結成40周年を記念して、34年振りにモット・ザ・フープルがオリジナル・メンバーにて再結成し、ロンドン、ハマースミス・アポロで5日間に渡りコンサートを行なった。
モット・ザ・フープルを知ったのは、1979年秋、ある知人からアルバム「ロックンロール黄金時代」を借りてのことだった。以来このアルバムは現在に至るまで、自分にとってのベスト・レコードのうちの一枚である。今では彼らの全てのアルバムがCD化されているが、79年当時はバンドが解散して既に5年が過ぎ、周りの誰も彼らのことを知らなかった。またインターネットも存在しなかったので、彼らのディスコグラフィー、経歴など全く不明だったのだ。自分にとっては幻のような存在だった。
さて、そんな彼らがオリジナル編成で再結成コンサートを行なうと発表したのは、昨年末頃のことだった。ちょうどZUMのツアーが9月に予定されていたので、それに合わせてロンドンに足を伸ばすのも良いかと思い、今年初めにチケットを押さえていたのだが、自分たちのツアーは11月に延期となってしまった。8月頃まで行くべきかずっと悩んでいたのだが、バルセロナでルシアーノと新曲の仕込みをしたり、イギリス在住の友人を訪ねたりと、他に用事(言い訳?)を作ってロンドンへ行くことにした。
少し早めに会場であるハマースミス・アポロ(以前はあのハマースミス・オデオンだった!)に到着、窓口でチケットを受け取り、近くのパブで時間をつぶす事にした。コンサートに来たと思しき連中が同じようにビールを飲んでいた。彼らのほとんどが、髪も白くまた薄くなった、ビール腹の50代不良ロックオヤジ達である。
さて、会場に戻りパンフレットを購入し座席に着いた。追加公演発売直後にチケットを押さえたので、端から5番目ながら2列目である。前座はデフ・レパードのボーカル、ジョー・エリオットがこの日のために結成したバンドで、レパートリーはモット・ザ・フープル解散後のイアン・ハンターの楽曲やモット、そしてブリティッシュ・ライオンズのアルバムからのカバーというマニアックなものだった。数年前のイアン・ハンターのライブDVDではしょっちゅうジョー・エリオットが出てきては鬱陶しく思ったのだが、モット・ザ・フープルの熱狂的なファンを公言する彼らしい選曲で、不良オヤジ達にも好意的に迎えられていた。
さて、セットチェンジの後、バンドを紹介するアナウンスに続き、昔と同じSEであるホルストの“木星”が流れると、高まる興奮は抑えることができなくなった。そしてバンド全員がステージに登場し、一曲目“Hymn For The Dudes”が始まった。事前に発表されていた通り、健康状態の悪いドラマー、バフィンに替わって、最初はプリテンダーズのマーティン・チェンバースがステージに上がった。続いてファーストから“Rock’n’Roll Queen”、そして“Sweet Jane”など(我々には)お馴染みのレパートリーが次々と演奏された。
声は若干衰えたものの、解散後もコンスタントに活動を続けていたイアン・ハンターを除き、引退同然だったメンバーばかりだったので、実は全く期待していなかったのだが、演奏は全く問題がなかった。元々ルーズで後ノリのビート、演奏テクニックも関係ないタイプのバンドだったので、少々のブランクでも問題がなかったのかも知れない。またマーティン・チェンバーズの起用も吉と出た。
中盤、即興でハンターがディランの“Like A Rolling Stone”のさわりを歌いだし、「この曲は40年前にこのバンドのオーディションで歌ったんだが、落とされるところだった。」と言うと、すかさずオヴァレンド・ワッツが「だから、今こうして入れてやったんだ。40年がかりのオーディションだ!」とやり返したり、“I Wish I Was Your Mother”の前では、「次の曲は多分皆知ってるだろうけど、ヴァースは歌うなよ。そこは俺が一人で歌うんだ。フックは歌ってもいい。もし歌ったら止めてもう一回やり直すぞ!」など、楽しいやり取りも続出した。
またハンターが「次はミック・ラルフスをフィーチャーして“Thunderbuck Ram”と行きたい所だが、それは肉体的に酷というもの。我々はミリオン・セラーは出せなかったけど、彼にはこれがある。」と紹介して、バッド・カンパニーでもリメイクされた“Ready For Love”をやった。また続いてオヴァレンドが歌う“Born Late ‘58”では、ひょうきんな彼が傘を開いて客席の方に走って行ったりという演出も登場した。
フィナーレではハンターがギターを置いてピアノに移動、バック・ボーカルには彼らの息子、娘達、そして元メンバー兼ローディのスタン、さらにミック・ロンソンの娘(亡き父にそっくり!)らが加わり、“The Golden Age Of Rock’n Roll”、“Honaloochie Boogie”、そして“All The Way From Memphis”で締めくくった。
メンバーがステージを去った後、クルーによってもう一つのドラムセットにかけられていた黒布が取り払われた。 そう、アンコールでは遂にバフィンも登場。歩くにも不自由なほどだったが、サポートのマーティンに伴われてキットの前に座り3曲を演奏した。’Roll Away The Stone’、‘All The Young Dudes’では場内大合唱、そして’Keep A Knocking’ではバフィンがソロでフィル・インをキメて見せてくれた。
2度目のアンコール、グランド・フィナーレには残念ながらバフィンは登場しなかったものの、バッキング・ボーカル隊を再度従えて“Saturday Gigs”を演奏、最後は大合唱の観客を残して演奏が少しずつ消えていき、メンバー全員がステージを後にした。
前座30分、本編2時間、合計2時間半のたっぷり堪能のステージだった。おそらく2度と彼ら全員が生きてステージに上がる事はないだろうし、それに参加できたと思うと感無量である。

(チケットは2列目!)

(パンフレットは£10)

(公演初日を収録したCDは£20)

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