数十回以上も海外を旅していると、時には思わぬ幸運にめぐり合うこともある。
今回のスペイン旅行では、いつもどおり前日にインターネットでオンライン・チェックインを済ませ、搭乗券も印刷しておいた。
自宅でオンライン・チェックインするメリットとしては:
1.自分で座席を選べる
2.チェックインカウンターには出発の1時間前に行けばいい(通常は2時間前)
3.エコノミーであってもファースト/ビジネス・クラスのカウンターに行ける(エコノミーの長い列に並ぶ必要がない)
が挙げられる。
当日は万全の体制で、空港チェックインカウンターにも出発時刻の2時間半前には到着した。
いざ、チェックインカウンターに行くと、「申し訳ございません。本日オーバーブッキングのため座席がございません。」と言われた。オーバーブッキングとは、航空会社は通常キャンセルを見越して定員を超えて予約を受け付けている。大抵はそれでうまく行くのだが、繁忙期などは時々座席がなくなることがあることだ。
「(あらかじめ搭乗券まで印刷しているのに、座席がないとは何事か!)」という怒りを抑えつつ、「それで?」と訊くと、
「恐れ入りますが、ワールド・ビジネス・クラスの座席を用意いたしました。お手数ですがそちらへご移動ください。」嬉しさに顔がほころぶのをこらえ「はあ・・・。」と答えた。
何たる幸運!そう、ワールド・ビジネス・クラスでは、足もゆったり伸ばせるリクライニング・シートが装備され、座席に着くや否や、グラスにはシャンペーンが注がれる。食事も豪華、またアミューズメントもいろいろと完備されている。そして最大20人程度の乗客に対し2,3人の客室乗務員がサービスにあたる。窮屈な座席、無愛想極まりない客室乗務員が従事するエコノミーとは雲泥の差である。
過去に一度だけ、こんな幸運にあずかったことがある。とはいっても、もう10数年前の話だが、95年夏に米国から帰国の時だった。またいつか、こういうこともあるだろうと思っていたものの、それっきりだった。先に現地入りしている二人の相棒にちょっと申し訳ないと思いつつ、快適な空の旅を満喫した。
さて、帰りの便はそんな幸運に恵まれるはずもなく、普通にチェックインを済ませ、普通にエコノミーの座席に乗り込んだ。
しばらくして、後ろの日本人女性客がなにやら客室乗務員に文句を言っている。どうやら数人のグループで乗ったのに、座席を離れ離れにされて文句を言っているようだ。「申し訳ございません。当便は満席でしてお席の移動は出来かねます。」とひたすらなだめすかそうとする客室乗務員。こういうことはよくあることだが、さすがは(おそらく)大阪のレディー達、なかなか折れようとしない。ゴネ得を狙っているようだ。
しばらくの押し問答の後、その客室乗務員がこちらにやって来てこう言った。「恐れ入ります。後ろの座席のお客様にお座席をお譲りください。お手数をおかけしますが前の方にご移動願います。」
エコノミー2列目にいた自分にとって、前=ワールド・ビジネス・クラスを意味する。かくして離陸後安定飛行に入り、シートベルト着用のサインも消え、座席を移動した。隣にいた一緒に席を移ってきた学生らしき他の二人は目を白黒させているが、それを尻目に勝手知ったるビジネスクラス、さっさとノイズキャンセル・ヘッドホンを装着、リクライニングをグッと倒し、食事のメニューに目を通す。朝食の希望メニューに印を入れて係に手渡し、運ばれてきたシャンペーンで喉を潤わせた。
今年は10年に一度あるかないかの
当たり年に違いない。

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