北朝鮮との交渉結果、北朝鮮は拉致問題の再調査、日本は制裁の一部解除と人道支援、をそれぞれ約束したようだ。本当に拉致問題が解決するのかどうか、というあたりを焦点に報道がされているが、北朝鮮におけるリアルな争点は、北朝鮮の国家体制をどうするのか、それに対して、日本がどれだけ影響力を行使するのか、だろう。
北朝鮮から見れば、日韓が強固に結ばれていれば、日本と交渉しても、結果的に韓国に譲歩するようなことになってしまうので、それは乗りにくい選択肢となる。しかし、日本と韓国の歩調が合っていない、という現実はむしろ安心材料であると言えるだろう。同様に、日本と中国がグルになっているのではない、という現実も安心材料のひとつとなる。
しかし、先代が主導していた頃は、北朝鮮の交渉相手としては、ただアメリカがあるだけだった。そのアメリカはどうなっているかと言うと、28日にオバマ大統領はウェストポイント(陸軍士官学校)で演説し、「軍事一辺倒ではダメで、外交の方が大切なんだ。」と語った。米国内では、中身が何もない、きれいごとばかりだ、との批判が出ているが、わざわざ軍の中枢であるウェストポイントで、「軍事より外交」という、出席者の神経を逆なでするような発言をしたことは、重要であると思う。さすがは、ノーベル平和賞受賞者だけのことはある。
普通なら、君たちには大いに期待している、と言うのが当たり前のところ、君たちの仕事よりもっと大切なことがあって、それが外交なんだよね、と言い放つ度胸は大したものだと思う。
それは北朝鮮によってどのように受け止められるかと言うと、アメリカによる世界の暴力支配というのは、風向きが変わって来たのではないか、少なくとも、オバマ大統領の残りの任期がある2年半くらいは、アメリカの支配力が低下し、その代わり、ローカルなパワーが台頭するのではないか、ということだろう。
それならば、極東において、中国の台頭に対抗するためには、アメリカ依存ではなく、もっと近くに都合の良いパートナーがいて、それが日本だ、ということになるのではないだろうか。
そういうアメリカの支配力の低下、対中国への対抗力強化の必要性、という政治的現実と、具体的な経済支援をしてもらえるポテンシャルの高さを考えれば、安倍首相こそ新たなトモダチだ、と考えるのは、大変合理的であると思う。
安倍首相がそうした北朝鮮への歩み寄り政策を実行しているのは、ただ拉致問題を解決したいから、というのは、あまりにも表層的過ぎる見方で、本当は、オバマ大統領と同じく、安全保障は、軍事力ではなく、外交によって実現するべきものだ、という認識があるのだと思う。
集団的安全保障論について、それが日本の軍事的影響力を高めたいだけのタカ派思考の産物だ、と考えるのは、私の意見では間違っていて、アメリカが一国の軍事力だけで世界を支配する、というブッシュ的(と言うか、本当はチェイニー的)思考法から脱却して来ているのに対し、それに呼応する意味で、それを語っているのだと思う。
すなわち、安全保障は一義的にはアメリカが担い、日本国領土の専守防衛のみ自衛隊が担当する、という二重構造をやめ、米軍と自衛隊が機能的に繋がった一元的な安全保障体制を構築する、というのが、今からの安全保障体制なのである。
国会答弁で安倍首相が、結果的に繰り返し述べた表現は、「シームレスな防衛」ということだった。シームレスとは、もちろん、米軍と自衛隊が同じ平面上にあって、その機能分担をしながら、共通目標を実現する、ということである。
もし、そういう具合に、極東の安全保障が、アメリカ一国だけでなく、日本も含めたかたちでシームレスに行われるのだったら、北朝鮮が日本とも交渉しなければならない、と考えるのは、極めて合理的な政策だ、ということになる。
極東において最も利害関係が対立している日本と北朝鮮の間で、一定の安定した国家関係が樹立することは、極東の今後の方向を決定付けることになるように思う。北朝鮮は日本との間で、いまだに平和条約が締結されていない。その場合に、日韓基本条約を締結済みの韓国との関係をどうするかが問題になる。北朝鮮と韓国とが連邦制を取って、外交権限を一本化する、というのが、ひとつの解決策ではないか、と私は考えている。そうやって、極東地域が、中国抜きでまとまる方向が、外交的な解決策としては、最善であろう。
そうした第一歩としての、拉致と経済援助のバーターは、極東の安全保障にとっての貴重な一里塚だ、というのが、今のところの私の見立てである。
と書いたところで、次回のブログ更新は、おそらく来週月曜日であろう、という予測を付け加えて置く。

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