自分の好きな食材を人に言うと、大抵「健康的ですね。」と言われる。例えば竹の子、わらび、ぜんまい、ふきのとう等の山菜系、そして湯葉、豆もやし、納豆などの大豆系だ。さらに野菜ではルッコラ、あとはひまわりの種、かぼちゃの種などのタネ類である。
こうして並べてみると、確かに健康的なものばかりである。しかし、実はそれ以外にも大好物があるのだ。
「食材」と言うと健康的だが、その「部分」や「調理法」となると話は違う。例えば「真っ黒に焦げたトースト」である。
同じトーストでもちょっと色づく程度のものはダメである。黒焦げトーストのあの苦味、そして香ばしさがたまらない。トーストに限らず焦げた食べ物は好きなものが多い。ご飯のおこげ、ピザから溶けて流れ落ち、カリカリになったチーズ、真茶色になったフライドポテトなどもそうだ。そういうのを率先して食べていたら、周りの人みんなに食べない方がいいと言われ続けているが、こればかりはどうにもならない。
そしてもう一つ、大好物がある。「油の乗った肉」である。霜降り肉も良いが、それくらいでは物足りない。真っ白なステーキの脂身が好みなのだ。
アルゼンチンでステーキと言えば「ビッフェ・デ・ロモ」と「ビッフェ・デ・チョリソ」というのがある。初めてアルゼンチンのレストランに行った時、その違いをルシアーノに聞いてみた。すると「ビッフェ・デ・ロモ」の方が上質な肉だと言われたので、その時はそれに従ったが、パサパサして物足りなかった。そして2回目は「ビッフェ・デ・チョリソ」を注文してみたところ、これこそが油の乗ったロース・ステーキだった。
しかし、自分にとっての秘密の好物はと言えばこんなものではない。それはずばり「脂身」なのだ。
すき焼きといえば、まず牛脂を鍋に塗りたくり、肉を炒め、そしてその他の具を入れて味付けをする。子供の頃、真っ先に箸をつけるものといえば、すこししぼんでしまった牛脂だった。あのとろけるような甘みと舌触りがたまらない。
しかし中学校に入り、友人宅ですき焼きをご馳走になった時、真っ先に牛脂を取ろうとしたところ、その家族全員が驚嘆の声をあげた。その後も、よそですき焼き呼ばれる度にそういう経験をしたため、牛脂は食べてはいけないのだと思うようになり、以降牛脂・脂身は封印してきたのだった。
しかし40を過ぎたある日、思い切って食べてみたところ、やはり自分はこれが好きなのだと悟った。他人に気持ち悪がられようと知ったこっちゃあない。そして自分にもこう言い聞かせることにした。「牛脂なんてほんの一かけら、わずか数グラムに過ぎない。高級霜降り肉をたくさん食べた方が油の摂取量ははるかに多いはずだ。」

ビッフェ・デ・ロモ

そしてビッフェ・デ・チョリソ

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