金持ちの財産というのも、昔は実際に保有している金銀財宝など目に見えるかたちが存在していたのだが、今では銀行口座というコンピュータ・システム上の数字だけのことで、財産の実態がさらに有価証券などのように価値が増減するようなものともなれば、自分がどれほど金持ちなのかを知ることは、現実的に容易なことではなくなる。
金持ちでなくても、昔は鉄道に乗るのに金銭の支払いが必要で、駅の窓口で「XXまで1枚」と申告して切符を買い、車中ではいつでも車掌による検札のたびにこれを提示していた頃は、自分の出発駅と行き先とが極めて明確だった。ところが、日本に戻って見ると「こはいかに(浦島太郎の歌。怖い蟹ではないことに注意)」、人々は改札口を「Suica」でスイスイ通り抜けているだけだった。そこまでは観察できたのだが、もしJR用にはこのカード、あの私鉄ではあのカードなどとカードを集め出したらきりがないと思って、そんなものを使おうと思わなかった。
ところが、3月18日を期して、私鉄各社が共通カード「Pasmo」を運用開始し、しかもこれと「Suica」がお互いにどちらも使える相互乗り入れを実現するとあって、それならば、どちらかのカードを持つことに決めた。で、相互乗り入れだから、鉄道に乗る、という目的だけを考えたらどちらを持っても良いことになるのだが、他の条件は、異なることが分かってきた。
で、結局、「Suica」カードの場合は、JALのマイレッジを利用してチャージ(料金をあらかじめ読み込ませること)することができる、ということが分かった。つまり、マイレッジの有効期間が過ぎちゃうけれども、使う当てがない、というような場合に、これで「Suica」にチャージすれば、金を出して飛行機に乗り、そのサービスとしてタダで日本国内の電車に乗れる、ということになる。
それで、本日早速「Suicaイオカード」を購入し、JRに乗ってみた。すると、今までは何とも思っていなかったのだが、駅で改札口を発見しても、券売機の場所を見つける、列に並ぶ、小銭を取り出す、機械に投入する、切符とおつりを取る、おつりはポケットに入れる、切符は手に持つ、後ろに並んでいる人々をよけつつ去る、といった一連の行動をしなくて済む、ということがいかに爽快な事実であるかを知ったのである。
ただ、昔は乗客と駅員との間で成り立っていた旅客運送関係が、今度は自分のカードと鉄道会社のシステムとの関係に変わってしまった点は、まだ慣れないところだ。おそらく、乗客と駅員との関係は、金銭授受とは別のサービスだけに特化して行くものなのだろう。
考えてみれば、昔の日本(団塊世代が跋扈する前)では、なじみの業者からツケで物を買うのが常識であったから、金銭直接取引きの方が珍しかった。そういう往時に戻って来た、ということなのかも知れない。

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