「政局」は、何も日本の永田町だけに起こるのではなく、地球規模での「政局」もまた起こり得る。韓国哨戒艦天安号の沈没は、ようやく韓国が北朝鮮からの攻撃の可能性が高いと明言し、これに対し、北朝鮮からは「宣戦布告」に等しいでっち上げであると反論が出た。
問題は、沈没の原因が魚雷であるらしいことまでは分かったとしても、犯人を特定できるだけの明白な証拠が揃わないことにある。個人の刑法犯であっても「推定無罪」の原則があるのだから、ひとつの国家が多くの軍人を一遍に失うような攻撃を受けて、その犯人はお前だ、と隣接する国歌を名指しで宣言したのだから、その真偽は別として、これはただならぬ状況に陥ったことになる。相手はそうでなくても「ならず者」なのだから、それにどんな罪名をなすりつけても問題なかろう、というのは、国際常識を欠いた認識だろう。
確かデビ夫人だったかが、「北朝鮮をあんまり見くびっていると、大変なことになりますわよ。」と語っていたように思うのだが、同感である。今回の言葉の投げ合いをじっと見ながら、自分がどこでどう入ろうか、と策を練っているのは、アメリカ、ロシア、中国ばかりではなく、イラン、リビア、あるいはベネズエラなど、『反米』という絆で結ばれている者たちも、ひょっとしたら起こるかも知れない『政局』に便乗するチャンスを密かに窺っていることだろう。
いざとなったら圧倒的な軍事力で叩けば良い、と能天気なことを言う者は、アフガニスタンやイラクでも簡単に政権の転覆と親米政権の樹立ができると考えた連中と同じ思考回路を持つ者だ。独裁国家では、独裁者さえ倒せば、それだけで簡単に民主主義国家ができる、なぜなら誰でも本心では民主主義のことが大好きだから、というのが、アメリカのメディアが人々に信じ込ませている論理だが、もちろん誤りだ。
北朝鮮の人々が今の豊かな日本を見れば、それだけで寝返る、と無邪気に信じるのはどうかしている。貧乏人は、ただ金持ちに憧れていて、自分も金持ちになりたいだけよ、と心底信じるのは、想像力に乏しい金持ちのお嬢様の発想であって、およそ人間というものは、決してカネだけを求めているのではない。
たとえ金正日がいなくなっても、日本や韓国のようになりたいか、と言われて皆がイエスと答えるはずはないのだ。天安号を沈めたのはお前たちの首領様だ、と言われて、そりゃそうだろうと思う者は、必ずしも圧倒的多数ではなく、その発言こそが謀略だ、と反応するのが、長年鍛えられた独裁国家の国民としての普通の態度だろう。そこにうっかり土足で踏み込めば、解放者として歓迎されるどころか、テロまみれとなって、その国の治安は泥沼化する、ということを、我々はつい最近の歴史から学んだばかりではないか。
私の予想するシナリオはこうだ。ともあれ、「謀略」を「宣戦布告」と見なす北朝鮮は、報復を国際社会に宣言する。そして、韓国および日本という謀略国家への反政府活動をおおっぴらに支援する。すると、韓国全道、日本の全都道府県で、テロ事件が頻発し、死傷者が出、ライフラインが攻撃される。米軍が平壌を空爆するが、金正日の居場所は分からず、北朝鮮はさらに報復と称してテロ活動を活発化する。イランやベネズエラも謀略説を支持し、反米運動が高まる。その間、中国とロシアは中立を保ち、ひたすら漁夫の利を待つ。
そういうシナリオに引きずり込まれない『政局』のカウンター攻撃は、金正日との「司法取引」ではないかと思う。彼には安全な亡命先と豊かな老後を保障する。そして、半島共和国連合を樹立し、連合政府大統領には、両陣営がともに合意できる人物が就任する。北側には、アメリカ、ロシア、中国の三軍が駐留して、平和維持活動を行う。そして、北側の経済復興担当は、6カ国のうち最後に残る日本がその任に当たる。日本政府は経済協力省という役所を新設して、北朝鮮の大規模開発を実行する。もちろん超赤字国債の大発行である。だが、これは日本の経済界にとっては、まさに朝鮮特需だ。既存の技術で日本的なインフラ設備をどんどん輸出する。そして、農業技術者、機械工、土木作業員などは、ひっぱりだこになる。かくして、特需に沸く日本企業は、大いにカネを儲け、法人税をたくさん支払い、国債の償還はどんどん進み、国家は莫大な借金を完済したのであった、というのは、まあ強引過ぎて、あり得ない話だとは思うのだが。

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