自分にはこだわりのブランドと言えるものはほとんどない。逆に「ブランドにこだわらないことにこだわっている」のだ。
もちろん、昔からずっとそうだったわけではない。
最初にこだわったブランドと言えばカセット・テープだろう。今から35年ほど前は3つのメジャー・ブランドがあったが、最初はイメージだったり新商品が出たので試したいといった理由で、カセットを選んでいた。前述の3大ブランドで同価格帯なら、特に音に違いがあるとも思えなかった。しかし、その内の一社は回転系が弱いデッキで使用すると、すぐにテープを巻き込んでしまうという事故が多発した。それで残り2社に絞られたが、さらにもう一社もたまに巻き込むことがわかり、最終的に一社になった。
その次にブランドで買い続けたものはギター弦だった。中学時代はアメリカ製のギター弦は高くて、1セット買おうものなら小遣い1ヶ月分が吹っ飛ぶくらいだった。アーニー・ボールやフェンダー、ギブソン弦はセットで1200円くらいした。ヤマハなら800円くらいで買えたので、普通はそれにした。だが高校に入った頃、300円くらいの激安弦が登場し、大喜びで2セット買って帰った。しかしいざ使ってみると、サスティンも音のきらびやかさもなく、さらにすぐに切れるという粗悪品だったのだ。それっきり買うことはなかったが、それでも比較的安価な国産ギター・メーカーの弦を色々試してみた。しかし、そのいずれもがアメリカ弦の足元にも及ばないものだったのだ。500円でも1ステージ持つか怪しい位なら、800円出した方がよっぽどマシという訳だ。
それから5、6年くらいしてアメリカ弦はどんどん価格が下がり(1200円→800円→600円)、安心して使うことができるようになった。しばらくはアーニー・ボール弦をメインに使っていたが、ダダリオがエコパック(6本の弦をバラバラの袋ではなく一つにまとめ、ボールエンドの色で何弦かわかるようにしてあるもの。ゴミも劇的に少なくなり省資源、そしてさらに安い!)を発売してからは、もっぱらそればかり使うようになった。たまに冒険して高級な弦を買ったり、違うブランドを試したりしたのだが、ツアーの最中やライブ直前に予備がなくなった時に手に入りにくいのは困る。安くて便利、そして安定した品質がありがたかった。
しかし、それも数年前にコーティング弦が発売され、それを試すまでのことだった。コーティング弦は通常の弦の2、3倍の値段だが、3〜6倍以上長持ちするのだ。1本のギターだけ弾いているならいいが、数本のギターを月2回のペースで弦交換するとなると非常に面倒だし、コストも高くつく。その点、コーティング弦なら一度張ったら半年以上(頻繁に使わないギターなら一年以上!)交換しなくて済むので大助かりなのだ。
ところで、ギターを始めて数ヶ月〜数年の生徒にお薦めのギターは何かと尋ねられると、大抵フェンダーUSAのテレキャスターを買えと言い続けている。ブランドにこだわっていないと言っているくせに、大きな矛盾である。
自分がギターを始めた当時、フェンダーやギブソンは高嶺の花で夢のギターだった。しかし円高その他の理由により、35年前に30万円だったレス・ポールは20万円程度、25万くらいだったストラトキャスターは10万円台に、そして20万円だったテレキャスターは10〜15万円くらい買えるようになった。自分が高校生だった当時はバイトしても自給400円だったから月4万円稼ぐのが関の山だった。だから半年は頑張る必要があったが、今なら高校生でも2、3ヶ月頑張れば買えなくはない値段なのだ。そしてレス・ポールは手荒に扱うとすぐにネックが折れたりするが、テレキャスターなら放り投げても壊れることはない。万が一ネックが折れても簡単に別ネックに交換できる。さらに、フェンダーUSAなら下取りに出してもそれなりの価格で買い取ってくれる。
ちょっと待て、これではまるでヨーロッパの高級ブランド・バッグを買い漁る大阪のオバちゃんと同じ行動基準ではないか。しかし、実際どう考えてもテレキャスター以上にタフで、融通が利き、演奏性に優れ、そして手に入れやすいエレクトリック・ギターは他にはない。
そう、結局自分の商品を選ぶ基準は大阪のオバちゃんと同じだったのだ。ブランドで選んではいないが、たまたまブランドの方が有利だっただけなのだ。無名で壊れやすいブランドに3万円を払って捨てるぐらいなら、タフで融通の利くテレキャスターに15万円を払い、いざとなれば質屋に持っていくという考え方なのだ。
そういえば、スーパーで食料品を買うときも同じ原則に基づいていることを思い出した。ブランドよりも質、価格なのだ。うまい品種だとわかっていても、あまりに高いと買えない。少し前までは常にウチの冷蔵庫にはトマトが「常備」されていたが、最近全く買わない。というよりあまりに高すぎて買えないのだ。1個50円程度なら買うが、100円ともなると全く買えない。それならイタリアからの輸入トマト缶を買い込む。イタリア産にこだわるというよりも、100円で数個分のトマトが手に入るからなのだ。
ギターなら海外で安く買っても国内に非課税で持ち込めるのはせいぜい2本だが、バッグや洋服ならたくさん持ち込める。だから、ヨーロッパのブランド・ファッション店では日本人が大勢いたわけだ。今までは鼻で笑っていたが、やっと理由がわかった。
これからはヨーロッパに行く度に免税店でヴィトンのバッグを買い込むぞ。

1977〜79年頃のカセット。3大メジャー+1。フェリクローム46分に500円位払ったのも今では懐かしい・・・。

78〜79年のギター雑誌での広告。グレコはもとより、アリアもヤマハも当たり前のようにギブソン/フェンダーのコピー・モデルを作っていた。

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