ジェフ・ベックがまたしても来日した。今回の大阪公演会場は我が家から徒歩10分のところにあるグランキューブである。
今回はリズム・セクションを入れ替え、ドラムはまさかのあのナラダ・マイケル・ウォルデンである。ついに本家による「レッド・ブーツ」を聴けるのかという嬉しさもあったが、昨年までのツアーメンバーでもあり、新作レコーディングにも参加していたヴィニー・カリウタ&タル・ウィルクンフェルドを替えてまでどうしてという疑問もあった。
オープニングは最近の定番になっているマハヴィシュヌ、コブハムの曲を連発。しかし驚いたことにギターの音がやたらと大きく、さらに変に軽い。ステージにはマーシャル・スタックが置かれているが、ヤマハのコンボで鳴らしたかのような音なのだ。いや、マクソンのD&Sを通したかのような低音が削られた音というべきか。そこがあまりにも気になりなかなか音楽に入っていけない。
さて続いては「レッド・ブーツ」。ナラダのドラム・ソロによるイントロが始まった途端、待ってましたとばかりに拍手が沸き起こる。さすがは「ワイアード」本家である。「あの」音だ。そしてギターが加わると、やはり軽い・・・がそのショボさがちょうど「ワイアード」バージョンで馴染んだあの感じなのだ。グリッサンド等でちょっと耳障りな音の感触が聴き馴染んだレコードのギターの音に近い。まさかこのためにわざわざこういう音作りをしたのだろうか。
自分の中でエレクトリック・ギタリストは、耳に痛い音を出すか出さないかの二通りに分けられる。耳に痛い音というのは単にトーンが硬いというわけではなく、黒板やすりガラスを爪で引っ掻いた時の音のように不快な音という意味なのだ。そして耳に痛い音を出すギタリストは自分の中ではアウトである。さらに好みのギタリストは、いずれも低音が効いた太い音を出す人達である。
そういう意味でもジェフ・ベックの出す音は好きなのだが、残念ながら今回はそうではなかった。聴いているうちに馴れるかとも思ったが、中盤に入り新作からのレパートリーや「ピープル・ゲット・レディ」、「ローリン・アンド・タンブリン」などが演奏されても全く音楽に入っていくことができなかった。
後半に入り「ブラスト・フロム・ジ・イースト」、「エンジェル」と続いたあたりでやっとバランスが改善されたのか、音楽に集中できるようになった。ギターに合うようにドラム、ベースの音量も上がってきたのだ。
続いての「ダーティ・マインド」は、自分にとっての今日のハイライトの一つになった。思い出したようにベックがギターを持ち替えたと思ったら(といっても同じような白のストラトだが)、このギターは半音下げチューニングだった。そしてナラダ・マイケル・ウォルデンのドラムソロも、ジェイソンによる「キーボード・パーカッション」の「伴奏」付で披露された。静かな曲では超有名プロデューサーとしての経験を生かした歌心ある演奏が中心だったが、ここではリムショットでカンカンに叩かれるスネアが気持ち良く響き、本職であるドラマーの健在ぶりを見せつけてくれた。
さて終盤にはテレキャスター(またはエスクワイアか?)が登場、ここで今さら「哀しみの・・・」かと思いきや、スライ&ザ・ファミリーストーンの「アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイアー」が飛び出して驚かされた。
しかし驚いたのはそれだけではなかった。アンコールでは黒(オックズブラッド?)のレス・ポール・モデルを持って登場、何とレス・ポール&メリー・フォードに捧げて「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」をやったのだ。ここではレス・ポールのスタイルそっくりである。そう、敢えて言ってしまうと、ベックのネタの50パーセントはレス・ポールである。レス・ポール・モデルを持ち、レス・ポール氏の最大のヒットをやっているベックの何と生き生きとしたことか。ここでハッと気がついた。彼がレス・ポール・モデルを弾かなくなったのは、レス・ポール・モデルを持つと思わずレス・ポールそっくりに弾いてしまうからではないだろうか。

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