次はがらっと趣向を変えて、中村錦之助の「関の弥太っぺ」。「瞼の母」「沓掛時次郎」「鯉名の銀平」など長谷川伸原作の股旅ものには情念を掻き立てる美学があって、何度も映画化され、時代劇スターにとって長谷川伸は一つのステータスでもあった。言うまでもなく中村( 萬屋)錦之助もそのすべてを演っていて、特にこの「関の弥太っぺ」は、白塗りの二枚目の「錦ちゃん」からの脱皮を図っていた頃で、監督内田吐夢を得て、彼の代表作となる「宮本武蔵」シリーズを作った頃と前後する作。
ストーリーは単純で、「瞼の母」は母との再会が物語のクライマックスだったが、「関の弥太ッぺ」は物語の前半に妹の消息を知る弥太郎の姿と、妹の死を境に、錦之助演ずる弥太郎が、がらりと雰囲気を変えてしまうところが見もの。若くてツヤツヤしていた売り出し中の渡世人が、喧嘩出入りに金で雇われる凄腕の殺し屋になっている。黒く日焼けした顔に、髪もぼうぼう。これを錦之助が演じているからたまらない。

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