営業を鍛えるのはお客さん、なら、経営者を鍛えるのは株主か、と言う訳で、会社を半日休んでまで、成り行きで株主になった某社の株主総会に出席した。
駅前でカンバンを掲げる総務部員らしい若者にしろ、会場外を警備しているらしい中堅社員にしろ、社外のステーク・ホルダーに対するサービス精神など微塵も感じられないところに、既に会社の抱える「問題」が現われていた。
いかにも練習を重ねました、という口調の社長の説明も、つまりは「大過なく」職責を果たすことだけが目標みたいな印象で、面白くも何ともないし、ビデオによる業績紹介というのも、要領の良さだけが目立った。
さて、質疑応答に至ると、次から次に登場するのが、老人ばかり。なるほど、小金を貯めて株を買い、株主総会で一席ぶってみるのが老後の気晴らしなのだろうとは思うが、経営者側から見れば、年寄りの繰り言をそれなりの表現力でかわすだけのことで、一向に緊迫感が出て来ない。会社側がわざわざそういう人選をしたのか、と思ってあたりを見回すと、実際、老人ばかりが出席していた。
と言う訳で、「繰り言を言う株主」は数多く発言の機会を得たのだが、経営者に匕首を突きつける「物言う株主」は一切登場しなかった。ある年寄りは、この株価の低迷はけしからん、売りたいと思うがあまりに安値なので売れん、と文句を言い、別の年寄りは、期待しとるから、何とか業績良くして、株価を上げてくれよ、と期待感を表明する。自分のカネの心配をするばかりで、相手が蒼ざめるような鋭い質問は、ただのひとつも出て来なかった。
かつてIBMのCEOジョン・エイカーズは、株主総会の直前になって、大荒れ総会を乗り切れない、と判断し、株主総会では、時期CEOは今後6ヶ月以内に選任する、という約束だけを与えて、サプライズの辞任表明を出した。そして、約束通り数ヵ月後、社外(ナビスコ)から招聘されたのが、ルー・ガースナーで、彼の手腕によってIBMが蘇ったことは有名だ。つまり、当時のIBMの株主総会には、現職CEOを震え上がらせるだけの権威ある質問者が存在したのである。
茶番のような株主総会の後、会社に向かいながら、会社を休んでまでくだらないものを見た、という脱力感が残った。経営者の品質問題の前に、株主の品質という問題もあるように思った。

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