このたびイタリアのブランドであるらしいところのDolce&GabbanaがSNSで流した動画が中国人および中国文化に対する侮辱的な内容を含む、ということで、中国ではファッションショーの中止、購買ボイコットなど、なかなかひどいことになっていて、同社では経営者らしいふたりのオヤジたちによる謝罪動画を流したりしているが、その無表情な謝罪にはほぼ誠意というものが感じられず、これは半ば意図的なマーケティングでもあるような感じがする。
そのすべてを見たわけではないが、動画のひとつは中国人の女性モデルに箸を使ってピザやスパゲッティを食べさせる趣向になっていて、それは箸をナイフやフォークのように見立ててピザを切り取って食べる、というもので、何しろそこには優美な点がまったくなく、中国文化のみならず、ピザという食べ物をも愚弄しているような代物で、中国文化とイタリア文化が衝突すると、そこには醜いクラッシュが起きる、というようにも感じ取れるゲス感たっぷりなものだ。
そもそもどうやらこのブランドは、既存の様式に対して攻撃的であることが売りのブランドのようで、たとえば喪服なんかもド派手で鋭角的な印象を残す(要するに普通の人が見たら、眉を顰めるような)デザインを提案している。
そういう彼らが中国市場というものを狙う場合であっても、中国の伝統文化を尊重なんかする気はなく、伝統破壊的でなおかつ富裕な若者層こそが彼らの考えるターゲット顧客なのだろう。そうであれば、わざと中国の伝統文化に因縁をつけて、そこで炎上してしまう、というのも、そのブランド名を広める上では非常に有効な戦略である、ということが言える。
日本のZOZOTOWNの前澤社長も、カネの使い方がひどく突出していて、話題性に富み、それゆえにブランドの知名度を高めることに成功しているが、このDolce&Gabbanaも、中国文化を侮辱するようなネタを提供しまってすみませんでした、と謝罪しながら、そのメディアへの露出度を緻密に計算してほくそ笑んでいる、というようなところがある。
そもそも誰からも愛される、というような分野は競合が多過ぎて、そこはレッド・オーシャンである。本当においしい市場を見付け出そうとすれば、普通の人たちからは嫌われることを覚悟の上で、一部の限られた層に深く訴求する、というようなことをした方が良い。
これは政治の面でも同様で、例えば老朽化してオワコンと思われていた自民党を復活させたのは、「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉純一郎首相だった。
世界の経済を見渡すと、日本やヨーロッパ諸国の停滞ぶりが顕著であるが、それは経済の仕組みが十分に発達して、もはや「伸びしろ」が残っていないからであろう。それで、今はこれまで経済の体制が脆弱だった中国、インド、ブラジル、東南アジアなどが伸び盛りである。
先進国の中でほとんど唯一経済成長しているのがアメリカなのは、理由がはっきりしているだろう。それは、アメリカでもその昔の既存産業(USスティール、GM、GEなど)は軒並み成長の限界にぶち当たっているが、GAFAと総称されるような新産業が生まれたために、全体的には経済成長しているためだ。
政府が既存の産業を守ろうとすれば、その国の経済は停滞し、政府が弱くて統制力を持たず、新しいことをはじめて一山当てようとするような連中がいくらでも資金を調達でき、既存の産業をぶち壊すようなこともできるようなのがアメリカ経済の特異な性格だ、ということになるのだろう。
実は中国も、そういうアメリカ方式に追随しているように思える。新規産業がいくらでも湧き出るカオスのような世界こそ、経済発展を実現できる社会だろう。日本やヨーロッパの中でも、そういう自己破壊的なことをやる人間が生まれ、彼らが社会の顰蹙を買いながらでも新しい挑戦を行う、ということが望ましいのだろうと思う。
さて、しかし中国の場合は、本質的に自由経済などというものは存在せず、どんなに破天荒なビジネスマンが現われたとしても、彼らは中国共産党の手のひらの上からはみ出ることはゼッタイに許されない。そして、GAFA勢力が中国市場を支配下に置くことも許さない。そんな訳で、明日からそういう異質な世界に行く自分は、サイバーセキュリティを最大限のレベルに引き上げるため、そもそもパソコンを持参しない、という選択をすることにした。どんなにWiFiの電波が飛んでいても、自分の身体しかないのであれば、自分の脳波データが盗まれるほどには彼らのハッキング能力は高くないだろう。
そのことで起こるマイナス面の中には、これからしばらくの間、当ブログの更新が一切されない、ということもあるが、安全は便利さよりも優先されなければならないので、愛読者の皆さまにおかれては、それは当然に甘受すべき不便であるとご納得いただくことを期待している。

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