発表された時はあまり評価されないが、年月を経て名盤として扱われるレコードは少なくない。また後年再評価されるミュージシャンも然りである。
時代を数歩先取りしたレコードはヒットするが、数十歩先だと理解されない。逆に数十歩遅れていたら新鮮に聞こえるかも知れないが、数歩遅れていると流行遅れに思われてしまう。その時代の遥か先を行っていたり数歩遅れていても、時が経てばただの古い音楽として聞かれる。1970年と1977年は当時では大違いだが、今ではどちらもずっと昔のことであり、今の時代を反映しているなどとは誰も思わない。だから同じように並べて聴くことができるのだ。
トッド・ラングレンもある意味時代からずれた人であると言える。いや、むしろ十数歩進んでいるか十数歩遅れという中途半端な位置にいると思う。世間が打ち込み主流の頃は生バンド一発録りにこだわり、生が主流になったら打ち込みに走ったりもした。さらに今ほどPCが行き渡っていない時代に各曲のイントロ、ヴァース、サビ、間奏、エンディングといったパーツをバラバラにして聞く側が勝手に楽曲を作り変えて楽しめるCD-iソフトを発売したり、さらには音楽配信がまだ普及していない時代にCDリリースはやめて新曲はネットでの会員制ダウンロード販売だけ行うと宣言したり、相当ひねくれている。
今回の新作は、簡単に言えばカバー集である。しかし、これが単純なカバーではないのだ。自分がこれまでにプロデュースしてきた楽曲を自らカバーしてしまうという企画なのだ。トッド・ラングレンといえば、ソングライターであり、シンガーであり、ギタリストでもあり、マルチ・プレイヤーである。そしてレコーディング・エンジニアでもありプロデューサーでもある。彼がこれまでに手がけてきたミュージシャンも数多い。チューブス、パティ・スミス、ブルジョワ・タッグ、チープ・トリック、ニューヨーク・ドールズ、ジル・ソビュール、バッド・フィンガー、XTC、グランド・ファンク他、過去にプロデュースした他人の楽曲から15曲を選び、自分なりに料理してみたのが今作なのだ。
自らのライナーにはこうある。『最初どうアプローチして良いかわからなかった。(中略)最近のヒットを調べてみたら、その多くはたくさんの現代的なサウンド哲学を採り入れてはいるが、ダンス的なものに戻っていることがわかった。ある種、エレクトロニカ、ユーロポップ、そしてちょこっとR&Bをちょこっとのスープだ。かなり昔の「イニシエーション」や近作「ライアーズ」のように、エレクトロニック・ミュージックとして取り組んでみたら、ある意味容易になった。』だからサウンドの印象はこれらのアルバムに近い。ほぼ一人打ち込みで作り上げた「エレポップ」アルバムである。
自分が収録曲で原曲を知っていたのはほんの一部だったが、いずれも意表を突く仕上がりだった。これまで彼は、ヤードバーズ、ビーチボーイズなどを完コピした「フェイスフル」、ボサ・ノバ調に自らの楽曲をカバーした「ウイズ・ア・ツイスト」、全曲ロバート・ジョンソンをカバーした「トッド・ラングレンズ・ジョンソン」などがあったが、今回もいつもながら驚かされた。
しかし今年はカバー集が続いたので、そろそろ「ノー・ワールド・オーダー」ぐらいあっと驚かせてくれるようなオリジナル・アルバムを出して欲しいものである。


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