アルゼンチンの友人達がやっているジェネシスのトリビュート・バンド、レエル改めジェネティックス(アルゼンチン読みではヘネティクスか)のライブ映像をユーチューブで見た。
数ヶ月前から今回のコンサートの告知を見るにつけ、彼らがこんなことをやる理由が分からなかった。BigTimeというニュースタンダード・チューニングのギター・トリオで活躍する彼らなのに、うち一人はマイク・ラザフォード役(ベース)、そしてもう一人はトニー・バンクス役(キーボード)で参加しているのだ。しかし、先日行われたライブ映像を見て、そのクオリティの高さに驚き、そして合点がいった。
(「月影の騎士」収録の「ファース・オブ・フィフス」)
本物そっくりに演奏するコピー・バンドは日本でも数多い。しかし、最大の難点はボーカルである。特に外国人である我々日本人にとって、これはかなりの難関なのだ。
発音の問題は、英語を母国語としていない我々にとってはかなりハードルが高い。楽器の微妙な違いは一般にはバレなくても、歌の違いはごまかせない。そしてそれはアルゼンチン人にとっても同じことである。彼らの話す英語はかなり訛りが強い。
しかし、このシンガーはかなりいい線いっている。もちろん、ピーター・ガブリエルとは全く違うが、少なくとも聴いていて違和感はない。微妙な外し加減などもゲイブリエル風である。
しかし驚いたのは演奏の質の高さだけではない。なんとこの長尺な楽曲を観客が一緒に歌っているのだ。それもインスト・パートも含めてである。さすがはプログレが熱烈に支持されていると言われる南米である。もちろん自分だってその場に居合わせたなら、一緒にスティーヴ・ハケットのソロ・パートは言わずもがな、トニー・バンクスのピアノ・イントロ、間奏部、そしてエンディングのフェイザーまで人間ロータリー・スピーカー(スピーカー・ホーンが回転するかわりに自分が回る)になって歌ってしまっただろう。
そう言えば、先日のNHK−FMまる一日プログレ特集でかかったラッシュの「YYZ」(ブラジル?)ライブ・バージョンでも、インストにもかかわらず大合唱になっていた。きっとプログレにはラテンの血が騒ぐ何かがあるのだろう。
日本で今「プログレ」と言えば、ちょっと暗くて後ろめたいイメージだが、南米では全く違う。変拍子だろうが妖しい歌詞だろうが関係ない。複合拍子でもみんな手拍子、延々続くインスト・パートでも大合唱、そして終わるやスタンディング・オベーションなのだ。
これまで自分も二度のアルゼンチン公演旅行を行ったが、彼の国の聴衆は今までやってきた国の中ではベストである。アップテンポの賑やかな曲ではこれでもかと盛り上がり、しっとり静かな曲ではみんなしんみりと聴いてくれるのだ。
こんな聴衆ばかりを相手にライブ活動していたなら、アルゼンチンのミュージシャン達は国外ではさぞかし辛いことだろう。そう言えば初めてルシアーノが日本でライブをやった時のこと、あまりの静かさに驚いていた。きっとつまらなかったのだろうと落ち込んでいたら、ライブ後に会う人会う人みんな良かったと興奮気味に話しかけてきたらしい。
そんな彼も今では日本の聴衆に慣れ、みんな音楽に敬意を払ってくれていると解釈している。
それにしてもこのジェネティクス、衣装やレパートリーからすると1973〜74年頃をイメージしているようだが、シンガーのヘアー・スタイルだけは最近のガブリエルと同じスキンヘッドだ。

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