日本の外交とか政策を決定するのは誰か、ということになると、主権者が国民である、という憲法上の要請から考えると、国民に相談があっても当然だろう。しかし、自分は長年にわたって日本国の国民というのをやっているのだが、政策決定について権力に意見を求められた、というような経験は一度もない。
結局、国民主権と言っても、その主権の行使の仕方は代表者たる国会議員を選ぶ、という方法しか意思表示の機会はない。衆議院の小選挙区について言うと、ざっくり300程度の小選挙区があり、日本の人口は1億2千万人程度あるのだから、小選挙区の意思を表現できるひとりの国会議員は、40万人程度の日本人を代表していることになる。
そう考えると、自分ひとりがいくらしっかり政策を考えても、それが国家の政策に反映しているともなかなか言えない。だとしたら、誰が政策を決定しているのかと言うと、様々な集団が権力闘争をしながら、その政策を決定している、というのが、日本の政治過程の現実であろう。
行政を執行しているのは内閣であり、重要な政策は閣議決定を経て国会に持ち込まれる。なぜ閣議決定が必要なのかについて、明文の根拠はないと思うが、実務的に考えて、法律が成立した後に、それを執行する役所の大臣が、オレはそれに反対だから執行を拒否する、というようなことになると煩わしいから、大臣に周知させ、異論があったら事前にそれを言わせる、ということが慣例化したのだろう。
ただし、これは形式上のことで、本当は閣議決定すべき項目の中身は事務次官会議で審議されるのであり、関係省庁の中でその法律に強烈に反発する者がいたら、それは閣議決定に持ち込めない、というようなことになる。
そうなると、日本の政策は役人たちのスクリーニングを経なければいけないことになっている、というのが、一面の見方であろう。
しかし、そもそも政策の企画、立案は、役所の内部から出て来るとは限らない。世の中には各種の利害関係人がいるので、彼らは政治家に働きかけて、一定の方向に法律あるいは政策を変えさせるように利益誘導する。現在の内閣を構成しているのは自民党と公明党の国会議員であるから、利益誘導をさせようとすれば、自民党か公明党の議員を利用するのが早道だろう。
さらに効率を考えると、内閣の構成員(すなわち大臣)になりそうな議員に働きかけるのが良さそうである。では誰が大臣になりやすいかと言うと、内閣総理大臣を出す派閥の議員であれば、大臣になる確率が高まる。そんなことで、今の日本の状況であれば、自民党細田派の議員が最も政策を実現しやすい、ということになるだろうか。そうは言っても、総裁選で自民党の総裁が決まるシステムであるから、首相を支持した派閥なら他派閥でも大臣に登用される一定の確率がある。逆に、総裁選でわざと首相と争い、その結果一定の処遇を求める、という具合に、圧力を掛けて優遇を求める手法も存在するだろう。
戦後日本の政治の中では、いわゆる55年体制の中で、自民党がその主要な役割を果たして来たのだが、そんなのは別に自民党でなくても良いのではないか、と考えたのが小沢一郎氏であり、彼は非自民政権を何度かつくってみたが、それらは今では失敗とみなされており、そうした政界再編の中で偶発的に生まれた自公連立政権というのが、今のところ安定的に支持されている。
それで、現行の安倍政権の政策目標は何かと言うと、アベノミクスだ、というような話もあるが、それは彼の政策の優先順位の中では、順位の低いものであろうと思う。で、彼がもっと求めているのは、外交的な日本の自立だ、というのが、自分の見立てである。
彼の母方の祖父である岸信介氏は、アメリカのCIAのエージェントとされていて、安保改定を実現したことで、現在にまで続く日米同盟の基礎をつくった人物である。その起算点が1960年の安保条約であると考えれば、そこから現在まで約60年の歳月が流れている。そして、その1960年にはじまった日米関係が、岸信介氏の理想とする日本のあり方だったのかと言えば、そうではないだろう、というのが自分の見立てだ。
岸氏は、1960年当時のアメリカの外交上の基本方針に日本を合わせる企図があった訳だが、それは当時のアメリカがソ連およびコミンテルンによる国際共産主義の伸長に対決しようとしており、日本がそれを全面的に支援することが日本の国益である、とはっきり意図したためであろう。そして、ソ連と国際共産主義運動が崩壊する1991年まで、日本はいわゆる「赤化」することなく、日米同盟は堅持された。
問題は、冷戦後の世界、という枠組みの中で日本がどうすべきか、ということなのだが、もともと岸氏はアメリカに服属することを最終目標として日米同盟をはじめたのではなく、本当は日本の「独立」を目標にしていた、というように自分は考えている。
サンフランシスコ講和条約を締結したことで、日本は連合国から独立したことになっているが、実際には同日に日米安保条約が締結されているのであり、講和条約と安保条約がセットになっている、という前提条件があって、日本が見掛け上の独立を果たしたに過ぎない。
すなわち、日本の軍事力は、本質的に米軍が運用しており、自衛隊はその下請け部分を担当しているだけだ。軍事力だけでなく、日本の本質的な政策決定は、常にホワイトハウスの助言と承認を要しているのであり、その意味で日本が独立している、と見るのは正しくなく、日本共産党がその昔に良く語っていた通り、対米従属状態にあることは間違いない。
そんな対米従属から逃れるためには、共産党が政権を取れば良い、というのも真実だが、そんなことになれば、日本の永田町は、対ロ従属派と対中従属派に分かれて熾烈な権力闘争の巷になるしかない。
そういう訳で、日本の次の政策目標は、アメリカが許容する範囲で、いかに対米従属から離脱するか、ということになる。それは英国のEU離脱よりももっと大きな変化を日本にもたらすことになるのだが、しかしそこに向かって行くのは、言ってみれば歴史の必然であろう。
2016年のアメリカ大統領選挙は、そんな日本にとって非常に重要な年になったのだが、それはアメリカ大統領選でトランプ氏が当選したことである。安倍首相は、当然に各候補者の主張をモニタリングしていたはずであるが、トランプ氏を早速トランプ・タワーに訪ねている。
その後の日米関係は、表面的には明らかになっていないが、着実にアメリカの日本離れの方向に進んでいるように思える。今般の自民党総裁選を、当然にトランプ氏も注視していた訳だが、安倍首相が予想通り、大きくリードして勝利したことで、今ごろニューヨークでは、おめでとう、規定路線で行くぞ、と相互の目標が確認されていることだろう。
アメリカの日本離れ、については、日本の権力構造の中で、いろいろなセクションでいろいろな反応が生まれているはずだ。外務省の基本方針は、日米同盟堅持一本槍であるから、反対勢力であるだろう。しかし、安倍外交は、なるべく外務省には知らせず、彼らに邪魔させない、ということを目指している。トランプ大統領だって、ワシントンDCの中に大勢の敵がいる中、「アメリカ・ファースト」すなわち、アメリカではない国のことは放っておく、という日本離れを加速中である。
そうやって、誰かが誰かを勢力下に置いて、国の上に国をつくり、巨大なバベルの塔をつくろうとするプロジェクトは、「主」のご意向であるかどうかは別として、やはり崩壊することになるものと思う。

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