年を取っても乱闘好きは直らないもんだ、とニンマリさせられるのが、阪神タイガース星野仙一シニア・ディレクターの発言だ。何でも、今度の株主総会で決まる阪神電鉄鰍フ取締役会の顔ぶれいかんによっては、辞職をする、と息巻いている。阪神電鉄にとっては、「物言う株主」の次には「物言う野球選手」の登場で、まことにご苦労なことではある。あるいは、ご本人としては、現職経営陣に対する援護射撃の積もりなのだろうか。しかし、野球をやる人間だと思ったら、突然、親会社の取締役の人事に口を出すのだから、驚きだ。経営権を巡って乱闘が始まったのを見て、つい我慢できなくなって自分もグラウンドに飛び出してしまったのだろう。
確かに、阪神電鉄の現役経営陣vs村上ファンドの今回の対決では、阪神側の拙攻、目に余るものがある。まるで野村監督時代の阪神球団のような試合の進め方である。これでは、試合に負けても誰もが納得する。
関西で実際に阪急電車と阪神電鉄とを乗り較べてみると、阪急がしゃれた田園都市みたいな町を繋いでいるのに対し、阪神の方は、どの駅も庶民的で泥臭い感じがする。そういう泥臭い電鉄経営に対して、灘高→東大→通産省→実業家とエリートを絵に描いたような男が挑戦している構図であろうか。しかし、関東人の偏見かも知れないが、この勝負、どっちもコテコテの関西系の経営者であって、似た者同士、勝手にせえ、という感じもする。泥臭さにおいては、どちらも全く遜色がない。
そもそもファンドという稼業だが、ハゲタカともハイエナとも言われて、気嫌いする向きもある。実際、彼等のビジネスは、そういう種類のものなのだが、アフリカのサバンナでも、食物連鎖の中で、そういう動物達は絶対に必要なのである。どんな動物も必ず死ぬ。その死骸を誰も見向きもしなければ、草原はすぐに死臭で一杯になってしまうに違いない。死んだ(死にそうな)者を見付け出し、それを自分の糧とする者が、草原の掃除人として、必ず必要なのである。それでこそ、環境の輪がうまく循環するのだ。
会社だって同様に、長い間同じような経営を続けていれば、組織が淀んで臭くなる。それを見つけて、さっさと問題を処分し、その労力に対して応分の分け前を取って行くのが、彼等の商売だ。それは、企業の健全化、社会的価値の向上、という効果をもたらす(こともある)のである。
生きながらハイエナに噛まれたのは、自分が死臭を放って彼等の嗅覚を刺激したからである。この勝負、死にかけていた経営者が突如生気を取り戻して、ハイエナを撃退でもしたら驚きではあるが、勝負である以上、どんな結果も起こりうる。ビジネスは野球と同じである。試合は、一方的な展開で終盤を迎えてはいるのだが、サヨナラ・ホームランが出るかも知れないし、とんでもないエラーで得点できる場合もある。ファンとしては、あと一ヶ月間、まだまだ試合を楽しむことが出来るのがうれしい。

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