ゴールデンウィークでヒマになったが、今日は特に目新しいネタがない。
ネタはないが、東芝メモリーの売却先について、様々に記事が出ているので、それらを読むと、いろいろ感想がある。
今からのNANDメモリー・ビジネスにはバラ色の将来像しかないと自分は考えているし、ここでの参加者の多くはそう考えていると思うが、中には何を考えているのか良く分からない参加者もいる。
一番良く分からない当事者は東芝本社で、彼らは子会社であるWestinghouseがらみで巨額の損失を計上したので、それを手当てするために含み資産を顕在化させる必要性を理解し、今回の売却を決意したのであろう。もはやメモリー・ビジネスから手を引く、ということを決め、あとは最高値を提示した企業に売却して早くキャッシュを手に入れれば良い、というのが事業売却の目的であろうから、何でも3兆円くらいの高値を出している鴻海が最有力になるようだ。
ところが、それについては日本国政府が難色を示していて、鴻海は中国に工場を展開するだろうから、メモリー・ビジネスが中国に流出してしまうのが困る、と考えているようだ。確かにメモリーはビッグ・データ時代のデータ・センタで大量に使われるデバイスであり、中国製のメモリーを使うと、そのデータが中国当局によって自動的に読み取られる、というような安全保障上のリスクがあるから、それは経済原則とはまったく別の、データの安全保障という観点から見れば、一応の筋が通る話だ。
鴻海に対して、中国には進出するな、と制限を課すのは、いったん四日市工場が鴻海のものになってしまえば、日本国政府としては困難だ。そして、中国がサムスンの工場を西安に誘致したように、鴻海がメモリー・メーカになれば、ただちに優遇条件で工場を提供するだろうから、利に敏い鴻海としては、中国でつくれば競争に勝てることが分かればそれに躊躇するはずもなく、東芝が設計したメモリーはすぐにでも中国で生産されることになるだろう。
では、鴻海は日本国政府が考える安全保障の観点でアウトとすると、次はどうなるのか。
前にも述べたが、BroadcomとSilver Lakeの組み合わせが自分の中では良い選択であると思う。ただし、これについてはWestern Digitalが東芝との契約条件により、異議申し立てを行う可能性がある。東芝としては、すぐにでも東芝メモリーを現金化できないと本体の存続が危ぶまれる危機であるから、そこまでのリスクを冒してこの米国勢を勝たせることは厭だろう。(なぜWestern Digitalがこのアメリカ勢を嫌うかと言うと、アメリカ企業同士が同じ業種で戦えば、相互協力は無理で、相手を潰すようにしか行動しないことが明白だからだ。)
そこで登場しているのが、産業革新機構と日本政策投資銀行だ。彼らの存在理由からすると、東芝メモリーに出資するというのは筋があまり通らないし、そもそも彼らに何兆円ものカネはすぐには用意できない。そこで、KKRというファンドと組む話が持ち上がっている。KKRとしては、メモリー・ビジネスが金の卵であることは見やすい話であるし、日本国政府が後押しするとなれば、こんなにおいしい話もない。ただ、問題はここでもWestern Digitalが文句を言わないか、である。
そこで彼らは、Western Digitalに対して、自分たちに乗らないか、と話を持ち掛けているらしい。Western Digitalも一次入札には札を入れているが、大物たちに比べると、入札額が小さ過ぎて、ちょっとそのままでは勝てない状況のようだ。そういうこともあって、東芝との共同生産契約書の文言を楯にとってゴネはじめているものだ。
それ以外の参加者としては、韓国のSK hynixというのもいる。ただし、これには日本もあるいはアメリカも難色を示している、という。理由は、メモリーのシェアで韓国が圧倒的になることは、やはり安全保障上の問題と認識されるからだ、と言う。
実際は、Western Digitalが東芝メモリーを買うことも、独占禁止法の審査に廻る話になる。ただ、東芝とWestern Digitalのシェアを足しても、ようやくトップのSamsungと肩を並べるだけなので、市場を支配する力を持つ、とまでは言い難いだろうと思う。
日本政府とKKRがWestern Digitalと組むには、それ以外のメリットもある。それはファンドだけではメモリービジネスの駆け引きが分からないからだ。Western Digitalだったら、東芝が投資をしたい、と言った時にそれが正しいかどうか分かる。というか、東芝がそう言わなくても、もう投資すべきだ、と言って投資を促してくれるだろう。
これまでの東芝だったら、東芝本社が三井住友銀行あたりに融資を依頼し、ああでもないこうでもないとなって、投資も容易ではなかったのではないか、と自分は推察する。そうでなければ、東芝がSamsungの後塵を拝している理由が分からない。今後は、Western Digitalが合図をすれば、KKRがどんどん資金を投入して設備投資が円滑になり、両社でSamsungを追撃することが可能になるだろう。
東芝メモリーの目標は、もちろん二番のままでいることでなく、一番になることだ。そういう企業目標を最も真剣に理解し、実際に行動するには、アメリカ資本になることが早道だ、ということは言えるだろう。日本の政府が入り込んでも、別に口出しをしない、ということであれば、東芝はSamsungを追撃できるし、KKRの背後にいるハイエナ出資者にも、十分なエサが与えられることと思う。産業革新機構と日本政策投資銀行がそれで儲かるとすれば、それは漁夫の利みたいな話だが、そういうことがあっても納税者としては、別に文句を言うべきことでもないと思う。

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