昨夜は、見るべきテレビ番組がないので、放送大学の「現代の国際政治」という授業を受講したのだが、そのコマのテーマは「次のスーパー・パワーは?」というもので、高橋和夫教授は、冷戦終結からテロとの戦いまでの、アメリカの国際政治への向き合い方をおさらいした上で、アメリカがそのスーパー・パワーとしての立ち位置を失うとすると、次のスーパー・パワーはどこに生まれるのだろうか?というような挑発的な質問を、その場にいる受講生や、ネットで繋がった生徒たちに訊く。
それは果たしてインドなのか?はたまた中国なのか?という問いは面白いのだが、生徒たちの回答があまりにもつまらないので、もはや受講に耐えない、ということで、野球中継を見ることにした。
スーパー・パワーが生まれるためには一定の要件があって、それは全人類が共有可能な、ユニバーサルな価値観を提示できる、ということである。
アレキサンダーのマケドニア帝国が異邦人たちの支持を集めたのは、アレキサンダーと仲間たちの思想(それは、アリストテレス直伝、という当時最高峰の知識である)が、合理性と包括性(すなわち、世界のすべてを合理的に説明しきるパワー)を持っていたためだろう。
ただし、それはアリストテレスの弟子だった指導者層だけが持っていた属人的なパワーだったので、彼らが死んでしまうと、帝国自体も滅んでしまう。
それを復活させたのが、ローマ帝国で、帝国は精強なローマ軍と緻密なギリシャ哲学と多弁な民主主義によって、帝国内のすべての民族を統合することができた。
それからは、宗教の時代(中世)がしばらく続いて、ようやく近代に至って、再びスーパー・パワーの登場する時代がやって来る。
大航海時代の主役の座を争っていたのはスペインとポルトガルだったが、彼らは持っていた航海術、銃器、キリスト教といった自分たちの優位性だけで勝負したので、蛮族相手には強かったが、中国、インド、日本など一定の文明を備えた地域では無力だった。
そこで、世界を制覇することになったのは、意外にも後発国と思われていたイギリスだった。
なぜイギリスがスーパー・パワーを獲得し、大英帝国の繁栄を実現したのか、はそれだけで大論文になるテーマであるが、大英帝国実現の条件は、イギリスがグレート・ブリテンになったことだろうと自分は考えている。
グレート・ブリテン発足のきっかけは、エリザベス女王が生涯未婚だったことだ。美貌の持ち主と伝承される彼女には、中年になるまで何人もの求婚者がいたことが知られるのだが、結局、彼女は誰とも結婚せず、子どももいなかった。そして、亡くなる時にも、後継者指名は行わなかった。そこで、政府を預かっていたロバート・セシルは女王の血縁者の中から、何と現スコットランド国王のジェームズ6世にイングランド国王の座をオファーしたのである。
ジェームズ6世はそのオファーを受け入れ、新たにジェームズ1世と名乗り、イングランドとスコットランドは、連合王国になる。これは、単に国王個人の問題にとどまらず、結局のところ、イングランドとスコットランドというふたつの文明の融合、という大事件に発展した、と自分は考える。
そもそも彼らはブリテン島という同じ島に同居していた。そして、紀元前には彼らケルト人は、独自の文化を営んでいたのである。しかし、遠い地中海ではローマ帝国が大発展していた。ジュリアス・シーザーは、ブリテン島を攻撃する戦役の様子を「ガリア戦記」の中に記しているが、熾烈を極めたその戦いは、ローマ軍の完全勝利とはならず、かろうじてローマの版図に入った部分がイングランドであるが、北方地域はケルト人が守り抜き、現在のスコットランドになった。
それゆえスコットランドにはケルト人の常識や文化が生き残ったので、そこには今でも妖精がいて子どもたちを見守っている、と信じられている。彼らの側からすれば、イングランドとは、ローマに支配され、その実用的ではあっても強欲な文化にすっかり汚染された地域であり、そんな下品で下種な連中は、自分たちとはっきりした一線で画される必要がある。
スコットランドの独立が今でも政治課題であるのは、そもそもローマ帝国的な無骨、物欲、放蕩がトレードマークと思われているイングランドと縁を切りたい、と彼らが思っているからである。
さてしかし、そんなスコットランド人も、イングランドと連合王国化することによって、経済的な繁栄を享受できるようになり、一方でイングランドは、スコットランド側から学問や芸術などのソフトパワーを受け取るようになる。武士は食わねど高楊枝だったスコットランド人も物質的な豊かさを手に入れ、無教養だったイングランド人も高尚な文化に触れるようになった。
この組み合わせで世界七つの海洋に漕ぎ出したのが、大英帝国の発端だと言うべきだろう。
さて、アメリカもそういう異民族の出会いと組み合わせによって、大発展して来たのだ。次のスーパー・パワー候補を、現在のインドや現在の中国の単純な発展系、として予測することはできない。次のパワーは、近くても異なる意外な組み合わせによって誕生するというのが、自分の予測である。グレート・ブリテンを因数分解すれば、サッカーのワールドカップを見れば分かる通り、イングランド、スコットランド、アイルランド、そしてウェールズの四種の異質な文明から成り立っている。あえて、そうした組み合わせを今の世界で構想するならば、日本、韓国、台湾、そして北朝鮮から成り立つグレート・イースト・アジア帝国はいかがだろう。大東亜帝国の復活は、次のスーパー・パワーはどこか?という問いに対する有力解、というのが私の(けっこう大胆な)回答である。

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