2007年春のスペイン・ポルトガル・ツアーで最も印象に残ったことは、ポルトガルのグーベイアという田舎町で開催された、アート・ロック・フェスでのコンサートである。
これは毎年、世界各地からプログレ系のバンドを出演させるイベントのようで、この時は他に、マグマ、カリフォルニア・ギター・トリオ、パット・マステロットらのTUNERなどが出演していた。
ロバートは、「これがプログレ・フェスだと知っていたら出演を断っていた。」と言っていた。最初は何故そんなに、ロバートがプログレ・イベントを嫌うのか分からなかった。
さて、イベントは2日間にわたって開催され、われらがロバート・フリップ&リーグは2日目の大トリとしてブッキングされていた。
イベント初日の昼過ぎ、ツアーバスに乗ってホテルに到着したのだが、そのホテルは何と、イベント会場の真ん前であり、あたり一帯にはフリーキーな雰囲気のプログレ・ファンがたむろしていた。そしてバスの中のロバートを見つけると、皆、神様にでも出会ったかのような素振りを見せたのだ。
そこで初めて、ロバートがプログレ・イベントを嫌う意味が分かった。このあとどんな危険が待ち受けているかを想像すると、明日の本番が不安でならなかった。
そして、その夜ロバートを除くリーグ一行は、我等が仲間であるカリフォルニア・ギター・トリオ(以下CGT)の出番を皆で見に行った。
開演に際し、写真・ビデオ撮影は堅く禁じる旨のアナウンスがなされた。さて、本番がいざ始まると、ステージ最前列やステージ上後方にて、イベントのオフィシャルだろうか、カメラマン達が一斉に撮影を開始した。これはCGTも許可したのだろうと思って見ていたのだが、その振る舞いは目に余り、まるでカメラマン達は自分達のショーだと勘違いしているようだった。
普通、オフィシャル・フォトグラファーは目立たぬように黒服に身を包み、観客の視線をさえぎらない配慮がなされてしかるべきである。にもかかわらず、派手な服装でステージにまで上がり、大げさな動きでCGTの前後左右から無配慮に撮影を続けている。おかげで観客の集中力妨げられ、撮影したり、おしゃべりする者も出てきた。
CGTのコンサートそのものは、そういった妨害をものともせず、終始ショーアップされつつも、集中の途切れない素晴らしいものであった。
コンサートが終わり考えた。「もし、こんなことが明日起こったら、間違いなくロバートは激怒してステージを降りることだろう。また、狂信的なプログレマニアたちがルールに反して、写真を撮ったり、録音したりということも十分あり得る。またそういう連中の間をぬって会場に入りする時も危険である。」
さらに、サウンドチェックの時間も本番前のごくわずか、そして楽屋も非常に狭い。そこで、リーグのエルナンに助言した。「明日はステージ衣装で会場入りしよう。」
するとエルナンも同意、さらに彼は「ステージと客席の設定に問題がある。客席をステージに近づけ、弧を描くように並べ替えよう。そして開演前のアナウンスも、もう少し変えてもらおう。また、公式であれ撮影は一切禁止する。」
そして本番当日。ロバートをかばうように皆で楽屋入りした。サウンドチェックも短いながら無事終了し、開演前のアナウンスが始まった。「写真撮影、録画、録音はご遠慮ください。こうした行為は、皆様が想像するよりはるかに私たちの演奏に影響を及ぼします。何卒、私たちをサポートしていただくようお願い致します。」
さて、本番が始まった。聴衆の反応は素晴らしいものだった。皆、音楽に集中し、非常に好意的であった。リーグもこの日はタイトにまとまり、非常にいい演奏が出来た。心配された撮影行為もなく、ロバートもご機嫌な様子であった。作戦が功を奏したのだ。
一般にプロモーターは良かれと思って、客席を直線的に並べたり、ステージから変に遠ざけたりしがちである。また、撮影禁止のアナウンスも強圧的になりがちである。それが逆効果となり、コンサートがうまくいかないことがしばしばあるのだ。
以来、リーグは開演前のアナウンスをリーグ側の人間で行なうことにした。

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