毒にも薬にもならない、と言えば、何の役にも立たないことだが、Vioxxの場合はその正反対だった。鎮痛剤として圧倒的な支持を受け、超優良企業メルク社の看板商品だったVioxxだが、服用者の中で心臓疾患に罹る患者が増え、そのために亡くなった方が数多く出た。そのために、この薬、現在は販売停止になっている。
さて、この薬、鎮痛剤の定番として多くの人々が服用した。その結果、心臓を患った人の数も大変な数にのぼる。そして、この製薬会社には、巨額の資産がある。損害賠償を専門とする弁護士にとって、これほど「おいしい」ビジネスはそうそうあるものではないだろう。彼らがこの薬を巡って製薬会社を訴えた訴訟の数は現在までのところ7,500件だそうだ。その訴訟のうち最初の評決が、19日テキサス州で出た。結果は、会社は、原告である未亡人に対し、2億5千3百4十万ドルを支払え、というものだ。但し、その大半は実際の損害ではなく「懲罰的」な課金であり、その金額はテキサス州法に基づいて限度額が定められているので、実際の支払額は、理論上2千6百十万ドルに「しか」ならないと伝えられる。
結果が出たと言っても、会社にとっては、まだ最初の1件でしかない。ウォルマートのマネージャであった夫を失った未亡人は、その悲しみを癒すために、これから何十億円もの買い物にすることになるが、その場所はきっとウォルマートではないだろう。悲劇的な被害者の救済に奔走した弁護士にも、応分の報酬があって然るべきだろう。彼らは、その報酬で、カリブ海の別荘とヨットを買うのだろうか。自家用ジェットまで買うためには、あと数件、同様な被害者を救う必要があるかも知れない。
ただ関節の痛みを和らげるために処方してもらっただけのはずの薬が、巨大企業の運命や多くの人々の人生を激しく変えようとしている。それが、アメリカ資本主義の姿である。悲劇の薬Vioxxは、まだこれから多くのアメリカ人の運命を変え続けるだろう。

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