エルピーダ関連では、さらにまたいろいろな記事を目にするのだが、日本というシステムがトータルで老朽化、劣化していて、そのためにこの会社が犠牲になった、という感が強い。
サカモト社長は、会見の中で、海外他社との提携を模索する過程で、いい加減な記事が日本のメディアに次々に出て、そのために交渉が困難になったと述べ、集まった記者たちに向かって、「日本のメディアの人たちは相当レベルが落ちている」と批難した、と言う。
もちろん、これはメディアの責任ではなく、メディアにあえて適当な情報を垂れ流した、主に金融側の責任であろう。債権者である銀行に対しては、当然に情報を提供する義務があるが、そうやって提供した情報が垂れ流される。あるいは、最悪のケースは、自分の会社の社内にディープスロートがいて、それが情報源となる、そういう環境では、物事は進まない。
大体、本来は社長が専権で、社内にも秘匿した状態で、実務アタッシェ以外は誰も知らない状態でそうした話を進めるのが当たり前だと思うが、なぜか日本の会社にはそういう慣行がなく、およそ経営幹部を自負する者には、事前に知らせておかないと、後で怒る、というのが、不思議な現象である。そして、方針が決まるや、「おれは聞いてない。」とか言って、その方針に反対するのだ。大事なことはあんたが聞いていたかどうかではなく、その経営判断が正しいかどうかだろう、というマトモな議論は、そういう手合いには通用しないのだ。
そもそもサカモト社長が、その仕事を引き受けた直後がどうであったかを、私は思い出すのだが、彼は会社を再建するために、いくらのカネを投資しなければならないか、という試算を行い、その金額を当時の親会社だったNECと日立の経営幹部に説明した。その結果、これらの親会社は、その金額を聞いて目を剥き、そんなカネは出せない、と言って逃げ回ったのだ。
そこで、彼は、自分のそれまでのキャリアの中から伝手を辿り、台湾の協力企業などから資金調達するとともに、早期に上場することを目論み、積極的に投資家たちに働き掛けて、自己資金を調達する。
サカモト社長は、そういうカネの苦労をする傍ら、ともすれば自信喪失に陥りやすい社内の技術部門に対し、自信を持て、開発資金ならいくらでも調達する、とハッパを掛けて、積極的に先行技術の開発に注力する。
そういう具合に、ひとりで各方面を鼓舞しつつ、会社の業績を回復させて来たのであるが、その間、もともと社員も工場も提供した親会社、また後には新たに参加した三菱電機などは、じりじり出資比率を下げて、ひたすら逃げに徹したのである。
直接的には、今回の決定については、これ以上貸付金を増やしたくない銀行筋が、もはやこれまで、とタオルを投げ入れたのだが、その思考回路の中には、NEC、日立、三菱という、従業員を提供している親元が、すでに匙を投げているような会社をどうして支援すべきなのか、という根本的な疑問もあったことと思う。
そうだとすれば、彼らはこの事業をはじめて、儲かる時だけ大儲けをし、韓国勢に負け始めると潔く撤退する代わりに、奇妙な合弁会社をつくって、じわじわと彼らを置き去りにする作戦に出た、とも考えられる。その間、政策投資銀行による公的資金も導入され、関係者の数が増えると、経営上の決断はますますしにくいものとなり、今回の事態に至った。
そこまで見通して、うまく売り抜けた、ということなら、それら企業はうまくやった、という評価になるのかも知れないが、どうせ潰れると分かっていて、そのリスクを国民に付け廻した、という具合に考えれば、企業として、実にタチの悪い振る舞いであろう。
勝てると思えば勝負を掛け、負けると分かったら潔く撤退する、そういう明快な経営が良い経営だと思うが、残念ながら、事業も従業員も生殺しにしながら、結局、ここまで来れば、最後は外資に売却、ということになって、本当は質の高い先進技術を国外に放り出してしまう、というのが、日本国の産官複合体というシステムが、現在やっていることだ。
サカモト社長ならびに優秀な社員の目線で考えれば、アタマの悪い親会社や債権者から自由になり、外資であれ何であれ、自由闊達にビジネスを展開できる環境を与えてくれるパートナーを求めることが許される現在は、それもまたひとつのチャンス到来なのかも知れない。
繰り返し言うが、エルピーダはまだまだやれるし、DRAM事業には未来がある。ジェットコースターが下がったら、次は上がるということなのだから、せっかくこれから上がるものを捨てる、というその選択を、私は支持しない。

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