自分は鈍いのか、全く霊体験をしたことがなかった。だから25歳のある日、「一切の心霊現象・幽霊の存在を信じない」宣言をした。
しかし、それから数年たったある夜のことだった。
深夜に友人に車で送ってもらっていたのだが、家まで半分くらい来た辺りで、突然彼は脇道にそれた。そしてこう言った。「ここら辺でええかな?」何が良いのだと聞き返す間もなく、彼はいきなり抱きついてきたのだ。彼にそんな趣味があるとは知らなかった。普通にガールフレンドもいるし、まさか・・・。助けてくれ!
と叫んだところで目が覚めた。ありがたい事にそこは車の中ではなく自分のベッドの上(もちろん自分一人)だった。
「何だ、夢だったのか。」とホッとした。それにしてもリアルな夢だった。夢が覚めても彼が乗っかってきた右半身がまだ痺れていた。しかしホッとしたのも束の間、今度は何と金縛りに襲われたのだ。
話には聞いてきたが、金縛りを体験するのは生まれて初めてのことだった。おお、これが金縛りなのかと初めはちょっとワクワクしたが、夢で彼に覆い被さられた右半身がまだ重い。何かにのしかかられている感触なのだ。それも明らかに人間のようなものだ。「そうか、それであんな変な夢を見たのか。」と金縛りに遭いながらもひとり納得した。
体は動かないが、何とか覆い被さっているものを見ようとした。なかなか見えないが、目玉だけは動かすことができた。四苦八苦した末に見えたものは、何と白装束の老婆の姿だった。もちろん自分の知り合いでもない。
何とかこの場を切り抜けねばならないと、体を捻ろうとしたり声を張り上げようとしたが、出来る事と言えば目玉を動かすことだけだった。そうこうするうちに老婆がどんどん体重をかけて押さえ込んできた。右肩が圧迫されて痛い。どうしたらこの窮地を逃れられるのか。
それからしばらくもがき続けた末に、やっとの事で金縛りが解けた。するとその老婆も姿を消してしまった。心霊現象など信じないと言った自分だったが、遂に体験してしまったと思った。
翌朝、自分が体験したことをじっくり考えてみた。確かにあれこそが「金縛り」と呼ばれるものだ。だが本当に老婆の姿を見たのか?正面の入り口ははっきり見えたが、布団の上にかぶさっていた老婆など実際には見えなかったはずだ。体が痺れていたので、その感触で勝手に老婆を作り上げていたに違いない。脳の一部は覚醒していたが、他の部分はまだ寝ていたのだと思う。
やはり幽霊なんて信じない。

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