自転車は白塗り 娼婦らの明け方
繁華街から少しはずれた橋のたもとの暗がりに、白塗りの自転車が立つようになって十数年になるという。もう若くない自転車の白塗りはまだらに錆が浮き、明け方まで立っていても客のつくはずもなかったが、市役所の職員が粗大ごみとしてどこかへ持ち去っても、また次ぎの日も、老いた白塗りの自転車が、まだらの錆を隠すふうもなく客待ち顔で立っていたらしい。
そして、明け方まで客のつかなかった娼婦らは舌打ちし、口々に誰かをののしりながら、思いっきり自転車を蹴飛ばして塒へ散ってゆき、白塗りの自転車は自らの不条理を訴えるすべもなく、また市の職員に片付けられてしまう。・・という読みは乱暴すぎるが「白塗りの自転車」は哀愁の漂う身体的映像と重なり、「娼婦らの明け方」にリァリティを与える。そして、娼婦であったはずの「白塗りの自転車」に、やがて錆だらけの良祐がクローズアップされてくる。

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