巻頭評論は「ノエマ・ノエシス」主宰、高鶴礼子の力作「垂足の龍ー川柳人・中山秋夫さんの生涯」。中山秋夫さんは19歳のときハンセン病発症し、岡山県邑久光明園に収容され、2007年ついに故郷へ帰ることもかなわず、その生涯を閉じた。
私もかつては島に渡って、島の人たちとの交流句会にも何度か参加したことがあり、中山さんの句集、あるいは他のハンセン病に苦しむ方の句集も何冊か手にしているのだが、何か違うメッセージを書いてしまいそうでペンを持つことができなかった。事実、彼らの句集や作品に、温かい愛と、やさしさの上滑りする自己満足のメッセージや評を何度も読んでいるだけに、私自身が書くことを怖がっていたのかも知れない。
しかし、高鶴礼子の論は、真正面から中山秋夫さんと作品を捉え、まばたきもしない真摯な姿勢が、論の隅々にまで行きわたっている。多くの人に読んで欲しいが、その論をここで紹介することはできない。せめて中山さんの作品のいくつかをここに残したい。
人買いは渡ってこない島の橋
大空へ偽名が消えて行く煙
沈む日へ祈るしかない生をもつ
受けるだけただそれだけの手の疲れ
五時の鐘夜の長さを渡される
もういいかい骨になつてもまあだだよ
足と手と目までも借りて命とは
今更をもらう無菌の検査メモ

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