40年近く、毎月届けられる川柳誌は半端な数ではないが、それらはどこかにうず高く積まれているはずで、探せば見つからないはずはないが、「川柳展望」だけは創刊号から会員をやめる時までの全部を、私の貴重な財産として手の届くところにきちんと置いてある。調べることがあって創刊号を開いてみたが、新子の、冬二の、芙巳代の、俊平の匂いが誌面からたちあがったくる。
私は4号か5号からの購読で、創刊号から何冊かは前田芙巳代さんにいただいたものである。
「鍵町日記」時実新子
「昭和50年2月17日、うたた寝からガバと覚めた。覚めて私は郵便局へ走った。往復ハガキ50枚。趣意書配布などどうしても出来ない私は、その夜から正座して一枚一枚一対一で私の心を伝える作業にとりかかった。会って一日中話しても人が人を理解することは難しいのにハガキ一枚。この一枚に私は祈りを込めてポストした。」
「展望丸は総員95名で今印刷所へ入る。乗り遅れた人は岸から手を振ってください。あなたを乗せてまた出航します。快い海の風です」
この「昭和50年2月17日」が事実上「川柳展望」創刊へ向けてのスタートの日である。
巻頭は冬二百句。特別作品は前田芙巳代、寺尾俊平、橘高薫風など。この作品は後日紹介したいが、新子作品は一般会員の末尾に置かれている。
清算や桜前線襲いくる
ころがしてころしてしまう雪だるま
かなしみが流れる電車カーブして
偶然に死にゆく人の手を握り
魂は牛の野を抜けきった頃
四時の家秘かなものは煮えつづける
木の花の科は逢うても別れても
さくらかな大方の矢は胸に受け
むかし大昔の蟇も裏切られ
人の子のその子の果ての顔かたち

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