今月、「安全保障と防衛力に関する懇談会」というものが正式に発足し、結局のところは、有識者が提言した通りに閣議決定をする、という流れによって、一定の政策が実現するのであるけれども、そのテーマが集団的自衛権である、と言う。
このテーマに関しては、従来の内閣法制局長官の見解によれば、個別的自衛権までは憲法第9条の認めるところだが、集団的自衛権に関しては、憲法違反なので、日本国はそれを実現するような条約や取り決めを結ぶことができない、ということになっていたのだ。
昔、官房長官をやっていた枝野幸男氏の演説がテレビの映像に流れ、「政府の解釈いかんで憲法がどんどん変えられてしまうような話は、とうてい認められない。」とか語っていた。
さて、憲法改正論議はなかなか勝算が見えない、と判断したのか、安倍政権は、解釈の変更によって集団的自衛権を合憲にする方向となった訳なので、私自身の見解を述べる。
そもそも憲法第9条が存在するのに、自衛隊という公務員からなる組織をつくり、彼等に予算を付け、自衛隊員に国家の資金から給与を支払うことは合憲なのか、というテーマから振り返る必要がある。
これは、憲法の基本知識の問題で、1959年に砂川事件についての最高裁判決があり、安保条約に基づいて日本に駐留している米軍の基地に侵入して悪事を働いても、安保条約が憲法違反なのだから、罪にはならないだろう、という主張に対して、当時の最高裁長官は田中耕太郎氏だったのが、国家の安全保障という問題は、行政が本来持っている「統治行為」という範疇の仕事であって、それに対して、司法権がその当否を論じてはいけない類のことである、として違憲かどうかの審査権を自ら放棄したのが、今日まで生き続けている判例である。
だから、憲法判断の最終的な権限を持っている最高裁判所は、こと安全保障の問題に関する限り、その判断を「しない」のが、日本において最も権威のある決定事項だ、ということである。
弁護士でもある枝野幸男氏は、当然、憲法学におけるこの「統治行為論」を知っているはずなのに、わざと難癖を付けているのは、ちょっと大人気ない、というのが、私の感想だ。
すなわち、最高裁判所が判断をしない以上、統治行為であるところの安全保障の設計は、内閣が自らの責任において行うべきものだと言うことになる。
内閣法制局長官が、集団的自衛権は憲法違反だと言って来たではないか、というのは、もしその時にご飯を食べていたら、噴き出して周囲が迷惑するような議論で、法制局長官が、内閣総理大臣に向かって、その判断はオレの理解と異なるからダメだ、と言えるはずはない。過去の長官がダメだと言っても、現在の長官がいいね!と言ってしまえば、その瞬間から発言は上書きされるのが当然である。
そして、問題は憲法問題ではなく、統治行為の問題なのだから、現在の日本の安全保障において、個別的自衛権に固執した方が安全保障に資するのか、集団的安全保障にまで踏み込んで日米安全保障条約を履行した方が良いのか、ということになれば、私の意見は、そこまでやった方が良い、ということである。
中国の過去と現在、というところを見ないと、この内閣の判断変更の理由が見えて来ない。中国が侵略的な国家であることは、かつての大日本帝国が侵略的な国家だったのとまったく同じことだ。大日本帝国は石油禁輸という経済封鎖を受けたからその反撃をしただけで、他国を侵略する意図を持たなかった、という論を私は採用しないし、同様に、現在の中国には他国を侵略する意図がない、という論も全然採用できない。
西部開拓を行った(要するに、いわゆるインディアンが利用していた土地を収奪した)運動が、Manifest Destinyというような表現で合理化されていたのと同様、中国の現在は、国家権益の拡大によって国家としての成長を希求している。それは、私の意見では、共産党政権が国民からの支持を失って弱体化していることの裏返しなのであるけれども、ともあれ、中国の侵略的、覇権的な行動が明白である以上、それに対して、何らかの防衛ラインを張る必要があって、その時に非常に便利なのが日米安保条約である。この日米共同の防衛ラインを強化することで、中国の侵略的意図をきちんと押さえないと、もし中国人兵士の文化程度が大日本帝国軍人と同じ程度に低いと想定した場合、人権の観点からは、相当ひどいことが発生しかねない、と私は考えている。
ということで、憲法第9条は、これを素直に読めば、集団的自衛権はおろか個別的自衛権だって許さないはずであるところ、諸般の安全保障的な理由により、そうもいかないので、最高裁判所も目をつぶってくれていることだし、必要なことはやっぱりやっておくしかない、というのが、私の意見である。つまり、違憲論議については、自衛隊からしてホントは違憲なのだから、あれは良いけどこれはダメ、という区別をする理由が私には分からない、ということである。

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