当ブログは、アフィリエイトでカネを稼ぐ、というような邪道な目的を持っていないので、読者がいるのかいないのか分からずとも、言いたい放題言って、うっぷんを晴らすために続けているものだ。それでも、愛読者の方がおられるのは、むしろそのご奇特なお姿に対し深く尊敬申し上げるものである。
それで、昨日はそうしたご愛読者の方から、アメリカ・ネタをもっとちゃんとやれ、とのご指導があり、そのご指摘がもっともなので、今日はちょっと本気になって、アメリカって何だっけ、何だっけ(明石家さんま「幸せって何だっけ、何だっけ」の節回しで)という記事を書くことにした。
まず、ここで問題にするアメリカとは、アメリカ合衆国のことである。その建国はアメリカ合衆国独立宣言が発表された1776年7月4日ということになっている。当初は13州しかなかったが、現在は50州を数える。しかし、それはただ一方的に増えただけではない。独立したアメリカ合衆国の中からさらに独立した国家を樹立しようとした州もある。彼らが建国したのがアメリカ連合国(Confederate States of America; CSA)である。彼らはアメリカ合衆国(USA)からの離脱を宣言したが、当時、合衆国の連邦政府は無力であって、事実上、各州がそれぞれに自立した権力を行使していたのが現実だった。しかし、1861年、大統領に就任したアブラハム・リンカーンは、彼らのUSAからの分離・独立を許さず、CSAの樹立を無効であると主張して、武力行使に踏み切る。これが南北戦争である。
もし、リンカーンが大統領にならなければ、我々は今でもそこにUSAとCSAというふたつの国が存在するのを見ることになったかも知れない。ともあれ、その内戦は悲惨を極めたが、1865年にCSAという政権は消滅し、USAという大国があらためて出現した。
岩倉使節団が見た米国は、そうやって再統一を果たしてから6年後のアメリカであり、応接した側はあくまでも勝者サイドであったから、彼らが理解したアメリカとは、あくまでも北軍側の説明によるアメリカの姿だった。
しかし、戦争に負けたら、その歴史がすべて消去されるのかと言うと、そうも行かない。先般、バージニア州で大規模なデモと衝突があって、女性がひとり亡くなった事件に関しては、この幻の連邦国家CSAの首都が同州のリッチモンドであったこと、また南軍の総司令官リー将軍がやはりバージニア州の出身であることなどが、背景にあることを知らなければならない。このリー将軍は、南北戦争後、恩赦されて同州の大学(現在のWashington and Lee University)学長を務めた。
そんな訳で、南軍は紳士的に武装解除されて、アメリカ再統一が果たされるのだが、南部の経済はどうなったかと言うと、それは崩壊過程をたどる。南部の大規模農業経営の基礎は、アフリカから輸入された奴隷だった。ところが、その奴隷制度が禁止されることになったから、農家は主要な生産財が手に入らないことになり、そのすべてのシステムが崩壊することになる。
結局、北部の産業資本家たちは、人手に頼らない農業を実現するために農業機械を開発して、それを農家に売り込む、というようになり、南部の農家たちは、北部の産業資本、あるいは金融システムの中に組み込まれて行く。(キャッシュで高額な農業機械を買うことはできないから、必然的に金融機関から借金したであろう。)
ここで生じた経済の南北格差は、それ以降のアメリカ合衆国経済の特徴になって行く。北部の大都会には天を突く高層ビル群(skyscrapers)があるが、南部には舗装されていない長い道があって、農民がピック・アップ・トラックで行く、みたいなコントラストが出現している。
産業資本家と金融業者がブリブリ言うアメリカは、本当のところは、北部側のエスタブリッシュメントが支配するアメリカ、ということである。その歴史がリンカーンの時代からバラク・オバマの治政まで続いた、というのが、非常に大きなアメリカ政治史の流れであった、というように見える。そして、2016年の大統領選挙に至る。エスタブリッシュメント側は多くの候補者を準備したが、大本命はヒラリー・クリントン候補だった。ところが、実際に多くの国民が支持をしたのはバーニー・サンダースとドナルド・トランプだった、という異常事態が発生する。勝利したのがバーニーではなくドナルドであったことは、エスタブリッシュメントにとって災厄だったのか幸いだったのかは分からない。ともあれ、カネの掛かる選挙制度を開発し、金持ちだけが選挙結果を左右できるシステムは十分に機能していたはずなのに、人々は彼らの誘いには乗らず、意外な人物を当選させてしまったのだ。
「こんなはずではなかった!」とエスタブリッシュメントどもは叫び、その声は今でもマス・メディアを通じて発信し続けられている。ドナルドは、それをfake mediaと一蹴し続けているのだが、ともあれ、リンカーンから始まった北部的産業金融資本主義支配は、オバマ大統領をもって一旦終了した、というように見るのが、自分の立場である。
ドナルドがホワイトハウス入りしたので、じゃあ今度は自分たちの方からUSAを出て行こうか、という動きもなきにしもあらずで、カリフォルニア州やニューヨーク州には、もし自分たちの思うようにドナルドが動かなければ、合衆国から離反する、ということも結構真剣に考えている連中がいる。
産業金融資本にとって、ドナルドの政権があまりにも目障り過ぎる、ということになった場合、確かにそういうこともあり得るし、あるいはケネディ政権の時にあったように、大統領は暗殺されて、その事件はいつまでも解明されないままにうやむやにされる、というようなことが再現されるのかも知れない。
もう一度、バージニア州の事件の話に戻ると、恩赦されたはずのリー将軍像をぶち壊す、という運動が計画・実行され、地元の名士であるリー将軍の銅像を守ろうとした人々は、そこに紛れ込んだネオ・ナチやKKKと同類である、というイメージ操作が行われ、それを直接的に非難しなかったトランプ大統領は、ネオ・ナチ同然の人種差別主義者だ、というさらなるイメージ操作が行われている、というのが、日本のテレビ視聴者に伝えられているメッセージだろう。
そういうニュース映像を見て、トランプなんてとんでもねえ野郎だ、と思うか思わないかは、まったくあなた次第である。

3