去る5月22日、ジム・ホールの大阪公演を見に行った。
会場はザ・シンフォニー・ホール。主にクラシック系のコンサートが開催される場所である。
コンサートの内容はさておき、主催者側の段取り・対応の悪さが気になるコンサートだった。
当日、会場には相方より先に到着したので、先に一人で入場しようと受付に行くと、座席を交換するという。どういう理由かは知らないが、持っているチケットよりは良い席になるということだったが、相方の席を覚えていないこともあり、そのまま会場前で待つことにした。
相方は開演5分前くらいに何とか到着し、二人で入場しようとした。チケットを渡し、席を交換しようとしていると、相方が手に持っていたものをカバンにしまうように言われ、会場外に出された。チケット交換に手間取ったこと、そして外にいた相方が再入場を拒否されたりする(チケットは交換のため既にカウンターに渡してあったので、当然手元にはなかった)ということもあり、ホールの入り口にたどりついたのは、開演時刻を数分過ぎてのことだった。
入り口ではスタッフに、一曲目が終わるまで中に入れないと言われたので、仕方なく開演に間に合わなかった他の十数名と共に、入り口前のモニターでコンサートの様子を見ることにした。ジム・ホールが一人で登場し、ソロで演奏を始めた。そしてその演奏も終わり、入ろうとしたが、係員たちはどこかへ行ってしまっていた。痺れを切らした別の客が、「入りますよ!」と怒鳴って慌ててやってきて言った。「ただ今からご入場ください。」
さて、やっとのことで自分の席に着いた。1階の真ん中辺りの良い位置に満足していると、ロン・カーターが登場、デュオで演奏を始めた。ロン・カーターは背筋もピンと伸び、ハイポジションで演奏しても、姿勢を崩さない。アレクサンダー・テクニークでもやっているに違い
ない。対して、ジム・ホールは昨年手術をしたとの事で、健康状態が心配されていたが、背中がすっかり曲がってしまっているのには驚いた。もちろん指さばきは素晴らしいのだが、椅子に座っているとは言え、すっかり歳をとって見える。もう80才近いのだから、当然と言えばば当然だが、いつも新しいことを取り入れては、我々を驚かしてきただけにショックである。
そしてロン・カーターは退場、変わってピアノ、ドラム、サックス、そしてベースの4人が登場した。サックス、ピアノと入って、いざギターが入った瞬間、「おや?」と思った。ギターだけピッチが低いのだ。ただホールの音響のせいもあり、しばらく全体で演奏していると慣れてくるのだが、ギターが抜けたのち再び加わったり、ピアノ・イントロで始まった後にギターが加わったりすると、明らかに違和感がある。
おそらく会場のピアノは442〜443Hz位に調律されているのに対し、ギターは440Hzでチューニングしているに違いない。それがかえってギターを際立たせていると言えなくもないが、厳しい場面も多かった。コントラバスはどちらに合わせるか迷いもあったのかも知れないが、ピッチが若干不安定だった。
ジム・ホールは背後の譜面台にワーミー・ペダルを置き、オン/オフやプログラム切り替えするたびに、よっこらせと振り返ってスイッチを押す仕草が微笑ましかった。そう、ピッチシフターとしてワーミーを使用し、オクターブ、5度などのハーモニーを重ねて演奏していたのだ。
ピアニストがバルトーク的なインプロヴィゼーションを繰り広げていた16小節のブルース進行の曲"Careless"、そして、曲名を忘れたが一部最後の曲での演奏が気に入った。
他のメンバーが去り、ジム・ホールが「また戻ってくるよ。」と言ったので、一部終了して休憩なのだなと思っていたが、何の場内アナウンスもなく突然ステージが暗転した。そして車椅子を押した係員らがステージ中央に向かい、ジム・ホールを連れに出てきた。その間席を立つに立たれず、その様子を見守るしかなかった。どうして他のメンバーがステージを去る時にジム・ホールも連れに来なかったのか不思議で仕方がなかった。車椅子に乗せる姿を見せたくなかったのか?それともジム・ホールがそうするように指示したのか?または一部終了が分かっていなかったのか?全く無意味な演出に感じられた。
さて、15分ほどの休憩が終了し、今度はロン・カーターを含む5人に加えて、16人編成のストリングスが加わった。そう、今回はあの「アランフェス協奏曲」を、ストリングスを加えて演奏するということだったからだ。ジム・ホールが「大阪ストリングス」と紹介して、まずは「ジャンゴ」を演奏した。
その「大阪ストリングス」の音はPAのEQのせいか、中高域が耳ざわりだった。この会場ではそんなEQは不要だったのではないだろうか。そしてクライマックスの「アランフェス協奏曲」と続く。やはりジム・ホールだけ明らかにピッチが低い。その狭間で迷いもあったのだろう、ストリングス隊のピッチも悪い。「現場調達」のミュージシャンとは言え、難しかったに違いない。
そして満場の拍手に応えてアンコールを披露。最後にまたもステージが暗転し、車椅子を押したスタッフたちが登場し、ジム・ホールは去っていった。
会場では、今回新たにアレンジされた「アランフェス協奏曲」のスコアが販売されていたので、迷わず購入した。
さて、車椅子ながらも健在なジム・ホールを見れたことは嬉しかったし、ぶっつけ本番とは言えストリングスを加えた編成で、それもアコースティックには定評のシンフォニー・ホールで聴けたのは、リッチな気分を味わうことが出来たのだが、ストリングスの人数を削ってでもビルボード大阪などのクラブでのギグにすべきだったのではないかと思う。
また元気な姿で来日してくれることを心から望む。



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