う。

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