「木馬」123号より
こぼれ萩指紋を一つ失えば 吉尾光生
交差する刃物の先にゴッホの眼
右岸から左岸に伸びる耳の影
暗号はZ 車窓は下りたまま
実南天そんなに赤くならずとも
羊羹に歯形を残す青芒
何年か前、確か玉野川柳大会の前夜祭でお目にかかったころは、まだ日常の見たもの、感じたものをそのまま言葉にするのが精いっぱいの好青年だったように記憶しているが、外に向いていた目が、自分の内側に向けられ随分と句が深くなった。好作家ぞろいの「川柳木馬」という土壌でことばを吸収し、有形無形の刺激を受けながら、着実に自分の川柳にしてゆく。次号でどんな作品を見せてもらえるか。楽しみに待ちたい。

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