2007年のロバート・フリップ・サウンドスケープ&リーグ・オブ・クラフティ・ギタリスツ米国東部ツアーでのハイライトの一つは、11月3日ニューヨーク州アルバニーのジ・エッグでのコンサートである。
ロバートのサウンドスケープとのツアーも前年のイタリア、同年春のスペイン、ポルトガル、そして(自分は参加しなかった)6月のアルゼンチンに続き、4度目となったのが、この米国ツアーだった。
さて、当初はプロモーター側に依頼し、開演前に写真・ビデオ撮影及び録音を控えるアナウンスを行なっていたのだが、強圧的なアナウンスが逆効果だと考えるようになり、アルゼンチン・ツアーではバンド側の人間(フェルナンド・カブサッキ)がスペイン語でアナウンスを行なうようにした。反応が良かったので、この米国ツアーではさらに一歩進めて、多国語によるアナウンスを行なうことをロバートが提案した。
多国籍編成のリーグから、英語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、日本語、ベンガル語、米語にて開演前のアナウンスを行なうことになった(ツアー前半の日本語は自分が担当した)。
開演10分前になると7人のメンバーがステージに上がり、英語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、フランス語、日本語、ベンガル語、米語にてアナウンスを行なう。その要点は、「写真・ビデオ撮影、録音はご遠慮ください。こうした行為は、皆様が考えるよりもはるかに深刻な影響を私たちの演奏にもたらします。」といったものだった。そして最後に全員同時に同じ内容をアナウンスした。単なる退屈な開演前のアナウンスを、ちょっとしたお楽しみにしたのだ。
さて、この日も開演前のアナウンスがあり、ロバートがステージに上がった。いつものように約10分ほどのソロ・サウンドスケープの後、リーグがステージに上がりセットを始めた。数曲を演奏しコンサートのハイライトの一つ、「ザ・ドライヴィング・フォース」が始まった。リーグの演奏にロバートのへヴィーなギターが加わり、盛り上がる…とその時、ロバートが突然ギターを置いて立ち上がり、ある一点を指差しながら客席に下りていったのだ。我々リーグは一体何事かと思いながらも、演奏を続ける他はない。後で聞いた話によると、ある男が客席で堂々と撮影し、カメラの赤いライトがロバートの集中を妨げたのだ。ロバートはその男に「開演前にもアナウンスしたはずだ!」と言うと、その男は「俺は遅れて来たからそんなものは聞いてない!」と開き直ったという。
セキュリティ達が駆けつけ、そしてロバートはステージに戻って我々にこう言った。「立ちましょう。」そして我々は、公演半ばでステージを去ったのだった。
その後、ロバートはホールのスタッフを捉まえて問い詰めた。「一体いつになったら準備は出来るのか?」しどろもどろになった彼を横目にロバートはこう言った。「もう一度、私がアナウンスをやります。」そして一人ステージに戻り、マイクを使わずに生声でアナウンスを始めた。さらに最後にこう付け加えた。「皆様が協力して頂けるなら、もう一度やり直します。」舞台袖に戻ってきたロバートは、「もう一度ドライヴィング・フォースからやり直そう。」と言って我々を再びステージに連れ戻した。
仕切り直しとなった「ザ・ドライヴィング・フォース」は、リーグはもちろんのこと、ロバートはいつもにも増してエキサイティングな演奏を繰り広げた。そして、その後は非常にテンションの高い演奏となったのは言うまでもない。


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